第五十話
静まり返った会議室。張り詰めた部屋の空気が妙に重く感じられた。
「フロンティエール周辺は完全に討伐が完了、ボスが巣にしてる軍の訓練場へのルートはさっき説明した通りになります」
左正面に座るノア様はテーブルに置かれた地図を指でなぞり、その場の5人の顔を見渡す。
全員が、その言葉に静かに頷く。あのガブリエルさえもベタベタとくっつくことなく、真剣な顔をしてあたしの右手に控えていた。
「あとは……ボスをどう攻略するか、か」
「えぇ。相手はドラゴン系のS級モンスター。魔法は使いませんが、ブレスや打撃、飛翔など攻撃手段が幅広い事が特徴です」
「厄介だな。しかも同系統のA級が2体いんだろ?」
「……その可能性が高いかと」
「その上先に3体のうちどれかを倒そうとすると他のドラゴンが加勢に来て壊滅する、と」
ノア様は眉をひそめ地図に視線を落とす。
「えぇ……数年前何度か討伐を試みたようですが、当時は戦力不足でできなかったと」
不安げに瞳を揺らすノア様。あたしはその肩に、そっと手を触れる。
「だが今は状況が違う。あたしもいるし、エイダだっている。今のあたし達なら勝てる。そうはおもわねぇか?」
「ジュリ……」
「あたしに任せとけ。お前のことを守るために、あたしは強くなったんだから」
ノア様は僅かに頬を染め、口元を綻ばせる。
「ありがとうございます。ここで、この戦いに終止符を打ちましょう」
「そう来なくちゃな」
あたしはそのまま地図――訓練場の全体図に視線を落とし、指を這わせる。
「まず、役割分担だ。A級がいんのは渡り廊下を通って左側にある武道場。そいつはあたしとヘンリーがそれぞれ一体ずつ担当する。ヘンリーもそれでいいな?」
ガブリエルはガタリと音を立てて動く。だがあたしが視線をそちらにやると、ふっと俯いて拳を握った。
流石のガブリエルも今回ばかりは真剣にならざるを得ないらしい。
「……俺は、それで構わない」
左側から聞こえるヘンリーの声。それは心なしか普段より硬い。
こいつでも緊張とかすんだな。……まあ、当然か。
今回は実質ラスボス戦と言っていい。しかもS級なんてゲーム中でも登場したことがねぇ超強敵。気負うなって方が無理な話だ。
あたしは軽く息をはいてから、奥にある屋外スペースへ指を這わせる。
「できるだけ早くA級を仕留めて合流する。……それまでノア様とエイダがS級の足止めを頼みたい」
エイダは大楯がある分防御力が高え。耐えるならタンクの存在は必須だ。エイダとの戦闘経験はノア様が一番多いし、この形が一番妥当だろう。
ノア様はこちらをみて、こくりと静かに頷いた。
「私もそれで構いません。……ここで、この戦いに終止符を打ちましょう」
エイダは珍しく目を伏せて、硬い声音でそう呟いた。
「ガブリエルは要塞の壁上からその補佐をしてくれ。確か手前にある補給所や屋内スペースから出られるんだろ?」
「あぁ、そのはずだ。……ジュリに必要なのは俺だって、この決戦で証明してみせる」
ガブリエルは静かに、しかし強い声音でそう返す。
「……決まりだな。あとは、倒すだけだ」
あたしの声が、静かな部屋に溶けていく。
きっとここが、最後の戦場なんだろう。
ここにいる全員がわかってる。長く続いたこの戦いが、明日で終わるということを。
この恋も、この討伐も。様々な気持ちが渦巻く最後の戦いの火蓋が、この時きって落とされたんだ。




