第90話・魅惑のお風呂と夢
―――コリータ王国―――
僕は南の町ウィンダから戻ると早速、ゼシカ、レディ、メリダの元を行ったり来たりしていた。3人共妊娠が判明し大騒ぎだったそうだ。その合間を見て、南東の都市の城壁、トロッコの複製、コリータにある妖精の森での果実の栽培などで大忙しだった。
――そしてあっという間に1ヶ月が過ぎて行く。
「準備できました。行きましょうか。クロお願いね」
「ギャァァァァァァァァ!」
ロック鳥クロは大きく羽根を広げる。今回は体力温存で、きりんもアリスの部屋で待機している。僕とエルを乗せたクロはウィンダの町へと向かった。
―――南の町ウィンダ―――
「ここが……母さんが住んでる町――」
「あぁ、エル。着いたよ」
相変わらず賑やかな町だ。僕達は町外れにクロを降ろし、エリサの待つクラウド教会へと向かった。
「あれ?ハルト殿!最近見かけないと思ったらこんな綺麗な子を連れて!いやぁまいったなぁ」
「おぅ、パイソンか。今日はカリナは一緒じゃないのか?」
「はい、カリナは今日は教会に行ってるはずです」
「そうか。じゃぁまたな」
「師匠~!俺もご一緒……」
「断るっ!」
「そんなぁぁ……」
座り込むパイソン。あの日から立場が逆転しているんだな。そんなパイソンはほっといて、クラウド教会へと向かう。
「こんにちは。エリサさんおられますか?」
「はぁい!少々お待ちくださぁい!」
奥から声がする。
「さぁ、エル。行っておいで」
コクンと小さくエルがうなづいた。
「はいはぁい!お待たせしまし……あらっ!ご主人様! おかえりなさ……エル?もしかしてエルなの?!」
「母さん……?母さんっ!うぁぁぁぁぁ!!」
エリサに抱きつき、泣き出すエル。
「あぁ、エル。こんなに大きくなって!!うぅ……」
「母さんっ!母さんっ!!」
「エルっ!」
涙を流し抱き合う2人。どうもこういうシーンは苦手だ。
「アリ……ス?」
「ぐす……」
もらい泣きするアリス。
「ちーーーーん!」
鼻をかむプリン。
「あらあらまぁまぁ」
あらあらまぁまぁのきりん。
数分経過……抱き合ったまま離れない2人……あっ、エルが抱きついて離れないのは血筋だったのか。
「あのぉ……もうそろそろ……」
アリスもプリンも遊び始めた。さっきの涙はいったいなんだったんだ。
「母さん。母さんもコリータに来てくれるよね?」
「……そうね。そうよね、私もいつまでもここに1人でいるのは寂しいわ。ただ……」
「ただ?」
「お墓と教会をどうしようかしら?」
「それなら大丈夫です。教会はコリータ国で買い取り、ここに転移魔陣を設置、警備を置きます。お墓は全部は無理ですが何人か分ならエルバルト教会の墓地に移せます」
「それなら……そうね。ちょっと見て欲しいものがあるのだけど」
エリサは僕達を墓地へ案内した。
【チハヤ・フセ ここに眠る】
「ここが私の祖母、チハヤのお墓です。今でもナツト様をお探しかもしれません」
僕は手を合わせる。
「ナツトのお墓はコリータにあります。隣で埋葬してあげるのが良いかもしれません……ね……」
その時だった!
ザァァァァ!とまた目の前が真っ暗になる!
「――ルト!どうしたの!ハル――!」
「エル――主人様を――室内へ――」
………
……
…
――目を開けるとガッコウを見下ろす僕。前にもこの映像は見た。黒髪の女性が屋上で何かを集めている。そしてまた目が合う……。
『……リント、メリーヲ、カエシテ……!!』
彼女はそう言うと、僕にめがけて弓を引き絞る!!
ザァァァァ!!
「はぁはぁはぁっ……!!」
「あなたっ!大丈夫!?」
うずくまる僕。何なんだあれは……?
