第81話・魔王とその仲間
―――北の神殿―――
俺の目の前で、素戔嗚尊の放った稲妻に撃たれ倒れる……月子。
「つきこぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「ガフッ……間に合ったか……」
「……おいおい。やべぇのが来たな」
「回復!!」
月子に回復魔法をかけてみるが……回復の兆しがない。
「月子!しっかりしろっ!」
「なんでしゃしゃり出るかねぇ……はぁ」
それを見てため息をつくスサノオ。
「やめだやめだ。しらけた。アキネ、帰るぞ」
「ハッ、ゴ主人様……」
「おい……待てよ……」
ドクンッ……ドックン……ドクン……胸の奥が熱い……!
この感じは以前にもあった……。月子が……目の前でまた月子が……。
ドックン!!
「ハァハァハァ……貴様ハ許サンッ……!スサノオォォォ!オマエヲ……コロスッ!!」
「はぁ?おいおい熱くなるなよ……もう終わりだって言って……!!」
俺はスサノオの言葉を遮り、詠唱を始める。
「――混沌の地より生まれし闇、我の声に答え、導け。我はこの世界を作るもの也……合成召喚魔法!!」
「おいっ!貴様!その魔法をどこで……!!」
『八岐の大蛇ッッッ!!!』
ゴロゴロゴロゴロ………ピカッ!!
またたく間に空に雲が広がり、雷が鳴り始める。そして……!
『シャァァァァァァァァァァ!!』
空から八つ首の大蛇が現れる……!!
「馬鹿野郎!!貴様!なんてモノを呼び出すんだ!!」
「シネ……シネ……シネェェェェ!」
八岐の大蛇。かつて素戔嗚尊が倒したという八つの首を持つ伝説の大蛇。
その伝説の大蛇が蘇り、空からスサノオめがけて襲いかかる!
『シアァァァァァァ!!』
「ちっ!天之叢雲雷帝!!」
バリバリバリッ!!
激しい稲妻が剣に宿り、スサノオの持つ天之叢雲が光り輝く!
「くらえっ!」
バシュュュ……!!
スサノオは、向かって来る大蛇の首をいとも簡単に切り落とす!
「アキネ!大蛇を食い止めよ!」
「ハッ……ゴ主人様―――」
アキネはうなずき、残りの大蛇めがけて斬りかかる。
「残念だが、俺様は一度ヤマタノオロチを殺した事があるんだ。そしてもちろんその倒し方も知っているっ!」
スサノオはそう言うと、俺の目の前から姿が見えなくなった。
「どこに……消えた……!?」
……ズシャ!
にぶい音が、自分の腹部から聞こえる。激しい痛みと剣の刺さる感覚が同時に全身を走り、背中から突き抜けた剣は俺の腹部まで貫き、そして引き抜かれた。
「があ……はっ……あぁ……」
ブシャ……。
月子のために買った翡翠の指輪が血で赤く染まり地面に転がる。同時に俺も地面に倒れ込んだ。
「はぁはぁはぁ……」
息が苦しい……そして目の前が真っ赤に染まっていく。月子……!月子は……月子は……!
