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第一話 心を奪う最初の一歩

運命は存在するのか?


つまんねぇ質問だ。しかしあえて答えるならば、あたしはこう言うだろう。


存在するかもな。

だがーーー気に入らなければねじ伏せる。邪魔はさせねぇ。……例え、相手が何だろうとな。


 * *


「婚約を……破棄、させていただけないでしょうか」


静寂を打ち破ったのは、低く震えた声だった。


どこまでも冷たい、白く美しい部屋。2人きりで独占するにはいささか広すぎるこの部屋で、私は1人の男と相対していた。


正面にいる男は目を伏せたままこちらを見ようとしない。


「それは、あ……いえ、私では貴方に相応しくない、と言うことでしょうか?」


彼は青色の瞳を揺らしてから、言葉を選ぶようにゆっくりと口を開く。


「いえ、貴女はとても魅力的な方です。……ですが、私は別の方と未来を歩みたいと、そう思ってしまったのです」


その顔がこちらに向けられる。唇を噛み眉をしかめるその顔は、見たことがないほど真剣だった。


「酷い裏切りであることはわかっています。しかし私はもう自分を偽りたくない。私は……エイダと共に国を守っていきたい。彼女の強さに、惹かれずにはいられなかったのです」


強く言い切るその声にーーー私は、唇を歪ませた。


「では……私たちは"お互いに"、仮面を被っていたんですね」


髪をかき上げ、にっと歯を見せて笑う。


彼はーーーノア様は、まるで獰猛な獣を前にしたかのように、目を見開いて固まった。


「これからは、嘘をつきあうのはやめにしようか。あたしはあたしらしく、お前はお前らしく振る舞えばいい。そう言うことだろう?」


椅子から立ち上がり、机に上体を乗せる。伸ばした手が彼の白い肌に触れた。


「今から本当の姿を見つめ合っても遅くはない、そうは思わねぇか? なぁ、王子様」


お前を逃すつもりなんて、あたしはこれっぽっちもないのだから。


彼は目を見開いたままの間抜けな顔で、呆然とあたしを見つめ続ける。


「そもそも、婚約っていうのは家ごとの繋がりだ。お前とあたしだけで決められることじゃねぇ。違うか?」


彼は唇を引き結び、再び俯く。


ここで抵抗するほどこいつは愚かじゃないし、衝動的でもない。


やはり良い男だ。ーーー誰にも渡したくないと、そう思うほどには。


「だが……あたしは見苦しい真似が嫌いだ。お前が本当にエイダが良いってんなら、大人しく身をひこう」


ホワイトブロンドの髪を揺らして彼は顔を上げる。その瞳は、あたしだけに向けられていて。


彼の頬を掴む指に、ぐっと力が入る。


「半年で十分だ。それまでにお前を惚れさせてみせる」


あたしの宣言に彼はびくりと肩を震わせた。

溢れんばかりに見開かれた青い瞳が、キラキラと光を反射する。


「本気……ですか?」


か細い声が、静かな部屋に吸い込まれていく。


頬に食い込んだ指から伝わる振動。カタカタと震えるその姿は、食べたくなるほど可愛らしい。


「決めるのはお前だ。あたしを選ぶか、誰も選ばないか」


ぐっと彼の顔に自らの顔を近づける。まつ毛が触れ、吐息がかかる。


「そう思うぐらい強烈にーーーお前の心にあたしを焼き付けてやるよ。覚悟しな、ノア様」


「ジュ、リ……?」


鼓膜も理性も全てを揺るがすその声が、あたしは欲しくて欲しくて堪らなかった。


「逃がさねぇよ、ノア様」


その瞳も、指先も、髪の毛の一本だって……誰にも、ひとつたりともやるものか。


これはあたしだけの王子様を手に入れる、運命の半年の話。

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