第57話・王妃の死
―――ウェスタン王国牢屋―――
「すみません、王妃の部屋を確認したいのですが」
「あっ、コリータ城主様。どうぞ、こちらです」
カツンカツンカツン……。
階段を降りる足音が響く。
僕達は王妃が幽閉されていた部屋へと着いた。牢屋に閉じ込められていると思っていたがきちんとした部屋になっており、ウェスタン国王も王妃に慈悲をかけたと言うのがわかった。
部屋には亡き王妃の姿はすでになく、魔法陣だけが残っている。
「うむ。この魔法陣は自身の命を燃やして、呪いをかける魔法か。やっかいじゃのぉ」
アクアが王毒と呪いに関する本をペラペラめくる。
「ありました。これですね。イスタン帝国の王族に伝わる秘術とありますね。この呪いを解くには……『呪いの血をまとわせた神器・天之叢雲を捧げよ、さすれば天の加護が舞い降りる』と記載されています。が、これは100年近く前の古い書紀ですね。神器もそもそもあるかどうか……」
「天之叢雲か!そうじゃ思い出した!ミヤビが持っていたのが天之叢雲じゃ!」
「アリス様ご存知なのですか!?その神器はイスタン帝国に代々伝わる家宝にて、門外不出とも書かれています。呪いをかけた者も呪いをかけられた者も、同じ方法で呪いが解けるそうです」
「……もしやミヤビは盗んで売る気だったとか?」
「それはなかろう。あれは神器じゃ。迂闊に扱うと災いが降りかねん」
そこへ偵察中のカエデから連絡が入る。
「――ご主人様、ご報告です。数日前に王妃宛に手紙と神器が送られたそうです。神器は輸送中に盗賊に盗まれたと。また今回の進軍は王妃の奪還、主犯はコブラを名乗る大臣かと」
リアルタイムで情報が入ってくる。部屋を探ってみると、机から王妃宛の手紙が出てきた。
「これか、魔法陣の書き方が記されている」
手紙には魔法陣の書き方、使用後は神器を使い呪いを解けと書かれている。しかし神器は王妃の元へ届かなかった。いや、わざと届けなかったのか?盗賊に盗ませるフリをして……。
手紙の差し出し人はイスタン帝国大臣コブラ。この大臣がすべての元凶と言うワケか。
「カエデ、聞こえるか?大臣のコブラを探ってくれ、だが深入りは禁物だ。危なくなったらすぐに帰国して欲しい。今からきりんを向かわせるから合流してくれ」
「はい、ご主人様」
「きりん、カエデを頼んだ。小型化すれば町中でも大丈夫だろう」
「わかりました。ご主人様、行ってきます」
そういえばゼシカの話をした際に、食堂にいたのはアリスだけじゃなくきりんもいたのか……。あれは全部聞いてたな。
僕達は牢屋を後に王広間へと向かう。王広間にはエル、大臣達とチグサ、サルトが集まっていた。
「エル、ゼシカの容態は?」
「寝てる」
「そうか。後で行くよ」
「う、うん……」
なんだか歯切れの悪いエル。
「お兄ちゃん!お父様は助かるのっ!?」
「チグサ、安心して。呪いを解く方法は見つけた。皆、聞いてくれ!」
ざわざわざわ……。
「ウェスタン国王にかけられた呪いを解くには、剣聖ミヤビの持つ剣の力が必要だと言う事がわかった。ミヤビは現在ウェスタン王国からコリータ王国に移動中だ。見つけ次第確保とする。ミヤビは元イスタン帝国の人間だが現在はコリータで預かる身である、手荒な真似はするな。ただちに捜索隊を派遣してくれ!」
「はっ!!ただちにっ!」
バタバタバタ……!大慌てで出ていく大臣と近衛兵達。さて次は……。
「サルト、ちょっと話がある。エルとチグサは先にゼシカのところで待ってて」
コクっとうなずくエル。
「ハルトさん、ぼく……うぅ……」
王妃の死に様を見たのだろう。普段、嫌ってたのは態度でわかったが実の母が亡くなったのだ。思う所もあるのだろう。サルトをそっと抱きしめて、頭をぐしゅぐしゅにしてやる。
「男だろ?サルトにしか出来ないお願いがある。聞いてくれるか?」
「……ヒック、ぼくにしかできないこと?」
「そうだ。良く聞け、いいか――」
僕はサルトに話ながら、自分自身にも言い聞かせるように言葉を選んだ。
――話終えると、ようやく泣き止み男らしい顔になったサルト。
「よし、いい顔だ。皆とミヤビを探して来てくれ」
「わかりました!ハルトさん!」
きっとこれでいいんだ。
「うむ。ちょっと生意気な発想だが、今は褒めてやる」
「アリス……僕はどうなっても、アリスの側にいるから安心してくれ」
「き、きもちの悪い事を言うな!ばか!はなくそっ!ちんげんさい!」
言ってる意味はわからないが、プンプンしながら照れ隠しをするアリス。これで良いんだ。
さて、ゼシカの容態を見に行こうか。
―――ゼシカの部屋―――
コンコンッ!カチャ……!
