第80話・素戔嗚尊
―――北の神殿―――
――翌日。
俺は北の神殿に再度足を運んだ。少しでも情報が欲しい……その一身だった。
「クロ、ここでいいよ。しばらく待ってて」
神殿の近くの木陰でクロから降り、神殿に向かう。
「あれ?昨日の門番がいない?」
入口には人の気配がなく、俺はそのまま神殿に入っていく。
カツン、カツン、カツン……。
俺の足音だけが廊下に響く。昨日案内され歩いた廊下には衛兵らしき者がいたが、今日はなぜか誰もいない。……やはり何かがおかしい。
王広間に着きドアを開けてみたが、司祭の姿もドラゴンの姿もない。そのまま誰もいない王座へと近付くと、王座の周りに何か跡の様な物が付いている。
「これは血痕!?何があったんだ!」
1人、俺の声が王広間に響く……と、東の窓から砂煙が見えた。
「何だあの砂煙は?妙な……胸騒ぎがする」
―――学校屋上―――
「で、どうするつもりなのだ」
「俺様の気分次第だなぁ、ん?」
屋上に設けられた扉の影から、屋上の様子を伺うチハヤとリンとメリー。
「あいつ悪いやつに見える……」
「リン、駄目よ。スキを見て逃げるわよ」
「そうメス、リン。静カ………エッ?」
その時だった。メリーがなぜか扉を開け、ゴロン――と屋上に転がりこんで動かなくなった。
「メリーどうしたの!?」
「メリー起きて!!」
「クックック。人間がおるではないか、どれ」
メリーが人形の様に不器用に起き上がる。首もうなだれたまま動かない。
「チハヤ様!気をつけろ!メリー様は素戔嗚尊に操られている!」
「ふん、ヴァンパイア風情がばらすなよ!」
スサノオが指を動かすと、それに合わせた様にメリーが杖を振りかぶり、ガガに襲いかかる。
「くっ!メリー様!正気に戻って下さい!」
間一髪でかわすガガ。
「あいつ嫌いッ!!」
「リンっ!危ないから――!」
チハヤの静止を振り切り、スサノオめがけてリンが弓を引き絞り放つ!
シュゥゥゥゥゥ!ザクッ!!
弓は見事にスサノオに命中した!かに見えた……。
「うそ……なんでっ!?」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
スサノオの目の前でメリーの胸に刺さる矢、そして辺りには血が吹き出す……!
「おや?どこを狙っているのか……なっ!!」
スサノオが指を動かすと血だらけのメリーは、今度はリンに向かって杖を振り上げる。
「うそ……もう……やめ……メリー……!」
ゴン―――!
にぶい音がして、リンもチハヤの目の前で倒れる。
「あぁ……あぁ………!」
言葉を失い腰を抜かすチハヤ。それを見て嬉しそうに笑うスサノオ……。
「クックックッ……!愉快だなぁ!あぁはっはっは!」
その隙を見て、ガガとザクスがスサノオに斬りかかるっ!しかしブンッ!と、剣は空を切る。
「くっ!かすりもしないのか!!」
「ガガ……こいつはヤバい……!」
「剣……とはこう使うものだ!」
スサノオが剣を振り上げると、剣が光り雷鳴が鳴り響く!
『天之叢雲雷電!』
「ギャァァァァァァァ!!!」
「グフッ……!」
カランカランカラン……!
ガガとザクスの剣が地面に落ち、落雷を受けた2人はその場に倒れこむ。
「おっ?ようやく後軍が着いたか、お前ら喰らい尽くせ」
「グォォォォォォ!!!」
スサノオが号令を掛けると、魔物の群れが学校へとなだれ込む。魔法障壁はスサノオによって破壊され、校内に避難していたチハヤ達の仲間も次々と殺されていく……。
「もうやめ……て……お願い……!!」
「クックック!素晴らしい光景だな!……ん?どうした?そうか、わかった。そちらに向かおう――」
誰かと念話らしき会話をするスサノオ。
「……お前らのご主人様が、俺の部下共を好き勝手殺してるみてえだな。おしおきをしてやらねばなぁ……転移っ!!」
そう言うとスサノオはチハヤの目の前から消えた。
「ご主人様がっ!?もう……いやぁぁぁぁ!!」
「ハァハァ……ザクス生きてるか?」
「……な、なんとか」
「チハヤ様……川岸まで逃げて人魚族の元へ……ハァハァ。私達はスサノオを追って、ご主人様を救いに……いや、盾になりに行きます」
「ガガ!ザクス!私も行きます!」
ちょうどその時、クロが空から舞い降りる。
「ギュィィィィィィィィィィ!!」
雄叫びをあげるクロ。
「そうか……お前もご主人様を助けたいのか」
ガガはそう言うとザクスと共に、クロに乗った。
「ガガ!待って!私も連れて――!」
「ネビュラよ、チハヤ様を人魚族の元へ」
「ワカツタ……オレ……」
「チハヤ様。今までありがとうございました。行って参ります」