「ご主人様、少し休みましょう。こちらへ」
僕はエリサとエルに支えられ、教会の奥の部屋で休ませてもらう事にした。
「その記憶は……ハルトのものではないの」
「アリ……ス……?あれはいったい……」
頭が痛い。
「ご主人、すぐにお薬を調合致しますのでお待ち下さい!」
「うむ……プリンよ。この前の洞窟にもう一度行って来てくれぬか。原因があるとすればあそこじゃ」
「ねぇさま!わかりましたわっ!きりんっ!行きますわよ!」
「はっ!」
きりんに飛び乗り、キウイ山へと急ぎ向かうプリン。
「もしかして日記……あれが何か関係しているのか?」
「わからぬ。しかしお主の言動からして……そうかもしれぬ」
薬を飲み、しばらくするとすごく楽になった。アリスはプリンが帰るまで睡眠を取ると言い、部屋へと戻って行く。
「ふぅ……何だったんだ。あの夢は……」
「話を聞く限りでは、おそらく……チハヤばあさまの私怨がご主人様の魔力に影響されたものかもしれません」
「私怨?僕に?しかし僕はチハヤさんに会った事もない」
「そうなのですよね。チハヤばぁさまはもう数百年も前に――」
僕はエリサと話しながら色々考えていると、薬の効果なのか、いつの間にか眠っていた。
ザァァァァ!!
「うぅ……また……あの夢か?」
ここはネプちんの神殿?神殿の前で泣き叫ぶ黒髪の――たぶんあれがチハヤさん。声は聞こえないが、魔物と思われる怪物に何度も投げられては神殿に向かおうとするチハヤさんの姿が見えた。
ザァァァァ!!
「はぁはぁはぁっ……!」
「大丈夫ですか!ご主人様!またうなされてたみたいですが!」
エリサとエルが心配そうに僕を見つめる。
「また夢か……誰なんだアレは……」
「ハルト、すごい汗……」
エルに支えられ、ベッドから体を起こす。
「すまない。お風呂を貸してくれないか。汗を流したい……」
「はい、すぐにご用意を」
「頼む……」
…
……
………
ちゃぽん。
「はぁ……いい湯だ」
エリサにお風呂を借り、汗を流す。
しかしまいった。意識が無くなったり、眠るたびに悪夢を見る。決まって上空からチハヤの姿を見ている。僕が触れてしまっている私怨のせいなのか。
――ガチャ。
「ご主人様。ご気分はいかがですか?」
タオル一枚で体を隠したエリサが入ってくる。
「あなた。お湯加減はいかが?」
「え?エルもいるの?」
「ふふ。ビックリした?」
「ご主人様、良かったらお背中お流ししましょうか?フフフ」
「あ、いや、あ……は、はい」
なんなんだこの展開は……。
ゴシゴシゴシゴシ……!美人のエルフ母と美女のエルフ娘が、体を洗ってくれている。こっちが夢なら悩む事はない。
しかし良く見れば似ている。姉妹と言ってもわからないだろう。こんなに似ているのに気付かなかったなんてどうかしている。
「ご主人様の気分転換になればと思い……ちょっと頑張ってみました」
頬を赤らめて照れくさそうするエリサ。
「そうか。ありがとう」
気を使ってくれたのか。
「それにご主人様の身に何かあるといけないので、エルと2人でこれからお世話をしようと決めました」
「ね?あなた。知らなかったとは言え、私と母さんの2人に手を出しちゃったのですものね。責任を取らないといけませんわよね。ふふふ」
「え……」
目が座ってるエル。ゴシゴシもちょっと痛い。
「エルの子はご主人様のお子。だけど私の子はエルの弟か妹になるかもしれないのですよ。ふふふ」
「え……」
あれ?君達はさっきから何を……!?はっ!!まさか!!
「エリサッ!エルに言ったのか!?」
ビックリして立ちあがり、思わず声を張り上げてしまう。
「きゃっ。ご主人様、その……丸見えです……」
「あ……」
「あなたお静かに。私は許したくはないのだけれど……特別です。心身共に一生お使えするので、2人を末永くよろしくお願いします」
後ろから抱きついてくるエル。その……なんだ。アレがあぁなって、あぁなって……もう我慢の限界だっ!!
「エルッ!エリサッ!!」
バタンッ!急にドアが開く。
「帰ったのだ!疲れたから先にお風呂に入るのですわ!!」
「う、うん。おかえり、プリン。すぐ上がるからちょっと外で待っててね……」
「わかった!スケコマシ王子!」
バタン!
「はは……は……上がろうか」
「ちゅ」
「ちゅ」
エルとエリサが、僕のほっぺにキスをする。
「続きはまた今度ね、あ・な・た」
「ふふ。エルには負けませんからね。ご主人様」
不敵に笑う2人を背に、僕は元気が無くなりそそくさとお風呂を上がったのだった……。




