第70話・人形と複製
―――学校2階ホール―――
「うぅ……ここは……?」
「ご主人様、お目覚めですか?」
俺はチハヤのひざ枕の上で目が覚めた。
「まったく!びっくりしたではないか!いきなり倒れおってからに!」
「あぁ、魔法をつかって気を失ったのか……」
「ご主人様。ご主人様の手が、先程から私の胸を揉むのですが、やめていただくことは可能でしょうか?」
「へっ?」
俺はびっくりして飛び起きる。
「やっぱり変態ではないか」
「すいません。無意識です……」
「人前では恥ずかしいので、2人っきりの時にお願いします」
チハヤが積極的!?
いや、それよりさっきの魔法は……?眉間にシワを寄せ集中すると説明書きが表示される。
【竜の嘆き・神の化身の竜が天から咆哮し、またその威力は絶大で周囲の物をすべて破壊する】
「でも魔法が使えても周囲には敵になりそうな生き物もいないし……」
「いえ、ご主人様……そんな事はありませんよ。魔物の気配がします」
「魔物じゃと!?」
「魔物っ!?」
「嘘です」
チハヤはお茶目さんか。あれか、揉んだのがいけなかったのか。
「しかしながらせっかく固有スキルをお持ちなのです。武器等を作って、そういう対策も必要かと」
一理ある。
「よし、せっかく持ってるスキルだ。学校を住みやすくして、この生活を堪能してやるっ!」
「そうかそうか、とりあえずわしはベッドがほしい」
「わかった!月子!鋳造合成!」
あっという間にベッドが生成されていく。
「おぉぉ!」
「ご主人様、ここで作られると運べません」
「あ……うん」
チハヤは真面目な子だった。
廃校とはいえ、コンクリート造りで基礎はしっかりしている。
俺は2階の音楽室を改装し、部屋を作る事にした。室内に仕切りを立てれば3部屋は取れる。
それから男子トイレと女子トイレを改造し、脱衣所とトイレ付きのユニットバスを作っていく。
また洗濯、物干しも出来る様に廊下の一部を仕切り改良し、後は2階のホールを食堂に改造。
これで生活感は出てきた。生活水は小川から引くとして、食料と……そうだ、電気が無い。
「しかし月子。この材料はどこから出てくるんだ?」
「本来無いものを合成する場合、目に見える範囲の何かが代わりに無くなる。例えばベッドを作った時はそこの樹木が無くなった様だな」
「そうなのか」
便利な能力だが、身近な材料を代わりに消費するらしい。元々形がある物で壊れた物は、新品同様に直す事が出来た。俺が直したシャワーヘッドを月子が複製する。この要領で使える物を集めては直し、複製していった。
俺の知識は月子に聞いた話と書庫にあった本、機器の説明書がほとんどだ。歴史の本も数冊見つけたので、武器を作る際に参考にする事にしよう。
そして壊れたソーラーパネルが屋上にあり、試行錯誤の上数日かけて修理をした。これで電気も使える。
1階はまだ手つかずの為、2階の踊り場に玄関を設け生活空間を分ける。それからチハヤが毎日掃除をし、学校中をピカピカにしてくれた。
――こうしてあっという間に1週間が過ぎる。
「ふぅ、疲れた。これでボイラーの設置は完了と。月子、ちょっと片付けをしてくる」
「わしはちょっと寝る」
トイレ裏の物置に体育館にあったボイラーを移設し、お湯を使える様にした後、体育館の片付けを済ませ、また戻って来る。
「そうだ……お湯が出るか最後確認しないと……」
そんな事を考えながら、脱衣所の戸を開ける。
「ちゃんとシャワーが使えたら良いのだけ――」
「……きゃっ」
「あ、あ、ごごごめん。ちょっと考え事をしててて。失礼します」
ドキドキドキドキドキドキ……!
月子が複製て言うから人形的なイメージを勝手に持っていたのだが、今見たチハヤは完全に人間の女性だった。
急いで隣のシャワールームに入りシャワーを浴びる。ちゃんとボイラーの設定が出来ているかどうか……そんな事より彼女の裸で頭はいっぱいだった。
――数日後。
俺達は前に魔法の練習をした川へと魚釣りをしに来た。
「ふぁぁぁぁ。釣れないなぁ……」
「うむ。あれじゃろ。潮とかが関係あるんじゃろ?」
「私も釣りは苦手です。お掃除や料理の方が……」
「そうじゃのぉ……あっ!ちょっと待っておれ!」
月子はそう言うと、1人学校に戻って行った。
「……ご主人様。そのぉ……この前はムラムラしましたか?」
ぶっ!水を飲みかけて吹いた。
「ごほっごほっ!そ、そんな事!」
「大丈夫ですかっ!ご主人様っ!」
チハヤが目の前に寄ってくる。潮風にのってチハヤから石鹸のいい香りがする。
「う、うん!大丈夫!」
チハヤの横にあるエサを取ろうとして、腕が胸にふれる。……柔らかい。
「……きゃ」
「すいませんすいませんすいません!」
「ふぅ、ナツトは変態を極めるつもりか」
「げげっ!月子っ!?戻るの早くないか!」
「ほれ、出来たぞ。魚釣りや狩りが得意な複製体がな!」
「はじめまして!ご主人様!星野凛ですっ!あんまり痛くしないで下さいね」
「どういたしまして……いや、はじめまして。ナツトです。よろしく」
「胸ばかり見るんですね!ご主人様!」
リンは眼鏡をかけてちょっとおてんばそうな、胸が大きめの女の子だった。
「ちょっと釣り竿借りますね!皆さんは学校で休んでて下さいっ!」
――その日の夕方。
俺と月子は疲れて、ホールのソファでいつの間にか寝てしまっていた。
ソーラー発電のおかげで古いエアコンから部品を精製し、新しいエアコンを作り、校内環境は益々快適になっていた。
「皆さん戻りました。釣れましたよっ!」
リンが魚と貝を取って来てくれた。
「リンさんすごいです!晩ご飯はこれで決まりですね!」
「よくやったリン。お主を釣り隊長に任命する」
「はいっ!ありがとうございます!月子様!」
ノリがいい子だった。
「汗かいたのでシャワーしてきます!」
「リンさん、ご主人様に気をつけて」
「チハヤ、余計なことは言わんでよろしい」
新しい共同生活者が増え、生活は益々豊かになってゆくのであった。




