第8話・ゼシカとエルとリン
―――ウェスタン王国宿屋―――
夕方、冒険者ギルドの登録も終え宿屋へと戻って来た。
「今日は色々あったなぁ。アリス、僕なんだか疲れたよ……。あっ、夕方にゼシカの迎えが来るんだったな……」
「うむ、それまで少し休むが良い」
僕はベッドに横になるといつの間にか寝入っていた。
「――ハルト様!ハルト様!」
『ドンドンドンッ!』
ドアをノックする男の人の声が聞こえる。誰だ?ゼシカの迎えにしては賑やかだ。
「誰……ふぁい……今、開けます……」
眠い目をこすりながらドアを開く。
「ハルト様!ゼシカ様の命にてお迎えに上がりました!急ぎ冒険者ギルドまで同行お願いします!」
冒険者ギルド?あれ?迎えって事は……チグサの家って冒険者ギルドなのか?
しかし、護衛の慌て方が普通じゃない。
「すぐ出れますので、下でお待ち下さい」
「わかりました!失礼しますっ!」
護衛はドタバタと宿屋の階段を降りていく。
「何かあったのかな?」
「うむ、ただ事ではなさそうじゃな……」
―――冒険者ギルド―――
冒険者ギルドに着くと、すでに数百人の冒険者が集まっていた。闘技場の方に誘導されているみたいだ。
ドンッ!と、ふいに後ろから肩がぶつかる。
「いてぇな!どこ見て歩いてるんだ!気をつけろ!」
怒声が聞こえ、いきなりの暴言に頭にきて声をかけようとすると、アリスが首を横に振る。
「カイ様!だいじょうぶですかっ!」
カイと呼ばれる男を心配する司祭風な女性。
「うるせぇ!貴族の俺が何でこんな所に来ないと行けないんだ!お前達で聞いてくればいいだろっ!」
「も、申し訳ございません……」
司祭風な女性がこちらへ小さく会釈し行ってしまった。かわいそうに、首に術師の輪がかけられている。町で何人か見かけて、ゼシカに聞いていた。奴隷扱いされる人が首に呪いの輪をかけられ一生飼い犬扱いされるそうだ……。
「皆さん!こちらへ集まってください!ゼシカ様よりお話があります!」
闘技場の観客席には数千人の冒険者が既に集まっている。闘技場の中央には護衛に囲まれて、ギルド受付のお姉さんマリンとゼシカの姿が見える。
「ガヤガヤガヤガヤ……」
「皆!よく集まってくれた!感謝する!」
ゼシカが深々と頭を下げる。
「先程、王宮の物見より知らせが入りノースタンの魔物がここウェスタンに向けて進軍を開始した!」
ざわざわと観客席がざわめき立つ。
「数年に一度、魔物の進軍があるのだがいつもは数千単位だ!しかし!今回の物見の話では約10万の大軍が押し寄せている!」
ざわざわとさらに闘技場に緊張が走る。
「だがしかし!我らはこの聖都を守る為に迎え撃たねばならぬ!近隣諸国にも援軍要請をした!こちらは総兵力3万にはなろう!皆の者、臆するな!我らには守護神アリス様が付いておられる!!」
「オォォォォォォォォォ!!!」
会場中の冒険者達が雄叫びを上げた!
アリス神か。ここにいるんだが……アリスがどや顔でこちらを見ている。なんかアリスのどや顔がうざい……。
「それでは皆様!討伐条件を説明します!4人1組で回復役の方を必ず入れて下さい!今回は国を上げての討伐です!優れた冒険者には国から報奨金もあるそうです!」
「オオォォォォォォォォ!」
「次に出立日時ですが、用意が整った冒険者は明朝出発。続いて城騎士団、補給部隊が出発予定です!尚、魔物がこのまま南下しますと、北の大森林で2日後には交戦になると思われます!皆様、準備を整え、討伐をよろしくお願いします!以上です!」
「オォォォォォォォォォォ!!」
テンションが上がりまくっている冒険者達。さて、どうしたものか。4人1組に最初から行き詰まる。と、ちょうどゼシカと目が合い、「こちらに来い」と言っている様だった。
―――ギルド応接室―――
「ゼシカさん!」
「おぉ、ハルト殿!急に呼び出してすまなかった。理由は聞いての通りだ」
「はい。討伐参加は構いませんが、聖都に来たばかりで4人集める条件がちょっと厳しいかと思いました」
「それは準備が出来ている。もう来ると思うのだが……」
――コンコンッ、カチャ。
「失礼します!あっ!いた!ゼシカ!久しぶり!」
「ゼシカっ!!」
「2人共元気そうで何よりだっ!紹介しよう、こちらがチグサ様を救ってくれたハルト殿だ」
「はじめまして。センケハルトと言います」
部屋に来たのは見た事のあるエルフ族の少女と、竜人族の魔法少女だった。ゼシカと知り合いだったらしい。
「え?この方は冒険者登録試験で……!」
エルが僕の顔を覗き込んでくる。あの時、試験会場にいたのか。
「なんだ。知り合いか?まぁいい。時間がないので単刀直入に言う。私も今回は冒険者としてエル、リンとハルト殿と一緒に行く。出発は明日の城騎士団と共に出発だ。これで4人1組で参加できる」
「ほんと!?また一緒に行けるの!?」
キラキラした眼差しで、ゼシカに抱きつくリン。エルも笑っている。元々同じ冒険者チームだったみたいだ。
「準備期間があまりない。ハルト殿と同じ宿屋に部屋を取っておいた。回復薬の確認や作戦会議をしようと思う」
「わかった!!」
「はぁい!」
順応が早い2人だ。
「うむ。ハルト殿はどうかな。こちらで勝手に盛り上がってしまったが?」
「問題ありません。まだチーム戦をした事ないので教えて頂けるとこちらも助かります」
「わかった。助けてもらってばかりですまないがよろしく頼む。詳しくは宿で話をしようか」
僕達は魔物の討伐に備えて宿屋フランへと向かった。




