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第十七話 恋と憧れ

執務棟にある、会議室と銘打たれた華美な部屋。あたしはふわふわとしたワインレッドのソファに腰掛け、隣にいるノア様をじっと見つめる。


「辺境伯との防衛会議、か」


「ええ。ジュリの今後の任務にも関連するでしょうから」


柔らかな笑みを浮かべティーカップを傾けるノア様。その仕草は優美なのにどこかぎこちない。


「あたしの事、考えてくれてんだな」


ノア様の心遣いに思わず頬が緩む。


「こんなにも何かに打ち込む貴女の姿は見たことがありませんから。少しでも力になれればと思ったんです」


柔らかな声音と伏せられた視線。ふわふわとしたその雰囲気に、あたしはすっと目を細める。


やっぱり、ノア様は別格だ。あたしの強さを受け入れて、戸惑いながらも支えてくれる。それが嬉しくて仕方なかった。


「ありがとな。……少しは、見直してくれたか?」


「見直す、と言うのとは少し違うかも知れませんが……。ジュリの新たな一面を知れたのは、良い事だと思っています」


言葉を探すように、ノア様は視線を揺らした。


「相手が見えていなかったのは私の方かもしれません。……すみませんでした」


「謝ることはねぇよ。見てなかったのはお互い様だろ?」


 ぐっと距離を縮め、耳元で囁く。

 

「これからじっくりとお互いを知っていけばいい。二ヶ月前から、あたしの考えは変わってねぇよ」

 

「っ……!」


頬を赤く染め、逃げるように僅かに背筋を逸らすノア様。しかしその視線は、こちらをじっと見つめたままで。


「ジュリは……何故そんなに、私のことを……?」


 震える声に、あたしは微かに首を傾げる。


「何故って……お前が魅力的だからだ。誠実で、優しくて、強さを受け入れてくれて。しかも可愛い。お前みたいな男、他にいねぇからな」


 ノア様は耳まで赤く染め上げて、ふっと視線を逸らす。


「そう、でしょうか。私にはエイダやジュリの様な気丈さも、強さもありません。私には、貴女たちの姿が眩しくて……こんな私では、つりあわないのではないかと……」


 自信なさげに指を交差させるノア様。その様子に、あたしは軽く息をつく。


「んなこと気にする必要ねぇよ。あたしは今のノア様が好きなんだから」


ノア様はぴくりと肩を震わせて、あたしの方をじっと見てくる。小動物を思わせる揺れる瞳。それが、可愛らしくて仕方なかった。


「にしても、眩しいねぇ。なんか恋っていうよりか、憧れの相手って感じだな」


「もしかしたらそうかもしれません。……私は弱い。エイダといる時もいつか置いていかれるのではないかと、不安にならないと言えば嘘になります」


 ノア様はあたしの言葉にふっと目を伏せ、自分を抱きしめるように自身の左の二の腕に右手をやった。弱々しく肯定するその姿が、あたしの胸を締めつける。


「あたしは絶対置いていったりしねぇ。お前の弱さごと、全部引き上げてやるよ」


 ノア様の手をぐっと引き寄せる。赤く染まった顔が、温かな吐息が、すぐ目の前に広がっていて。


「さっきあたしやエイダみてぇな気丈さや強さがねぇって言ってたが、その理論でいくとあたしもその憧れに入ってんだろ?」


「えっ……それは……」


 瞳を潤ませこちらを見つめるノア様。


 ……これは多分、図星だな。


 ゲーム内のノア様は好感度が上がると目が合うことが増える設定だった。今の反応はまさにそれだ。


「あたしはただの憧れで終わらすつもりも、終わるつもりもねぇ。お前の隣を歩んで、お前と支え合う。それがあたしの望む未来だ」


 ノア様の耳にかかった髪をそっと掬い取る。びくりと跳ねる様子がひどく可愛らしい。


「それを証明してやる。ちゃんと見ててくれよ、ノア様」


甘い声でそう囁いてから背もたれにぽすりと背中を預ける。


「今日はここまでにしとく。次が楽しみだな」


あまり押しすぎるのも良くない。恋は押しと引きのバランスが大事だ。


「え……」


呆気にとられたノア様の声は、どこか物足りなさそうで。

期待通りのその反応にあたしは口の端をつりあげる。


「そろそろ辺境伯が来る頃だろ。見せつけたいって言うなら、あたしは構わねぇぜ?」


ノア様は頬の紅を一層濃くして自らの腿へ視線を落とす。その先にある拳はぎゅっと握られ、僅かに震えていた。

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