表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

医者にはなりたくない

 

 こんばんは、シンヤです。

 深夜のシンヤ。

 これから1時間、皆さんのお耳をお借りして、素敵なひと時を共有できればと思います。

 ところで、調子はどうですか?

 熱帯夜が続いている所も多いようですが、体調を崩していないですか?

 物価高で大変ですが、上手にやり繰りしていますか?

 彼女とは、うまくいっていますか?

 彼氏とは、うまくいっていますか?

 学校は楽しいですか?

 仕事は順調ですか?

 夢に向かって突き進んでいますか?

 失敗しても、その度に立ち上がっていますか?

 1週間のうちには色々なことがあったと思いますが、それは横に置いておいて、これからの1時間はこの番組に集中していただければと思います。


 では、今夜のオープニング・ナンバーをご紹介します。

 と言いながら、ここで質問です。

 この曲の題名はなんでしょうか?


 えっ、STRAWBERRY FIELDS FOREVER?


 さすがですね、大正解。

 先週に続きビートルズの名曲でスタートさせていただきました。

 でも、素敵でしょう?

 テンポをぐっと落として、とても聴きやすい演奏ですよね。

 これなら、ロックはちょっと苦手、という人にも受け入れていただけるのではないかと思います。


 では、気に入っていただいたところで、もう1曲お届けします。


『IF YOU LEAVE ME NOW』


 アメリカのロックバンド『シカゴ』が全米ナンバーワンを獲得した名曲です。

 グラミー賞にも輝いています。

 馴染みのあるポップなメロディが流れてきますので、リラックスしてお聴きください。


        *


 気に入っていただけましたか?

 リラックスできましたか?


 できた?


 それは良かった。

 それでは、皆様お待ちかねのお手紙をご紹介することにします。

 今夜ご紹介するのは、進路に悩んでいる若者からいただいたお手紙です。

 ちょっと深刻そうですので、皆様のお知恵をお借りできれば幸いです。

 では、読み進めていきましょう。


        *


『シンヤ様、こんばんは。僕は医者の家に生まれた浪人生です。進路について悩んでいます。どうしたらいいかわからなくなったので、お手紙を差し上げました。貴重なアドバイスをいただければ、ありがたいです。


 僕の家は二代続く産婦人科医院です。

 父が院長で、母が看護師長をしています。

 あとは、看護師と助産師と薬剤師と窓口担当や事務担当の女性が働いています。

 非常勤の医師も来てくれています。

 患者さんの数が多いので、分娩数はこの辺りでは多い方だと思います。


 そのことは喜ばしいのですが、僕は一人息子で、小さな頃から跡継ぎと言われおり、そのことが僕を苦しめています。


 結論から言うと、医者にはなりたくありません。

 というより、なれません。

 血がダメなのです。

 見ると、卒倒しそうになります。

 父は手術のビデオを見ながら食事ができますが、僕は絶対ダメです。

 そんなことをしたら吐いてしまいます。


 そのことを何度も言ったのですが、父は聞き入れてくれません。

 医学部に入って実習をしていけば慣れると言うのです。

 でも、そうは思えません。

 ダメなものはダメなのです。

 これは努力してどうこうなる(・・・・・・)問題ではないのです。

 体が受け付けないのだから、どうしようもありません。


 母はそのことを理解してくれてはいるのですが、僕の味方になってくれるわけでもありません。こんなに流行っている産婦人科を潰すのは忍びないと思っているのだろうと思います。


 どうしたらいいのでしょうか?

 医者になる気がないので勉強に力が入りませんし、今のままだとまた受験に失敗しそうです。このまま二浪、三浪と続いていくような気がします。


 家出をしようかと考えたこともあります。

 見知らぬ土地へ行って、まったく新しい生活を始めるのも悪くないと思ったからです。

 といって、特にやりたいことがあるわけではありません。

 ただ逃げ出したいだけなのです。

 でも、そんなレベルでは自立した生活なんてできるわけがありません。

 だから、家出もできないのです。


 シンヤ様、このまま親の言う通りに受験を続けて、医者になって跡を継ぐしか選択肢はないのでしょうか? 

 それとも、他に何かあるのでしょうか?

 アドバイスをいただければ、ありがたいです。

 よろしくお願いします。


 悩める浪人生より』


        *


 う~ん、困りましたね。

 難しいですね。

 親の期待と子供の意思がかけ離れているという典型的な事例ですが、解決の糸口はまったく見つかっていないようです。

 どうすればいいのでしょうか?

 なかなか答えを見つけるのは難しそうですね。

 でも、このまま固まっていても仕方がありませんので、気持ちをフラットにするためにヨーロピアン・ジャズ・トリオの演奏に身と心を任せたいと思います。


 では、2曲続けてお聴きください。

『ALL OR NOTHING AT ALL』

 そして、

『STELLA BY STARLIGHT』


        *


 こんども素敵な演奏でしたね。

 リラックスできましたか?

 気持ちはフラットになりましたか?


 なった?


