プロローグ
俺はディスクジョッキー。
FMラジオのディスクジョッキー。
パーソナリティと呼ばれることもあるが、そんなものは受け付けない。
ディスクジョッキー以外に相応しい名前はないからだ。
べらべら喋りまくるパーソナリティと一緒にされるのは心外としか言いようがない。
もちろん、クラブのDJとも違う。
ターンテーブルと格闘しながら絶え間なく音楽を流し続けるわけではないし、スクラッチなどの技を使うこともない。
選曲し、静かに語りかける。
それが仕事だ。
毎週金曜日の23:30から0:30が放送時間だ。
流す曲はジャズが多い。
といっても、こてこてのジャズではない。
聴きやすいジャズだ。
スムーズ・ジャズと呼ばれているジャンルの曲が多い。
時にはロックやポップスやボサノヴァなどをかけることがあるが、ほぼ100%洋楽と決めている。日本語の曲はバックグラウンド・ミュージックにならないからだ。
さて、今夜も放送時間が近づいてきた。
そろそろスタンバイするとしよう。
紹介する手紙とプレイリストにもう一度目を通して、オンエアを待つのだ。
10分、
9分、
8分、
7分、
6分、
5分、
4分、
3分、
2分、
1分、
そろそろディレクターがキューを出すタイミングだ。
リスナーも今か今かと待ちわびているだろう。
10秒、
9秒、
8秒、
7秒、
6秒、
5秒、
4秒、
3秒、
2秒、
1秒、
キューと共に音楽が流れ始めた。
俺は姿勢を正して、マイクに向かった。