第97話・盆踊り
―――コリータ王国自室―――
――お盆祭り前日。
チュンチュンチュンチュン……。
「う……うん……」
「ふふ、国王様。おはようございます。もう朝ですよ。そろそろ起きますか?」
時計は6時を指している。布団の中で笑顔の彼女。お互いに何も着ていない。そうか、昨夜は……色々思い出してしまった。
「あらあら。朝からお元気ですのね」
「もぅ、マリンのせいだ――!」
「きゃっ!」
朝7時。食堂に皆で集まり、朝食を取るのが日課だ。最近ではコーヒー豆の栽培も出来るようになり、高価だが時々コーヒーも飲める様になった。
「父上!おはようございます!」
「千春、おはよう。エルおばちゃんに迷惑かけてないか?」
「おばちゃんはないでしょう?こんな美人をつかまえておいて」
「ははは……ごめん」
お盆の期間中は仕事が立て込むので、エルとエリサに千春を預けている。
「皆の者、おはよう!」
アリスとプリンが寝間着のまま食堂に入ってくる。
「何やらイカ焼きのにおひがする」
こいつの嗅覚は犬並みにすごい、と思う時がある。
「アリス様おはようございます。今日からイカ焼きの準備で仕入れの魚介類が入っております」
「イカ焼きじゃとぉぉぉぉ!!」
わくわくが止まらないアリス。そしてナイス返しのマリン。
「皆さん!食事の準備中ですのでお席でお待ち下さい!」
いつものマリンだ。何か吹っ切れたように明るい。
「……怪しい。いつものおねぇちゃんじゃない」
鋭い眼力のアクアがこっちを監視する。
「そ、そうだ!アリス!久しぶりに月子も呼んであげない?」
「おっ!そうじゃの!白兎!すぐに連絡せい」
「わかりましたっぺ。アリス様っぺ」
10年経っても『ぺ』なんだ。ある意味すごい兎だ。食事も終わり、最後の会議を始める。
「明日からの予定のおさらいです!まず――」
城の開門は10時~22時まで。特に裏路地や、普段目につかない場所の巡回を行う。
初日のお昼にはエルバルト教会にて祈りを捧げ、お墓参りを行う。
夜は20時~21時まで矢倉の周りで盆踊りを3日間予定。
1日目は墓参りと、剣闘大会子供の部の予選。
2日目は大人の部の剣闘大会の予選から、ベスト16までが行われる。
3日目は剣闘大会決勝戦と夜にはミレーのライブと、灯籠流しを行う予定だ。
「この予定で行う。初めての行事もあるが、楽しんでやろうっ!」
「おぉぉぉぉぉぉ!!」
「ピューイ!」
朝から大忙しで昼食もままならないまま準備に追われる。途中、準備から脱走したアリスと警備員による鬼ごっこが小一時間程あり、くたくたになった。
――執務室。
「お疲れ様でした。国王様」
夜になり、執務室でマリンがお茶を煎れてくれる。
「あぁ、ありがとう。今日は疲れた。明日が本番なのに、アリスの脱走で余計な仕事が増えたよ。まったく」
「ふふ。アリス様は国王様にかまって欲しいのですよ」
「迷惑だ。ほんと」
「でも、アリス様が居てくださって国王様がおられるのでしょ?アリス様がいなくなったらお困りになりますよ。さて、私も今日は早めに寝ますね」
「あぁ、マリンご苦労さま。明日もよろしく」
「はい。それではまた明日。国王様おやすみなさい」
何だか急に大人びたというか、余裕が出来た様にも見えるマリン。それよりも、マリンの言った「アリスがいなかったら……」が妙に耳に残る。今までいるのが当たり前だったからなぁ。
ギシ……。机に足を乗せると、色々と考えてしまう。
考えない様にしていたけど、近々世界がまたリセットされるらしい。そのための準備を今までしてきた理由だけど、アリスがもし死んだら僕も……?
そういえばアキネは長い間生きてたらしい。ナツトもトウヤも早くに亡くなっているけど。僕はどうなんだろ?歳をとった感じがしない。もし世界が無くなって1人になったら、どうするんだろう……?