手を伸ばすと横たわる月子の手に触れる。
「ごめ……ん……また助けてあげられ……」
言葉がつまり出てこない。
「かはっ!!」
血が止まらない。意識も朦朧としてくる……。
「フッハハハハハ!!ボウズ、残念だったな。ヤマタノオロチは術者の召喚。召喚した者を殺してしまえばいいだけの話だ。前は術者を探すのに苦労したが、目の前にいるなら話は別だ!俺の勝ちだな!」
空から現れたヤマタノオロチは消えていく。そして俺の意識も消えていく……。
「ナツト……今までありがとうよ……」
「月……子……」
そう、最後に聞こえた気がした。
………
……
…
ガガとザクスが戦場に着いた時には、既にスサノオの姿はなかった。そこに居たのは、血まみれで倒れるナツトと、月子を鎖でぐるぐる巻きにしているアキネだった。
ガガとザクスは当然アキネに戦いを挑むが、あっという間に敗北する。アキネはクロを操り、そのまま月子を背に乗せ飛び去って行く。
「……ザクス、生きておるか?」
空を見上げ仰向けのガガ。
「……もう動けん」
「グッ……せめてご主人様を……神殿にお連れするぞ」
「ハァハァ……承知した」
――北の神殿の王座。
俺は今、王座に座っている。
混濁する意識の中、まだ生きているらしい……。
手の中には指輪らしき感触がある。この指輪を月子に渡したかった……。
俺は握った指輪に、残された魔力と俺の血を注ぐ。
もしかしたら……いつか月子の呪いが解けるかもしれない……。そう信じて……。
ガガ、ザクス、ありがとう……目の前には横たわり動かない2人の姿がある。俺をここまで運んでくれたのだろう。生死を確認する力すら俺にはもう残っていない……。
俺の首にはチハヤ達がくれた金のプレートの鎖が切れ、ぶら下がっている。
よく見るとプレートの裏に――
『愛しています』
と刻まれていた……。
涙が自然とこぼれる。体が動かなくなり、そして冷たくなっていく中で胸の奥にわずかな温かさを感じた……。
「チハヤ……リン……メリー……ありがとう……さよう……」
うぅ……寒い……あぁ……そうか……俺はもう死ぬのか……体がもう動かない……この指輪が月子の手に渡りますよう……に……
月子……
ありがとう……
そして……さようなら……
俺はこの日、世界に別れを告げた。
◆◇◆◇◆
――数日後。
「聞いたか?なんでもネプチューン様の神殿に魔王軍が攻めて来たとか。その日からネプチューン様の姿がないそうだ」
「そうそう。ちょっと前に宿屋に泊まったのが魔王って話だぜ。なんでも魔力の指輪を買って行ったとか」
「うぇ。こえぇなぁ」
噂が噂を呼ぶ。いつしかナツトは魔王にしたてられ、ネプチューンを殺したとか殺していないとか、そんなおとぎ話になっていく。
―――北の神殿―――
「ご主人様、私共はこれからどうすれば……」
「なぁ、ガガ。しばらくご主人様が亡くなった事は伏せておかないか。何でも町の噂では、ご主人様が魔王という話になっているらしい」
「伏せてどうする?」
「いや、もしその名前が広まればどこかでチハヤ様の耳にも噂は入るかもしれないしな」
「……それも運命か」
「あぁ……俺らはご主人様に仕えると決め、俺らにとってはこの方こそ真の王であった。それに間違いはない。死ぬまで仕えていたい、と思う気持ちもわかるだろ」
「まぁな。私もそうかもしれぬ。どこかでもう一度、ご主人様に仕えたい、という気持ちがある……」
「……さてと。ガガ、行くか」
「ザクス……どこに行くと言うんだ?」
「決まっているだろう。スサノオを倒しにだよ」
「フフフ、面白い。付き合うぞ!」
そしてナツトは座したまま腐敗の魔法をほどこされ、いつしか魔王として崇められ、王座にはベールがかけられた。
幾百年にも渡り世界ではそんなおとぎ話が伝承されていく。
………
……
…
――エルフの里。
「ばぁばぁ!それで海を渡ったチハヤはどうなったの!その後、ナツトと会えたの?」
「いいや。それ以来会っておらぬ。チハヤは海を渡り、ナツトの子供を産み、そして流行り病でなくなったのじゃ」
ねぇ、チハヤかあさん――
「ふぅん」
「そのチハヤの子供はすくすく育ち、エルフ族と結婚して子供を授かった。その子供がお前のママだよ」
天国でナツトさんと会えてるといいね――
「エルよ。お前が大きくなったら引き継いで欲しいものがあるんじゃ。我が家に代々伝わる家宝……」
「かほう?」
「そうじゃ。チハヤが死ぬまで大切にしてた剣。……その名は獅子王丸じゃ」
チハヤかあさんが死ぬまで大事に大事にしていた剣。何度も聞いた。ナツトさんから預かってる剣だと、いつか必ず返す日まで――
「わかったぁ!大切にするぅ!ねぇねぇ!ばぁば!今度は違うお話して!エルはねぇ……」
この大陸では今でも、チハヤの意思は生きている。
―第6章完―