「ゼシカ、遅くなった」
室内にはアクアとエル、チグサが待っていた。
「ハルト、心配かけたわね。ごめん」
「ゼシカ、気付かなったこっちこそごめん」
「ちょっと2人にしてあげようか」
アクアがエルとチグサを促し外に出る。
「アクアありがとう」
僕はゼシカと2人きりになる。
「あのね、ハルト。私、その……」
僕はゼシカを抱きしめた。
「わかってる。僕が責任を取るよ」
「え?!そんな急に言われても!?」
真っ赤になるゼシカ。
「大丈夫。きっと皆、わかってくれる」
「嬉しい……あ、ありがとう……」
泣き出すゼシカ。
「子供の名前も考えなきゃな」
「あ、うん。でももう考えてあるの。男の子でも女の子でも……チ・ハ・ル。ふふ」
「良い名前だな」
「でしょ?ふふ」
何だか心穏やかな気持ちになる。これが幸せってやつなのか。
コンコンッ!カチャ……!
「ゼシカ嬢ちゃん!薬持って来たぞ!すまんなぁ。王毒だと勘違いして!タイミングがタイミングだったからなぁ。まさかな!はっはっは!」
「あ、先生。ハルト、こちらが王宮専属のお医者様よ」
「先生、初めまして。こちらこそ、勘違いしてしまって。で、いつ頃産まれそうなんですか?」
「薬が効けば楽になって、自然に出るとは思うのじゃが。今日……明日には出るじゃろ」
「そんなに早くですか!?ゼシカ!大丈夫なのか!」
「ふふ。もうあなたったら!恥ずかしい!」
「いや……えと……」
お前ら何を言っているんだ。子供が産まれるのにそんなに呑気にしてていいのか。出産準備とか、そういうのはいらないのかっ!
「嬢ちゃんはただの食べすぎじゃからのぉ。自然に出すのが一番じゃが、胃が痛いのは苦しいもんじゃ。ほれ薬はここに置いとくから飲むんじゃぞ。それじゃぁな」
そう言い残し、部屋を出ていく先生。
「やだわ、ハルトったら。先生に産まれるとか言っちゃって。まるで子供が産まれるみたいじゃない……恥ずかしっ!」
「は?どういう……」
コンコンッ!カチャ……!
「先生の話は終わったのかな?ゼシカ、病気とかじゃなくて良かったね。ただの食べすぎだってね」
「あ、アクア。リンが隠してたお菓子、全部食べちゃって……心配かけてごめんなさい、てへ」
「……は?どういうことだ?」
「ぷぷぷぷぷぷ……!」
「おいおいおいおいおーーーーーい!!アリス!お前知ってたのか!」
「ど、どうしたの!ハルトっ!?」
僕は色んな意味で深く反省をした……。




