第85話・南の町ウィンダ
―――南の大陸ウィンダ町―――
きりんに乗ってサウス山を越えさらに海を渡り、南の大陸の最北端の港町に着いた。
「クルミ!町が見えて来たぞ!」
「おぉぉぉ!亜人がいっぱい!」
活気のある港町だ。聞いていたとおり、亜人が確かに多い。人間もいるが、ほとんどが亜人とエルフ。クルミを連れてきて正解だったかもしれない。
亜人と一言で言っても様々で猫族から、犬族、兎族、狼族と動物の種類ほどある。
僕達は近くの宿に1週間程予約を入れ、聞き込みを始めた。僕とアリス、プリンとクルミで分かれて聞き込みを開始する。長旅で疲れたであろうきりんは、宿屋でしばし休憩してもらう事にした。
「すみません!妖精の蜜を探しているんですが、売ってるお店をご存知ないですか!」
「旅の方かい?そこの雑貨屋さんで聞いてごらん」
「ありがとうございます」
――カランカランカラン。
「いらっしゃいませ」
「すみません、妖精の蜜を探しているんですがありますか?」
「あぁ、まだあったと思うよ。ほら、これね。滋養と強壮にはこれだね。銀貨20枚だよ。まいどあり」
「これはっ!?……うむ。ただのハチミツじゃな」
『妖精の蜜』と言う商品名か。どうりで簡単にあるはずだ。
「美味しいから許すぞ」
ペロペロと指にハチミツを付けて舐めだしたアリス。
「あぁあぁあぁ、アリス、ちょっと箸もらってくるから待ってて」
アリスの指がきちゃきちゃになってる。本当、神なんだか子供なんだかわからない。
その日は結局、妖精の蜜は見つからず宿屋に戻った。プリンとクルミもちょうど戻って来て一緒に食堂へと向かう。
「プリン、そっちはどうだった?」
「成果なしですわ。ハチミツを買わされただけ――」
そう言いながらプリンとクルミが指を舐めている。そっちも指きちゃきちゃか。
「ご主人様!お腹すいたにゃ!」
「そうだな、晩ご飯にしようか。すみません!注文お願いします!」
それからきりんも呼び、皆で晩ご飯となった。
「ぷはぁ!もうお腹いっぱいじゃ!」
「ねぇさま!私はまだプリンを食べてないのです!」
「美味しかったにゃ!」
「ふふふ」
「ごちそうさまでした」
お腹もいっぱいになり、脱力感たっぷりの僕達。食堂では色々な会話が聞こえてくる。
「明日、キウイ山脈に向かうのか?」
「おう。なんでも妖精王が残したお宝があるらしいぞ!」
「ほんとかっ!俺達も行こうかな」
「いいな!一緒に行こうぜ!」
「おいおい、お前ら知らないのか?キウイ山脈には、恐ろしいアンデッドが住みついてるって話だぞ。誰も帰って来ないんだと」
「それは知ってるけどウワサだろ?どうせスケルトンレベルの雑魚よ、雑魚っ!」
キウイ山脈か。そういえばあれからギルドに行ったことがないな。ギルドで明日聞いてみよう。
――翌日。
「ご主人様!おはようございますにゃ!」
前かがみで誘惑してくるクルミ。本人はその気がなくても胸が目の前で踊っている。
「お、おはよう。クルミ」
目のやり場に困る。ふと窓を見ると曇り空。今日は雨が降るかもしれない。
僕達は支度をし、ギルドへと向かう。アリスとプリンときりんは雨が嫌いだからと、僕の胸にある宝石の中から外を眺めてる。何だか巨大ロボットになった気分だ。
ポツポツポツ……。
「あぁ、雨、降ってきた」
傘を差す僕とクルミ。ふとギルドに向かう途中、白い教会が目に止まる。そういえばエルバルト教会以外の教会は見たことがないかもしれない。
「クルミ、ちょっと寄ってもいいか?」
「はいにゃ!」
キィィィィ……!
