第四十五話
昼間にも関わらず賑やかな様相と、最近すっかり見ることが減っていた粗野な振る舞いの人間達。鼻腔をくすぐる肉の焼ける香りに胃袋がくるくると音を立てる。
ちらりと一瞥したテーブルの上に置かれている料理は焼かれただけの肉や居酒屋の一品料理のようなシンプルなものが多い。
ゲームの世界だからか酒場でも料理の水準は現代日本と変んねぇな。
そのままツカツカと歩をすすめどかりとカウンター近くの椅子に腰掛ける。慣れない様子のノア様とエイダもそれに倣って行儀良く座った。
「マスター、茶ってメニューにあるか?」
エプロンの似合わない鍛え上げられた腕をカウンターにおいて、正面の男はこちらを向いた。
「はいよ、アイスティーでいいか?」
あたしは視線だけでエイダとノア様を見る。2人は特に否定する事もなくこちらを見ていた。
「あぁ、3人分な」
「あいよ。……嬢ちゃん達、見ねぇ顔だな。こんな外れの街に来るなんざ物好きだね」
マスターは手際良く茶を用意して、こちらを伺うようにそう尋ねた。
「まあ、仕事でな。……魔物の危険に晒されてる割に活気がある。いい街だな」
「たまたま運が良く魔石の鉱脈が見つかったからな。どうせ嬢ちゃんもそれ関連で来たんだろ?」
「まあ、そんなところだ」
「まさかこんなことになるとはなぁ。最初町長が占いに傾倒し始めた時はどうなることかと思ったが、まさかそれで鉱脈当てるなんて誰が予想したよって話だ」
豪快に笑うマスターの話に、あたしはぴくりとこめかみを揺らす。
「占い?」
「嬢ちゃんしらねぇのか? 一年ちょっと前にふらっと現れた占術師がいてな。そいつが鉱脈の存在を当てたのさ。ローブ被ってて、髪の色どころか男か女かもわからねぇやつだった」
マスターは興奮した様子でペラペラと話を続ける。
「しかも鉱脈の存在が見つかったらそいつはぱったり来なくなってな。まるで御伽話みてえだろ?」
あたしはチラリと横を見るが、ノア様達はふるふると首を横に振る。どうやら中央には来ていない情報らしい。
「へぇ、面白ぇ話だな。その占い師、本当になんの特徴もなかったのか?」
「あ? あー……そういやあ、そいつは黒い手袋つけてたんだが……その上に、ブレスレッドつけてたなぁ」
「ブレスレッド?」
「あぁ。ほら、今嬢ちゃんがつけてるみてぇなさ。シルバーのチェーンに、紫の石がついてたんだ。もっと石がデカかったけどな」
あたしは自分の手首を見る。その特徴は転生してからずっとついたままのこのブレスレッドとどこか似ていた。
ただのありふれたブレスレッド。そのはずなのに、何故か偶然だとは思えねぇ。
「ふぅん……そいつ本当に人間か? 魔物にでも化かされたのかってぐらい得体がしれねぇな」
「ははっ、嬢ちゃん中々いうなぁ」
「だってそうだろ。特徴がなさすぎる。他になんかねぇのかよ」
「他に?」
マスターは腕を組んで髭の生えた顎を揉む。それからうんうん唸りながら、絞り出すように言葉を紡いだ。
「あー、いつもくるのは夜だったな。結構な頻度で町長に会いに来てたんだが、何故か満月の夜だけは一度たりとも来なかった。だから魔物って話も、強ち間違っちゃいねぇかもな」
「満月の夜に……?」
満月の夜に姿を見せない? そんなの、まるで……。
口の中に何もないはずなのに、ごくりと喉が鳴る。
いや、それこそ偶然だ。たまたま、満月の日に来れない何かがあっただけ。
そう捉えるのが自然なはずなのに……。
何故か頭の中では、警鐘がひたすら鳴り響いてやまなかった。




