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第二十一話 フォスター邸と謎の本

窓から見えるどんよりとした厚い雲に覆われた空。延々と続く廊下を歩きながら、あたしはため息をついた。


「本当にデケェ屋敷だな」


一階から順番に食堂、客間と見てきたがこれだけ広いと迷いそうだ。というか使うのが不便すぎる。


「カーター家の本邸も似たようなものだろう」


前を進むヘンリーは、振り返ることもなくスタスタと歩いていく。


んなこと言われても、あたしは王都にある別邸しかしらねぇんだけど……。


「2階の奥には俺や両親の部屋がある。手前にあるここは図書室だ。好きに使ってくれ」


「図書室?」


「あぁ、確かお前は本が好きだろう」


「……まあ、それなりに?」


そういやジュリアンナは読書家って設定があったな。あたしも多少本は読む。こっちの世界の教養としても、目を通しとくのはアリだ。


「なぁ、先生。時間あんなら寄っていいか?」


ヘンリーは静かに頷いて両開きの扉を押す。きぃ、という小さな音とともに開け放たれた扉。その向こう側には、天井まで埋め尽くす無数の本が整然と並んでいた。


すげぇな、こんなに本あんのかよ……!


数歩進んで中に入り、ぐるりと部屋の中を見渡す。


ただの本なら並んでてもなんとも思わねぇ。けど、まさに異世界って感じの渋い表紙が並んでいるとテンション上がるな。


本を眺めながら奥へ奥へと進んでいく。突き当たりを右に曲がろうと、くるりと向きを変えーーその先で人影のような何かが一瞬うごめいた。


なんだ……?


あたしは足早にそちらの方へ向かい、影が隠れた本棚の間をひょいと覗き込む。


「何もいねぇ……」


その呟きは、本の隙間に吸い込まれて消えていった。


「ジュリ、どうした?」


「いや、なんでもねぇよ」


後ろをついてきたヘンリーにそう答え、付近の本をまじまじと見つめる。


「……ん? なんだこれ」


あたしの視線を惹きつける、男の変哲もない一冊の本。


色は地味な緑で、タイトルも何も書かれてねぇのに……なんで、こんなに気になるんだ?


まるで魔法でもかけられたかのような、手を伸ばさずにはいられない不思議な感覚。あたしはゆっくりとその本を手に取り、パラリとページをめくる。


「なんだこれ……? Grimoire of Time and Soul……?」


1ページ目の中央に書いてある大きな文字を読み上げる。


この世界基本日本語だしひっさびさに英語見たな。


「時と魂の魔術書、って、ことか?」


そのままもう一ページ進む。ぎっしりと紙を埋める英単語に、あたしは思わずまゆをひそめる。


タイトルはChrono Leap……。これはわかるな、タイムトリップの魔法は定番だし。でも説明読む気にはなんねぇなぁ。


そのままパラパラとページをめくっていくと、途中で紙が不自然に止まる。


ん? ここ千切られてんな。


Soul Pact Incantation、Soul Rebirth Protocol……と続いていたタイトルの次のページ。そこが乱暴に切り取られている。


多分頭文字は他の2つと同じSoulか? 次の魔法もそうだし……。


顎に手をやってしばし考えてから、後ろで黙って立っているヘンリーを見る。


「なぁ先生。これ千切られてんだけどなんか知ってるか?」


声をかけてもヘンリーはその場に突っ立ったまま微動だにしない。僅かに見開かれた目だけが、何か異常な事態が起きているのだと言うことを教えてくれた。


「先生? どうしたんだよ」


ヘンリーはゆっくりとこちらに視線を移し、口を開く。


「何故、読めるんだ」


「は?」


「これはおそらく魔族語だ。しかも、お前の読んだ内容が正しければ魔法に関する本だろう」


この世界だと、英語って魔族語って扱いなのか……? いや、確かに魔法の呪文って全部英語表記だけどなんでだろうなーとは思ってたけどさ。


「それが、どうしたんだよ」


ヘンリーは眉根を寄せ本に目をむけた。


「この国では肉体強化と回復以外の魔法の発動には国の許可がいる。故に読めるものはほとんどいない。お前も知っているだろう?」


いや知らねぇけど??

一作目でガンガン魔法使ってたのに二作目になった瞬間出てこなくなったけどエフェクトとかスチル作るのだるくなったんかな、ぐらいにしか思ってなかったぞそんなん。


正直内心ツッコミが止まらない。国語で作者の意図を聞かれた時ぐらい知らねぇよって感じなんだが。


「……伊達に本読んでねぇよ。言語っていうのは地続きだ。古い本みりゃ異国の言葉と似たような単語が出てくることだってある。そっから推測すりゃ大体わかんだろ」


日本語だって外来語がそのまま定着することだっておかしくない。特に魔族領と隣接してるこの国ならそういうことが昔あったとしてもおかしくねぇはず……!


内心冷や汗を垂らしながら、強気に笑って言い放つ。

ヘンリーはいぶかしむように眉をひそめたあと、顎に手を当て小さく何度か頷いた。


「……そういう、ことか」


っしゃあ誤魔化せた!!


「ま、まあな。……とりあえずこんだけ見れればいい。そろそろ他のところ行こうぜ」


あたしは急いで本を棚にしまい、図書室の外へ向かって歩き出す。


もし転生者だってバレたらややこしくなる。ここは危険だ。さっさと移動して話を逸らすしかねぇ。


「なあ、先生。この後明後日からの作戦について詳しく話そうぜ。早めに終わらせるに越したことねぇだろ」


あたしは後ろを歩くヘンリーの顔を覗き込む。しかしヘンリーは考え込んだ様子のまま、こちらを見ようともしない。


「先生だって結婚前なのに女泊まらせたなんて噂立つのやだろ? お前も災難だよな、こんなことに巻き込まれて」


矢継ぎ早にそういうと、ヘンリーはやっと口を開いた。


「国の安寧のためだ。俺は別に構わない」


「構わないって……家に他人いるの嫌だろ?」


元々人を寄せ付けるタイプじゃないのに、案外そこの感覚はバグってんのか?


ヘンリーは心ここに在らずといった様子で、そのままぼそりとつぶやいた。


「お前なら、別にいい」


「……は?」


ぴたりと足を止めるあたしを置いて、ヘンリーはそのまま歩いていく。

あたしなら家にいても嫌じゃねぇ、ってことか?


ヘンリーの意図が読めずぐるぐると言葉が脳内を回る。


嫌じゃない? 嫌じゃ……いや、考えても仕方ねぇ。多分他意はねぇだろう。うん。それにあたしにはこいつがどう考えてても関係ねぇし。


自分にそう言い聞かせて、あたしはヘンリーの背中を追った。

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