第四〇.五話
移動してきた新しい宿舎。昨日までとは違う簡素なベッドで、あたしはゴロゴロと何度も寝返りを打つ。
あの後救護担当が声をかけてきたから何事もなかったけど……もしそうじゃなかったら、あたしはどうしてたんだろう……。
あの時のあたしは、正直大分おかしかったと思う。治癒魔法のこともすっかり忘れてヘンリーの鎧を脱がせたり、あんな風に止血したり。
ヘンリーがなんか迷ってんなって思った時にちゃんと思い出しときゃ、あんな真似せず済んだのに……。
しかもあの後、ヘンリーは治癒魔法を拒否して、このままでいいって。……あいつ、何考えてんだよ。
処理しきれない出来事が、ぐるぐると頭の中を巡る。
最近は毎晩こんな感じだ。横になる時間だけが増えていく。
ずっと、ノア様だけが好きだった。好きな、はずだった。
なのにヘンリーの諦めないって言葉に浮かされて。
それが、嫌じゃなくて。
あたしの気持ちはこんなもんだったのか?
あたしは、そんな軽薄な人間だったのか?
あたしは……今まで、ノア様のために生きてきたんじゃないのか?
脳みそが理解することを拒否する。手が震えて、息が詰まって、目の前が、霞んでいく。
いつもなら聞こえるあいつの言葉すら、今日は何一つ思い浮かばなくて。
「あたしは……どうすればいいんだ……」
ぼそりと呟いた言葉に答える人間はいない。
暗闇に溶けて、沈黙に覆われて。
それが、ひどく寂しくて。
「もう、わかんねぇよ……」
震えた声が、空気を揺らす。子供みたいに泣きじゃくって、ぎゅっと体を縮こませる。
瞼の裏に思い浮かぶのは、いつも寄り添ってくれた、2度と会えないあいつの笑顔だけ。
「なぁ……教えてくれよ――ルカ」
いつも助けてくれた親友の名前をそっと呼ぶ。
答えるやつは、もう、そばにはいないのに。