「すみません!誰かおられますか!」
シィィィィン……。
古びた教会だ。中には人魚族やエルフ族の絵が飾られている。ひときわ大きい額縁には4人の人物画が描かれているが、色褪せていてほとんど見えない。
「誰ですかっ!」
奥から女性の声がする。
「勝手に入ってすみません!声はかけたのですが……」
「……そうだったんですか。こちらこそすいません。お墓のお掃除をしてまして気付きませんでした。私、この教会の司祭をしておりますエリサと申します」
「初めまして。僕はハルト、こっちがクルミ。と……あれ?あと3人いるんですが……」
「クルミにゃ!よろしくにゃん!」
人見知りなのか。アリス達3人は窓を閉め、様子を伺っている。
「まぁ、久しぶりのお客様です。どうぞゆっくりなさってください。今、お茶をいれますね」
エリサ――どこかで聞いたような名前だ。
「どうぞ。ショウガを入れたお茶です。温まりますよ」
「ありがとうございます。いただきます」
ズズズズ……。はぁ、体に染み渡る。
「ところでこの絵の方達は?ずいぶん古い絵みたいですが」
「えぇ、私がここに来た時にはもう色あせておりました。その昔、私の祖母がこの教会を建てたと聞いています」
ゴロゴロ……。
雷が鳴り出し、雨が強くなってきた。
「そうでしたか。エリサさんはずっと1人でここにおられるのですか?」
「はい。主人と2人でこの地に来たのですが、主人は流行り病で亡くなりまして……」
「それはお気の毒――!?」
ピカッ!ゴロゴロゴロゴロッ!!
「キャァァにゃ!」
「びっくりした!」
近くに雷が落ちたみたいだ。驚いたクルミが抱きついてきた。そしてなぜかエリサさんも抱きついてくる。ちょっといい匂いがする……。
「ごめんなさいっ!!びっくりしてしまって!」
「シャァァァァァァ!」
エリサさんを威嚇するクルミ。よしよし、落ち着け。髪をかきあげるエリサさん。よく見ると耳が尖ってる。まさかエルフ族だったのか。
「ここの教会は何ていう教会なんですか」
「今はクラウド教会を名乗っています。以前はウィンダ教会、この町の名前でした。しかし別の場所に新築の教会が建ちまして、今はそちらがウィンダ教会を名乗っています」
エリサさんいくつなんだろ?エルフ族って人間族の10倍は生きると聞く。見た目ではまだ30代くらいにしか見えない。
緑色の短めの髪に緑色の目。司祭の服がよく似合う。どこかで会った事がある気もする。
「どうかされました?」
ニコッと笑うエリサさん。ドキドキする。
「シャァァァァァァ!!」
爪を立てるクルミ。痛い痛い。
「雨やみませんねぇ……」
ザァァァァ……!
増々雨足は強くなる。そして雨漏りまで、し始めた。
ポチャン……ポチャン……。
「あらあら、大変。雨漏りだわ。桶はどこかしら?」
「ちべたいっ!」
ぶるぶるっと水を払うクルミ。ポツン、カラン、チュン、ピシャン、ポツン。
エリサさんがあらゆる器を出してきて、雨粒を受ける。賑やかな教会だ。
「桶が確かここにも……よいっしょ……うぅん。何か引っかかってるなぁ……うぅん!」
「あぁ、手伝いますよ」
「すいません。こちらを引っぱってもらえたら……」
エリサさんの服の裾の横から手を伸ばす。
「あ……ちょっとそこは……!」
「ん?」
何か柔らかいものが腕に当たる。何かとはうまく説明できないが、お餅のようなやわらかい何かを感じる。
「一気に引きますよ!!せぇのっ!」
スポンッ!バタンッ!
「いてっ!!」
引っかかってた桶があまりに軽く抜けてしまい、2人とも後ろに倒れ込み、僕の上に覆いかぶさるエリサさん。
そして今……たぶんだが、唇がふれた。お互いの顔が真っ赤になるのがわかる。
「よ、良かったですね!抜けましたね!」
「そ、そうですわね!良かった、良かった!」
ドキドキドキドキドキドキ……!
「この変態めっ!」
そう聞こえた気がするが知らん顔する。
「この変態」
「スケコマシ」
「若いっていいわねぇ」
「キモッ」
「キモモッ」
「あらあらまぁまぁ」
「だぁぁぁぁぁぁ!うるさぁぁぁい!お前ら出てこいっ!」
エリサがびっくりする!
「だ、誰ですか!ひゃぁっ!!」
突然、アリスとプリンときりんがエリサの前に現れる。
「わしは世界の創造主アリス・ウメ――」
「私はプリン!ねぇさまの金魚の――」
「ふふふ。お初にお目にかかります。聖獣のき――」
「3人同時に自己紹介をするな」
「え……ぇえと。はじめまして、エリサです」
ポチャン……ポチャン……。
自己紹介をしていると雨が次第に小雨になり、日差しが見える。
僕達は後日またゆっくりと教会に寄る事にし、今日はエリサさんに別れを告げギルドに向かう事にした。




