37話 きな臭い方向
私は、この国では半分禁術レベルで規制が激しい幻術の跡を見つけ、追っていくと、レインさんに見つかってしまう。
しかし今、私はレインさんに頭を下げられている。
しかも土下座だ。
さらに、レインさんだけではなく、レインさんの親族や、レインさんの指示に従っていた商会のメンバー達も全員である。
とりあえず頭を上げさせ、事情を伺おうとすると、
「私の命はどうなってもいいから、レイン様をお助けください」
と泣きついてくる始末。
しかも、
「この命にかえても、レイン様を守る」
と言い続けているため、話が全く通用しない。
レインさんもレインさんで、
「すいませんでした。全部私が悪いのです」
と言っていて、全く人の話を聞いていない。
しかも、質問に答えてもらおうと質問を繰り返しているのに、である。
あまつさえ、レインさんと紹介の方々で、
「責任は全て私にある。だからこの人は見逃してくれ」
という言葉を話してドラマを作っている始末である。
要するに、埒があかない。
全く状況がわからない上に、状況を聞こうと声をかけただけで泣き出す始末だ。
どうしていいかわからず、途方に暮れていると、こんさんが言いにくそうにしながら、
「この人たちは、自分たちを見逃してほしいんだと思う」
と言われた。
しかし、私としてはあんまり見逃すという案は行使することができない。
レインさんの目的が一切わからないからである。
国王としての責任は、私であっても持ち合わせている。
そのため、いくらなんでもそれはできない。
そのため、一旦落ち着くように指示を出すが、全く効果はない。
ひどいくらいに無視されている。
要するに、舐められてしまっているのだ。
元々私は、あまり命令することに慣れていない。
だからこそ、高圧的な態度を取れないと読んだ上で泣いているのだろう。
つまり、この場での解決策は一つしかない。
それは、高圧的な態度をあえて見せることだ。
おそらく私のことを、特に命令することに慣れていないと思っている訳だからこそ、相手の意表をつくことで、相手に隙が生まれる。
そこで私は、こんさんの魔力を借りて一気に体の外に押し出して威圧する。
ちなみに、私とこんさんは魂が繋がっているため、これがこんさんの魔力だと感じることができる人間はあまりいないだろう。
そして、狙い通りに商会の皆さんと、レインさんの親族達はみんな怖がっている。
しかし、誤算が一つだけあった。
当のレインさんがとてつもなく怖がり、気持ちが不安定になってしまったことだ。
レインさんが使う呪術は、感情が高ぶったときに発動してしまう。
この呪術は、自分を守ってくれるかごであると同時に、自分の心を閉ざしてしまう檻にもなりうるものだ。
だからこそ、雨が降った時、その雨はレインさんにも容赦なく降り注いでしまう。
そして、雨が降ってしまった。
室内であるにもかかわらず、物理的な法則を超越して雨が降ってきた。
この雨は、この前お茶会で見た時の雨の比じゃなかった。
この時ほど、雨が恐ろしいと感じたことはない。
しかも、雨が体を濡らしていくと、だんだんと力が抜けていってしまう。
しかも、力をこんさんのところに返すこともできない。
この雨は、降ってきた人の気力を奪う。
だんだんと体力が落ち、何もできなくなってしまった時、初めて「死」を肌で感じた。
しかも、それに抗うことのできないような脱力感。
しかし、それは他の人たちも同じだった。
商会の人たちは全員が動けなくなっており、レインさんの家族達も、指先を少しでも動かせている人が2人いるかどうかのレベルだ。
そんな状態のみんなを悲しそうに見ているのは、レインその人だった。
先ほどまでの堂々とした表情は消え失せ、青い髪と灰色の瞳は、元の白髪に赤い瞳に戻っている。
レインはみんなに最低限の処置をしようと近づき、自分を慕ってくれていた商人の1人に手をふれたが、その手はすでに冷たくなっていた。
何もできない無力感にさいなまれる中で、涙を流していたが、どこからか聞こえてくる声にはっと我に帰ると、そのまま歩き始めた。




