第65話・ゼシカのドレス
―――ウェスタン王国会議室―――
――数日後。
僕はアリスとマリンを連れてウェスタン王国の国家会議に参加した。ゼシカ、チグサ、サルトも呼ばれている。
「静粛に!只今よりウェスタン王国国家会議を始めるっ!」
パチパチパチ……!!
「うむ。先日、そこにおられるコリータ国王ハルト殿によってわしの命は救われた。そして幾度となく、このウェスタン王国を救ってくれた。まずは礼を言おう」
国王が立ち上がり僕達に頭を下げる。大臣、騎士長、神官もこれにならう。
「いえ、そんな、当たり前……」
「野のクラッカー」
アリスっ!やめぇぇいっっ!
「アリス様駄目です!皆さんすみません!すみません!」
「ぷふぅぅぅ……」
マリンが慌ててアリスを止め、謝罪した。会議室には沈黙が訪れる……。
アリスだけがツボにハマり、くすくす笑っている。誰にもわからないネタを仕込むな。
「こ、こほん。それでは本題に入る。先日、ハルト殿より提案のあった後継者について協議した結果じゃ。まず、サルトの養子縁組の話じゃがコモル大臣説明を」
「はっ!それでは説明致します。本件の養子縁組ですが、ウェスタン王国規定第8条2項によりまして、国王の親族、並びに王族の血統であるものが国家の統治及び、運営を行うものとする。また養子縁組についても繁栄を妨げるものでない場合は同等の処置とする。に該当致しますので認められる事となります」
ふぅん……でどうなるの?
「という事なのじゃ」
どういう事?
「双方の意思が同意するならば、本日書面にて契約を行い、サルト王子をハルト殿の養子と致します」
パチパチパチ……良くわからないが、皆に合わせてとりあえず拍手をしておこう。
「続きまして……」
――眠い。アリスは既に寝ている。いいなぁ、僕も寝たい。長々と大臣の話は続くが全く頭に入ってこない。マリンがメモしてるから後で聞こう。
と、マリンが肘で合図をしてくる。何だ?
「(返事をしてください)」
口パクで何か言ってる。
「(どうしたの?)」
「(ほらっ!返事聞かれてますよ!)」
「(きょうみんながすきやき?)」
僕も口パクで答える。それがマリンにはこう聞こえた。
「(きみがすき)」
「あれぇぇぇぇぇ♡」
バタンっ!椅子ごと卒倒するマリン。
「ちょ!どうしたの!?」
「救護班っ!!急げ!」
びっくりして目が覚めた。すきやきをみんなでしたいとか、そんな事を言う暇があったんなら「気分が悪い」と早く言えばいいのに、まったく。
バタバタと救護室に運ばれていくマリン。
「こほん。体調がすぐれぬ者は早めに言うように」
「静粛に!それではハルト殿、よろしいかな?」
「はい。構いません。続きを……」
『オォォォォォォォォ!』
「静粛に!それでは同意が取れましたので、ウェスタン王国の次期国王はハルト殿に決まりました。尚、サルト王子が成人を迎えるまでの期間となります」
「へ?」
僕がウェスタンの国王?
「ちょっと待ったぁぁぁぁぁ!!」
「ごめんなさい」
いや、アリス……告白シーンじゃないからね。
「ぷふぅぅ」
いつも思うけど笑い方独特よね、アリス。
「次期国王は兼任になるので、その、ほら、あれです。無理で……」
「大丈夫ですわっ!私が支えて見せます!」
「ゼシカ余計な事を言うな」
『オォォォォォォォォ!!』
パチパチパチパチッ!!