「あぁ!やめやめっ!」
もしものことを考えても何も変わらない。その時はその時だ!
僕はまだこの時がとても幸せで、とても充実した日常だという事に気付いていなかった。
◆◇◆◇◆
――お盆当日。
10時の開城と共に、今までにない人数の人がコリータ王国を埋めていく。
「警備員を増員しろっ!アクアッ!ウェスタンに増員要請を!なに!喧嘩?!もう人がいねぇぞ!」
「ギル、わしが行こう。剣闘大会の準備運動だっ!」
「ミヤビ団長!お願いします!」
30分で警備員が混乱してしまう程の賑わいだった。
「月子っ!!イカ焼きに行くぞ!プリンはどこじゃ!」
「ねぇさま!まだポテトを買ってなぁい!」
「ねぇさん!これはまたすごい祭りじゃの!」
「じゃろ!わしが全部準備をしたのじゃ!」
「アリス、嘘をつけ。脱走したろっ!」
僕は屋台をハシゴするアリス達の面倒を見る。
「こらっ!走るなっ!まった……く……?」
すっと横をすれ違う男性に、とてつもない寒気を覚えた。パッと振り返るがすでに男性の姿は見えない。
「今のはいったい……?」
「こりゃ!ハルト!はよう来んかいっ!」
「あ……あぁ……」
その後、彼の姿を探すが見当たらなかった。
午後になると教会に集まり、皆で祈りを捧げお墓参りをする。ゼシカ、リン……今でも悔やまれる仲間の死。
千春は、母ゼシカの事を覚えていない。千春が産まれて間もなくゼシカは息を引き取ったのだ。そしてエルが母親代わりとなり、千春はエルの事を本当の母親の様に慕っている。
「これが、祖母のお墓……」
「あぁ、アキネはキウイ山で亡くなった。遺体はないけど、ここで毎年供養している。遺品も一部あるからメリダに見せてもらうといい」
「はい。何から何までありがとうございます」
涙を浮かべる秋子。
10年前、アクアがアキネの素性や出身地などを調べてくれた。チハヤの日記によれば、素戔嗚尊に従う前は普通に暮らしていた事がわかり、その子供、親戚と色々と調べ10年かけてようやく孫を見つける事が出来たそうだ。
秋子親子は、旧イスタン帝国で貧しい暮らしをしていたらしい。今では人並み以上の暮らしができ、娘の千秋も毎日学校へ通うのが楽しいそうだ。
僕にしてみたら、祖母のアキネは複製された分身。秋子達は親戚の子供にあたるのだろうか。
――8月12日、お盆祭り2日目。
朝から闘技場で剣闘大会が始まった。僕は雑務に追われ見に行けず、マリンから報告だけを受ける。
「明日の剣闘大会決勝戦ですが、子供の部は千春様と千夏様、大人の部はミヤビ様とツイスト様となっております」
「そうか、子供の部は2人の息子が決勝戦まで来たか。あれ?大人の部はレディとミヤビの決勝戦かと思ったのに違うのか?」
「はい。レディ様はツイスト様に負けました」
「レディが?もしかして昼の……すぐに相手を調べてくれ」
なぜか昨日の昼に見た男を思い出した。
「すぐに調べさせます。もしミヤビ様が負けた場合はいかがされますか」
「その時は僕が出る」
「わかりました。決勝戦後に特別マッチを追加しておきましょう。ミヤビ様が負けるという最悪の場合もありえますからね」
何者だ。レディを負かすとは……?
「カエデ」
「はっ!ご主人様」
どこからともなくカエデが現れる。
「レディを倒した奴を見たか?」
「はい。ルール有りの決闘でしたので死にはしませんでしたが戦場でしたら殺されています。……憶測でしかないですが」
「そうか、ありがとう。引き続き護衛を頼む」
「はっ!ところでマリン様があの日から夜も眠れないご様子。体調に十分気をつけてくださいませ。ではっ!」
「そうか。え?ちょっと待て!カエデ!!」
すでにカエデはいなかった。
「あいつ……まさか見てたのか」
忍びだから口を割らないとは思うが、姉のレディにポロッと言ってしまったらと考えると……ブルッ!と、悪寒が走った。