 良かった。

 それでは、手紙に戻って、悩める浪人生さんと共に考えていきましょう。


 まず、彼の言葉を再度、読み上げます。


「このまま親の言う通りに受験を続けて、医者になって跡を継ぐしか選択肢はないのでしょうか? それとも、他に何かあるのでしょうか?」


 リスナーの皆さんはどう思われますか?


 えっ、跡を継がなくてもいい?


 なるほど。

 他にも選択肢はあるということですね。

 でも、家出はできないそうです。

 そんな力はないと本人が諦めているのですから、無理強いはできませんよね。


 では、家出以外の選択肢として、どういうものが考えられますか?


 えっ、医者以外の役割で家を継げるって?


 それはどういうことですか?


 事務長になればいい?


 なるほど、医者は継がないけど、経営は継ぐということですね。

 なかなか良いアイディアのように思いますが、それでご両親、特に父親が納得するでしょうか?


 えっ、産婦人科医の女性と結婚すればいい?


 お~、その手がありましたか。

 これなら父親も納得するかもしれませんね。

 でも、そんなに簡単にいくものでしょうか?


 えっ、父親の出身医局の教授に頼んでおけばいい?


 なるほど。

 でも、そんなに簡単ではないように思えます。

 相手が彼のことを気に入ってくれるかどうか、わからないですからね。


 えっ、それなら別の手があるって?


 それはどういうことですか?


 好きな女性(ひと)と結婚して、子供ができたら、その子を産婦人科医にすればいい?


 う~ん、それはどうですかね?

 そんなことをしたら彼と同じことになるんじゃないですか?

 自分が嫌だったことを子供に押し付けるなんて、彼はしないと思いますよ。


 えっ、なら、父親が引退したあとは院長に適した医師を雇えばいい?


 なるほど、それはいいかもしれませんね。

 経営権は彼が握って、診察は雇われ医師がする、なるほど。

 結構いいアイディアのような気もしますが、まだまだ他の選択肢もありそうです。どなたか、別の意見をお持ちの方はいらっしゃいませんか?


 えっ、家は継がず、父親の引退時に閉院する?


 閉めちゃうんですか?

 結構流行っているのにもったいなくありませんか?


 そんなことはない?

 出産適齢期の女性が減っていくのだから、流行っている間に閉めた方がいい?


 なるほど、それは言えますね。

 出生数の減り方がひどいですものね。

 2024年の出生数が72万人になったというニュースを見たことがありますし、10年前に比べて30万人くらい減ったという記事も見たことがあります。更に、2072年には50万人を切るかもしれないという予測も見たことがあります。

 大変なことになっているんですよね。

 確かに、こんな状況では産婦人科を経営していくのは大変としか思えませんね。

 閉院ですか?

 う~ん……、


 なんか、ちょっと暗くなってきましたね。

 状況が状況だけに仕方がないことではあるんですが、もう少し明るい見通しの意見をお持ちの方はいらっしゃいませんか?


 えっ、産婦人科医を養子に迎える?


 それって、つまり、経営の主導権をその人に渡すっていうこと?

 それとも、相談者が事務長になって、二人で経営するっていうこと?

 それとも……、


 えっ、家を出て行けばいい?


 出て行けって、どういうことですか?

 やりたいことが何も見つかっていないんですよ。


 えっ、だから、見つけに行くんだって?

 自分探しの旅?


 う~ん、どうかな?

 そんなこと、両親が認めてくれるでしょうか?

 最悪の場合、喧嘩別れになって、後戻りできなくなるかもしれませんよ。


 そうなったらそうなったで仕方がない?


 う~ん、そうかな~、

 確かに、新しい道が開けるかもしれませんが、もう少し穏便に、彼と両親が双方納得した上で進めた方がいいように思いますけどね。

 もちろん、決断すべき時にはきっぱりと決めないといけないですが、『()いては事を仕損じる』という諺もありますし、感情に任せて事を勧めるのはどうかと思うんですよね。


 えっ、もう充分選択肢が出たのだから、その中から選べばいい?


 なるほど、それもそうですね。

 では、今までの案をまとめてみましょう。


 ①跡を継がないことをキッパリと告げる

 ②事務長になって経営を継ぐ

 ③産婦人科医の女性と結婚する

 ④子供が生まれたら産婦人科医にして家を継がせる

 ⑤父親の引退時に閉院する

 ⑥産婦人科医を養子に迎えて、二人で経営する。もしくは、その人に任せて自分は家を出て行く


 どうでしょうか?

 もちろん、これ以外にも選択肢はあると思いますが、かなりの案が出揃ったような気がします。これを参考に考えてみてはいかがでしょうか?

 もちろん、ご自身で決めてくださいね。

 先週も言いましたが、自分の人生なのですから、他人(ひと)に頼るのではなく、自らの責任で選択することがとても大切です。

 決断から逃げないで、将来、後悔しないためにも、深く、より深く考えて、自らの意思と責任で結論を導き出してください。


 それでは、『悩める浪人生さん』の決断が光り輝く未来に繋がることを願って、お別れの曲をお届けします。


『MY PARENTS』


 では、また来週お会いしましょう。

 素敵な週末を。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