「ピューイ!」
ピューイも来てたのか。
あんなこんなの養子縁組で、サルトは僕とゼシカの子供になった。必然的にゼシカとの正式な婚姻が決まり、そしてなぜか次期国王になった。ただウェスタン国王がすぐに引退ではなく出来る限り続けるそうなのでしばらくは大丈夫そうだ。その間に覚えることが山ほどありそう……。
サルトが成人を迎える頃、正式にサルトとチグサが婚姻をし、世代交代と言うわけだ。
「あぁ、最後にひとつ良いですか?」
「どうぞ、ハルト殿」
注目する一同。
「チグサは僕の妹です」
パチパチパチ……パ……!ん?拍手が鳴り止んだ。
「びゅぇぇぇぇぇ!!!」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
会議場内がどよめく。
「ちょ!ちょっち!待て!ということはあれか。前メル王妃の子供ではないから、どのメイドの……!いやそうなるとハルト殿はわしの息子に……あわわ……」
卒倒するウェスタン国王。
「いかんっ!救護班を呼べっ!」
ウェスタン国王よ、まさかあなたも神の指示で子作りをしているのか?と思ってしまう。
「スケコマシ王国じゃな」
「国王だけね」
「お兄ちゃんっ!!」
チグサが走ってきて、飛びついてくる。
「お兄ちゃん!思い出してくれたのね!アリス様!もう言ってもいいんだよね!」
「うむ。許可する」
「千草。遅くなってごめん、ただいま」
「お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん!おかえり!!ぐす……」
「よしよし。ただいま、千草」
「びえぇぇぇぇん!!えぇぇぇぇぇぇぇん!!」
号泣しだす千草。よしよし。
「そうなると、ハルト殿の妹とハルト殿の子供が婚姻するという事になるわけでそうなる場合は法律の第……うぅぅぅん」
バタン……次に卒倒するコモル大臣。
「いかんっ!コモル大臣が倒れた!救護班を呼べっ!」
こうして慌ただしい会議は終わった。
そう言えば今夜はすきやきなのかな。マリンがそんなことを言っていた。
「愉快じゃっ!しっしっしっ!」
アリスはいつも通りだった……。
―――ウェスタン王国食堂―――
その日の夜。ウェスタン王国で身内だけの晩餐会が行われた。
メインはゼシカ。白いドレスで着飾り、耳には赤いイヤリングが輝き、青い髪と青い瞳が眩しかった。
「あなたどうかしら?いつもは鎧姿だから……ドレスは着なれなくって」
「すごく綺麗だ」
「ほんと?嬉しい。幸せになろうね……」
「当たり前……」
「……野のクラッカー!ひゅーひゅー」
「ピューイ!!」
こいつら……はっ!!
「アリスッ!今日こそはお仕置きしてやるっ!」
「あっかんべぇ!ピューイ逃げるぞ!」
「はいっ!アリス様っ!」
「アリス様っ!走ってはいけません!」
「ちょっと待てっ!」
逃げ足が速い……とチグサとサルトがやって来る。
「お兄ちゃん!今度またお泊りに行ってもいい?」
「ぼくも行きたいですっ!お義父さん!」
「ふふ。当たり前野のクラッカーよ」
ゼシカまで……おーい。そろそろクレームくるぞー。もうやめとけー。
「ちゃんと王族のお勉強してたら週末はコリータで2人を預かろうか。あとで国王に言っておこう」
「やったぁ!!」
そうなんだな。やっぱりここはニッポンなんだな。祭りもそうだし、月や日、週末まで言葉が通じてしまう。失った物も多いけど……新しい世界も作られているんだな。
ふと窓の外を見ると大きな月が出ていた。そう言えばまだカエデ達に連絡してなかったな。後で連絡を……。
そんな思いにふけっていると、突然兵士が慌てて会場に入ってくる。
バタンッ!!
「急報です!!国王様っ!」
「なんじゃ、騒々しい」
「物見から知らせがあり!西のイスタン帝国がほぼ崩壊っ!魔王なる者が現れ蹂躙しているとの事っ!!」
「なんじゃとっ!!」
僕は急いで西側の窓を開ける。
「なっ……!?」
遠くで西の空が赤く燃えているのが見えた……!




