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第二十二話 二つ名

「これでここも片付いたな。次行くぞ」


ぐるりと周りを見渡す。目に映る複数の廃屋と、特に問題なさそうな部下の兵士たち。

あたしは拳についた血を振り払い、コキコキと首を鳴らした。


「はっ、はいっ……!」


あたしより年上であろう男達があたしの背後にゾロゾロと集まる。


1週間経つとこの異様な風景にもだいぶ慣れてきた。部下8人つれて指揮官やれって言われた時はどうなるかと思ったが、やることはケンカの上位互換みてぇなもんだ。案外何とかなる。


『こちら2班。町内第10から15区画掃討完了。持ち場は終わった、救援が必要な区画はあるか?』


魔道具に話しかけると、しばらくしてザザザッ……というノイズ音が走った。


「こちら4班! ただいま19区画にて中級2体と交戦中! 至急援護を要請する!」


『了解した、すぐ向かう』


あたしは後方にくるりと身を翻し、声を張り上げる。


「19区画、中級2体! 援護に向かう、着いてこい!」


頭に叩き込んだ地図を素早く脳内で展開し、部下がついてこれる速さで道を走り抜ける。ガタガタに荒れた道が、魔物との戦闘の激しさを物語っていた。


17区画も目前に迫ったその時、耳につけた受信用の魔道具から再び音がする。


『こちら一班。1〜9区画の掃討完了。19区画の援護に向かう』


どこまでも淡々としたヘンリーの声。無意識のうちに頰が引き攣る。


あたし達の倍の面積担当してたはずだろ! なのになんでほぼ同時に終わらせられんだよ……!


グッと奥歯を噛み締めーーーそのまま、目の前に現れた中級と思わしきでかいゴリラもどきに拳を叩き込む。


バキィッ!!


小気味いい骨が砕ける音と共に4メートルほどのゴリラが地面にのめり込んだ。拳を起点にして無花果のように弾けるゴリラ。赤黒い液体があたしの頬を濡らす。


拳を浮かせた瞬間にぐちゃりという音が細くを揺らし、生温かい柔らかな感覚が拳を包む。まるでこねすぎた肉ダネに手を突っ込んだような、そんな感覚。


……気持ちわりぃ。


そのままゆらりと状態を起こし、ざっと周りを確認する。


向かって右の東側家屋前の中級1体はほぼ無傷、対応する4人は立つのもやっと、その奥にモロに攻撃をくらったと思わしき3人の戦闘不能者。まばらにいる下級は約6体、西奥が多いな。中級と一緒に攻撃されたら厄介だ。


「1から5番、西側奥! 6,7番は他の雑魚を狩れ! 8番、東家屋前負傷者の救護。中級はあたしが仕留める、4班は下がってろ!」


声を張り上げ簡易に指示を飛ばし1ヶ月前に苦戦していたクマ型の魔物に走り寄る。あの時よりも大きい4メートルほどの巨体はこちらを見てぐっと顔を歪ませる。


そこに浮かぶのは、明確な恐怖だった。


「悪ぃけど、今のあたしの敵じゃねぇよ」


あの時よりも素早く、迷いなく。眼窩をかき混ぜ、脳を貫く。そのままぐちゅりと音を立てて頭蓋骨の内側に手を入れたあと、グッと腕を引き抜き後方に跳躍する。数回びくりぴくりと痙攣するクマ。その巨体はあたしがスタリと地面に着地したと同時に、ズシンと大きな音を立て地に伏せた。


腕についた血を振り払い、腰を抜かしている兵士達を見下ろす。


「お前ら、無事か」


呆気に取られた様子の兵士たち。彼らは口を開けたまま何も言わない。


……とりあえず問題はねぇだろ。


勝手にそう結論付け、あたしは踵を返し西側へ走り出す。雑魚の脳天に膝を叩き込む。拳を打ち込む。回し蹴りで他の雑魚の元へ吹っ飛ばす。流れるようなその作業も、体が慣れればどうと言うことはない。


ものの数分で喧騒に塗れた戦場に沈黙が落ちた。勝ったはずなのに、周りはどこまでも静かで。


沈黙を破ったのは、先程救援を求めてきた男の声だった。


「嘘……だろ……」


それを皮切りに、にわかに周囲がどよめき出す。


「中級二体を瞬殺……?」


「攻撃が見えなかった。何があったんだ?」


「本当に訓練して3ヶ月であんな風になれんのかよ……」


怯えた兵士たちの視線。それはモンスターではなく、あたしに向けられていて。


「これが……狂戦士、ジュリアンナ・カーター……」


戦場に響いたその言葉。

それが、今のあたしへの評価だった。

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