幕間 とある公爵令嬢の日記
10月15日
最近、ノア様の様子がおかしい。お茶会でもぼーっとしていて、私と目を合わせてくれることが減った気がする。エイダさんの話をすると、気まずそうな顔をする。
もしかしたら、エイダさんのことが好きなのかもしれない。
でも、当然よね。エイダさんは聖騎士で、私は何の力もないただの女。もし、私が聖女だったら……伝説みたいに、未来をみる力や浄化の能力を持った特別な人間だったら。こんなふうには、ならなかったのかしら。
……いえ、そんなことを考えても仕方ないわ。
このままノア様との婚約が白紙になったら、お父様とお母様になんで言えばいいのかしら。女である私は、妻として夫を支えること以外、ノア様の妻になる以外の将来なんてないのに。
10月26日
今日、図書館で本を読んでいたら知らない男性に声をかけられた。最初は困惑したけれど、話していたら悪い方ではないみたい。きっとこの話をしたらガブリエルは嫌がるだろうけど……。
12月25日
今日の聖祭で、ノア様はエイダさんと笑い合っていた。私とも踊ってくださったけど、どこか義務的に感じられて。ガブリエルは気にすることないと言っていたけれど、私にはそうは思えない。もし、もし本当に婚約を破棄されたら……私は、どうやって生きていけばいいのだろう。
1月29日
今日、エイダさんが辺境伯領で大きな手柄を挙げたらしい。国王様も大層お喜びで、聖騎士の力を讃えていた。
彼女は私と全然違う。強くて、誇り高くて、美しくて。このままじゃ、私……本当に、ノア様に捨てられてしまうかもしれない。
ガブリエルは大丈夫だと言ってくれるけど、あの子の優しさに甘えるわけにはいかないもの。
3月30日
ノア様に、王宮で話がしたいと呼ばれた。苦しそうな顔をされていて、私と目も合わせない。
周りの侍女たちは、「ついに婚約破棄されるのかしら」なんて事を言っていて。聞こえてないと思っているのかしら。あんなに大きな声で話しておきながら。
……本当はこの手を使いたくなかった。でも、私にはもうどうすればいいのかわからない。ガブリエルはずっと励ましてくれて、「姉さんのことは俺が守る、俺が支える」と言ってくれる。もし彼が婚約者だったら……こんなふうに、悩まずともすんだのかしら。
いえ、彼はあくまで義弟。私の人生を背負わせるわけにはいかない。例えガブリエルが、それを望んでくれたとしても。
『Soul Pact Incantation』
魔族語でそうかかれたこれは、どうやら降霊術の一種らしい。願いを叶えられる人格を持った魂を体に憑依させ、目的を達成させたら体が戻ってくる。それまでは、共有した視界から外を見ることしかできないんだとか。
私には……この禁術しか、残されていない。
恐ろしいと思う。戻れなくなったらどうしようかと。痛いのも嫌だ。でも、そんな事を言ってはいられない。
成功する事を祈って……この日記を、終わりにしようと思う。