バサァ!と羽根を広げチハヤを置いて、クロは飛び立つ。屋上には……動かないリンとメリーが残されていた。
「あぁ……!神様……!どうして……どうしてこんなことに!!」
メリーとリンを抱きかかえ泣き声をあげるチハヤ。すると、メリーの声が聞こえる。
「チハヤ……早くにげ……あなたのお腹には……ご主人様の……」
「!?メリー!しっかりして!!」
「……チハヤ。今までありがとう……ネビュちゃ……チハヤをよろし……」
チハヤの腕の中で息絶えていくリン。そして腕を伸ばし、チハヤの頭を撫でるメリーもニコッと笑い……すっと腕の力が無くなり息絶えていった。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
絶叫するチハヤ……と、バタンッ!と扉が開き、屋上にもいよいよ魔物が侵入して来る。
「グギアァァァァァァ!」
「チハヤニゲル……!リンノ、サイゴノネガイ……!」
ネビュラはチハヤを抱きかかえ屋上から飛び降りた。地上で待っていた人魚族にチハヤを渡すと、ネビュラはそこで立ち止まる。
「チハヤハ、イキテ」
「だ、だめ!ネビュラ!あなたも逃げてっ!」
ネビュラは首を横に振り、何も言わず魔物の群れに向かって走って行った……。
「チハヤ様っ!すいません!このまま逃げますっ!!」
人魚族に抱きかかえられチハヤは川へと入っていく。
「みんな……ごめんなさ……い……ごめんなさい!!!私……何も……何も出来なかった!!……う……うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
学校がどんどん離れていく。波しぶきで見えないのか、涙で見えないのか。涙が枯れるまでチハヤは泣いた。そして学校が視界から消えた時……!
ズドォォォォォォォン!!
凄まじい轟音が学校の方から聞こえ、空が赤く燃えてるいるのが見えた……。
◆◇◆◇◆
学校の上空で様子を見守る影が2つ。
「愚かな、わしの思い出の地を踏み荒らすとは……」
「ねぇさま!今日は格別の火球でしたわねっ!乾燥してたのかしら?しかし臭いですわね……」
「うむ。すべて燃やすには良き炎じゃった……」
―――北の神殿―――
「混沌の地より生まれし竜、我の声に答え、導け。我はこの世界を破壊するもの也!竜の嘆き!!!!」
風が止み、魔物達も異変に気付き動きが止まる。雲が太陽を隠し、あたりは暗闇に包まれる……。
そして天から魔物達の群れに一筋の明かりが漏れる。
次の瞬間!!
ズドォォォォォォォォォォォォン!!
ゴゴゴゴゴ……!
轟音と閃光が魔物達に向かって降りそそぐ!
ズドォォォォォォォォォォォォン!!
ゴゴゴゴゴ……!
「はぁはぁはぁ……あらかたの魔物はこれで倒したか?」
その魔物の中に潜む影が2つ。
「おいおい、俺様のかわいい玩具に何をしやがる。なぁ、アキネ」
「ハイ……ゴ主人様……」
「お前は誰だっ!」
「俺様は……そうだなぁ。魔王とでも名乗っておこうか。アァハッハッハ!」
「こいつは……強い。でもやるしか……!」
俺は妖刀村正に手を掛ける。
「漆黒の太刀――」
シュウゥゥゥ……!
「月陰!!」
バシュッッッッ!!
魔王を名乗る者の首筋に一撃が入った!と思われた。が、カタカタカタ――と剣が震えている。
何と魔王は指1本で村正を止めていた。
「くっ!!」
「ん?何かしたのか?クックック……」
俺は一旦後ろに飛びのき、間合いを取る。
「ふぅぅぅぅぅ……」
ガガを打ち負かした奥義……!
「月陰奥義月花!!」
キィィィィィィィィィン!!!
剣と剣が交わった、かん高い音が辺りに響く。
「止められたっ!?」
魔王は鞘から剣の一部を抜き……止めた。
「その剣は……まさか……!」
剣から異様な気配がする。
「クックック……この剣を知っておるのか。天之叢雲。俺様の相棒だ」
「まさか!お前が素戔嗚尊かっ!!」
「いかにも。だが、お前はもうすぐ死ぬ。語った所で意味はない」
スサノオは天之叢雲を抜く。
『天之叢雲雷電』
バリバリバリッ!
耳をつんざく音が聞こえたかと思うと、スサノオの持つ剣に雷が宿る。
「死ね」
閃光と稲妻が目にも止まらぬ速さで襲ってくる!
「避けきれないっ!?」
バリバリバリバリッ!!
「ぐっ!!」
目をつむり、雷を受け止めようと身構えた!!……が、なかなか攻撃が来ない。攻撃がハズレたのか?
そして目を開けると、目の前に倒れる人影が見えた。
バタンッ――!!
「な……何が起きたんだ?」
目に前に倒れる人影……そしてすぐにそれが誰かわかった。
「つきぃこぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」




