第69話・千賀夏翔
――時は遡り、ハルトがまだこの世界に来る前のお話。交通事故で生死を彷徨ったハルトはアリスによって複製された。その時、偶然にもハルトとは別の複製された魂があった。それが……。
――マサミカ大陸北部、魔王城。
「うぅ……寒い……。あぁ……俺はこのまま死ぬのか……体がもう動かない……。月子……この指輪に俺の全てを……いま……まで……ありがとう……さような……」
こうしてナツトは魔王城の玉座で最後を迎える。
………
……
…
◆◇◆◇◆
また夢を見ているのか……?
記憶の中に何かが見える。
『THE複製!!』
「ざこ……ぴぃ?はは……は、ゲームばかりし……て……」
…
……
………
目覚めると真っ白な天井が見えた。最近、同じ夢をよく見る。そして決まって同じ所で目が覚めた。
「またあの夢か……」
「ナツト!ナツト!起きろっ!朝だゾっ!」
眩しい……部屋のカーテンを開け、俺の体を揺らす女の子。
「うぅん……おっかぁもう少し……寝かせて……」
「だれがおっかぁじゃいっ!」
「いてっ!!」
俺はベッドから転がり落ちる。
「月子っ!お前なぁ……」
「ふんっ!早くご飯をくれ!」
この子の名は月の子と書いて月子。そして俺の名はナツト。千賀夏翔と書く。
目覚めてもぼんやりした夢の記憶がある。はっきりとは思い出せないが、なぜか懐かしい感じがする夢だ。
「しかしなぁ。何もないよなぁ、ここ……」
俺が目覚めた時にはこの廃墟となった学校以外には、周りに山と小川があるくらいだ。幸い山のふもとに果物がなっており、何とか生き延びている。
時計は動かない、カレンダーも朽ちている。1階の窓ガラスはほとんどが割れていて、草や木が生えている。
「ほれほれ。顔を洗ってご飯にしよう!」
「ご飯たって……また果物と木の実……か」
「良いではないか!食事が出来ると言うことは――」
「はいはい……」
「もぐもぐむしゃむしゃ……」
「いつも同じで飽きない?」
美味しそうに食べる月子。
「むしろご馳走じゃろ!虫や蛇を食べてるわけではないしな!くっくっく!」
「食べながらしゃべるのはやめてくれ……はぁ」
俺がこの学校で目が覚めたのは1週間程前。それまでの記憶が……ほとんどない。しかし、言葉も話せるし理解もできる。
彼女、月子は俺が目覚めた時には既に学校にいた。短い金髪に、赤い目が印象的なただただ生意気な女の子。
「なんじゃ。つまらなそうな顔して」
「いや、このままだと何の展開もなく、孤独死していきそうな気がしただけだ。気にするな」
「では面白いものを見せてやろう!」
手品でもしてくれるのか?
「てじなーこ!」
いや、ほんとに手品を始める気だ。
「月子月子。もういいよ、手品を見ても腹は膨れ――!?」
『THE複製!!』
「えっ?今、何て!?あの夢と同じ言葉!?眩しいっ!!」
目が眩む様な眩い光が走り、光が消えると目の前に1人の女性が立っていた。
「はじめまして、ご主人様。私は布施千早。おいしく召し上がれ」
いや、ツッコミどころが多すぎて困る。
「月子!この子はっ!」
「複製体じゃ。お主がいつも見ているほれ、あの写真とかいう」
「あぁ、アルバムの写真か……」
そう言えば1階の書庫でアルバムを見つけ、何度か見ていた。
「そこでじゃ。お主がいつも見ている写真から情報を読み取り複製をしてみた。初めてだがなかなかうまくいったようじゃ」
――布施千早。
確かにアルバムにはそう書いてあった。なぜ彼女だったのかはわからない。ただぼんやりと惹かれるものがあったのだ。
だけどおかしい。写真は小学生なのに、複製体は成人している様だ。面影はあるが明らかに大人の女性だ。
「ご主人様。ワタシになさいますか。それともタワシ?」
性能はいまいちみたいだ。
「チハヤ、俺はナツト。よろしくな」
「ナツト?ご主人様。記憶しました」
口調がロボットぽいのが気になるが、まぁいいか。
「ナツトよ。チハヤは交尾もできるぞ」
「ぶっ!」
思わず水を吹き出す。
「月子っ!そういう事は言わないっ!」
「くっくっく。この変態」
疲れる。そういえば、さっき月子が……。
「月子。さっきどうやってチハヤを出したんだ?」
「スキルじゃよ。固有スキルと言ってな。こう、眉間にシワを寄せて集中するとこの辺に何か見えるじゃろ?」
「こうか?」
眉間にシワを寄せて集中してみる。確かに何か文字みたいなのが浮かんでいる。
【name・ナツト 種族・人間族 固有スキル・鋳造合成】
「何だこれ!」
はっきりとは見えないが文字が浮かんできた。
「ちなみにわしの固有スキルは『物真似』じゃ。すごいじゃろ」
「いや、すごいかどうかもわからんが……」
月子が自慢げに腕組みをする。
「月子、この鋳造合成とかいうのはどんなスキルなんだ?」
「目で見える範囲の物を合成して何かを作る、と言った感じじゃな」
「へぇ……鋳造合成」
俺がそう唱えると目の前に椅子が現れる。
「おぉ?椅子が作れた……ちょっと!もしかして魔法なのか!?」
「魔法とはちょっと違うのじゃがな。しかし魔法と呼ばれるものもあるにはある。その個体の潜在能力によるのぉ……そもそも適正があるかどうかじゃ。後で試してみるか?」
「あぁ、頼む。教えてくれ」
―――学校東の川―――
翌日、俺達は学校から1キロ程東にある川辺に来ていた。
川幅は百メートルはあろうかというこの川は、海にも繋がっているのだと言う。
「こんなとこでするのか?」
「うむ。暴発する可能性もあるからの」
俺は教えてもらった通り意識を集中する。目の前にボヤケた魔法らしき文字列が見えてくる。
「どれにしようかなぁ……詠唱の無いのが良いな……」
詠唱は魔法自体をイメージしにくい時に口にする事で、具現化しやすく、また中でも神族魔法と言う魔法を使う時は絶対必要らしい。
「これがいいな……詠唱も無さそうだ。行くぞ!『竜の嘆き』!!」
しゃきーん!とポーズを決めて放ったにも関わらず何も起こらない。恥ずかしさで顔が赤くなるのがわかる。
「………」
「失敗じゃ。その魔法は初心者には扱えないみたいじゃな。そもそも適正があるかもわからぬ。次の魔法をしてみよ」
「ぐぬぬ……」
負けるものか、きっと恥ずかしさのせいだ。この恥ずかしさを克服してやる。
「竜の嘆き!竜の嘆き!竜の嘆き!!」
しかし、何も起こらない。
「………くそぉ!何も出ない!」
「やれやれ……」
月子が目を合わせないように向こうを向く。他人のフリをするな。
「くそぉ!『竜の嘆き』!!」
次の瞬間っ!
突如指先が光り出し轟音と共に、光の柱が川の上に現れる!!
その光は雲を貫き、川を割り、衝撃波と音が遅れてやってくる!!
ズゴォォォォォォォォォォォン!!
バシャァァァァァン!!
「あぁ……あぁ……あぁ……でた……」
「は……?な、なんじゃそれは……」
月子が口を開けたまま鼻水を出している。
まさか発音が間違っていたのか。しかしこれはやばい、だんだんと意識が遠くなる……。
俺はそのまま意識を失いその場に倒れ込んだ。




