第56話・王毒と呪い
―――ウェスタン王国西の街道―――
イスタン帝国が進軍の中、レディとベリアルの師匠ミヤビとの戦闘で勝利し戦場から離脱させることに成功した。
「ミヤビはウェスタン王国を迂回し、コリータ王国のベリアルを訪ねてくれ。連絡は入れておく」
「ベリアル?あやつも居るのか。わかった。月、金貨100枚忘れるなよ」
「わかってる」
剣の腕は立つ。ネプチンの城の守りに就かせるのが良いかもしれない。それにあの妙な刀、できれば敵に回したくない。
さて敵の進軍はまだ終わってない。カエデと共にきりんに乗り再度大将の首を狙う。
「ご主人様!前方200m!12時の方向です!」
「わかった……!金剛弓連奏!」
キュイィィィィィィィィン!!
シュゥゥゥゥゥッ!!!
7本の矢が敵大将に向かって飛んでいき、今度は敵の大将に命中した。慌てるイスタン帝国兵。ミヤビを探す声も聞こえるが、時すでに遅し。戦線離脱したミヤビはもういない。大将を失った帝国兵はしばらく進軍していたが、結局退却をする様だった。
「カエデ。あの退却兵に交じり、今回の進軍の原因を調査できるか?」
「もちろんです」
「頼んだ。僕はウェスタン王国で待機しておく」
「はっ!」
そう言うとカエデは退却する帝国兵の中へ消えていった。あれはもう……忍者だな。
「きりん、西門の城壁の上へ」
「わかりました。ご主人様」
僕は一旦、ウェスタン王国に戻る。城壁の上には近衛兵に混じりゼシカもいた。
「ハルト!どうだった?」
「きりん、ありがとう。ゼシカ、帝国兵は撤退したよ」
「そうかっ!それはよか……うぅっ!!」
急にうずくまるゼシカ。
「えっ?!ゼシカ!大丈夫かっ!!誰かっ!!救護室へ!!」
急にゼシカが苦しみ出した。そういえばウェスタン国王も病に伏せたと言う。もしかして流行り病なのか。病は魔法では治せない……ともかく原因を調べないと!
―――王宮救護室―――
「うぅむ。もしかしたら、王族が発症すると言われる病。王毒かもしれませぬ」
「王毒?それは治るのか?」
「確か、サウスタンの町に詳しい者がいたはずですが……私どもではわかりかねます」
王毒。医者の話では王家の血筋にて、世代交代がなされるタイミングで蔓延し、生命力の強い後継者を残す為に神が与えた試練だと聞いた事があると言う。言うなれば呪いのたぐいである。
「マリン!聞こえるか!」
「……しもーしー、あ、はい。ハルト殿、どうなされました?」
「すぐに戻る。転移魔陣の準備を頼む」
「わかりました」
ゼシカを置いて帰るのは心苦しいが、原因がわかるまで少しだけ我慢してくれ!僕は急ぎコリータへ戻った。
―――コリータ王国―――
「ハルト様、いかがされましたか!」
僕はマリン達に事情を説明する。
「それでしたらアクアがちょうど解析をしています。ウェスタン国王様の病の原因を探るのに、何でもサウスタンの図書館にあった本がどうこうと」
そういえばプリンの事故で忘れていたけど、アクアに頼まれてた本は『王毒と呪いに関する本』だった。
「すっかり忘れてたよ。そう言えば頼まれていた」
「何でもエルさんがプリンさんをこちらに運んで来る際に、一緒に持って来てもらっていたみたいです」
「ナイス!エル!あとは呪いの解き方次第だな!」
僕は救護室へと向かった。
―――イスタン帝国領街道―――
退却中のイスタン帝国兵。
「しかし、何だったったんだ。今回の進軍は?」
「わかんねぇ。ウェスタン王国に攻める前にうちの大将がやられたみたいだけど」
「結局、誰が言いだしっぺなのさ」
「何でもコブラ大臣の号令だったとか」
「あぁ、あの大臣か。私利私欲で生きてそうだもんな」
「言えてる。そういえば今回は王妃の奪還目的と見せかけて戦闘の最中に暗殺する。て噂があったぞ」
「それは本当か?」
「いや、噂だけどな。しかし剣聖ミヤビが軍に居たのは怪しいよなぁ」
「あぁ確かになぁ。普段は戦場なんか来ないもんなぁ」
「まぁ早く帰って飲みたいぜ」
「言えてる!ハッハッハッ!」
カエデは退却する兵士の合間をぬって情報を集めていた。
「……まさか。王妃が狙われていた?実の娘を暗殺させるのか。イスタン王は……とりあえず報告をしとくか」
―――コリータ王国救護室―――
「……あぁ、わかった。引き続き頼むよ。こっちでも聞いてみる。ありがとう、カエデ」
「ご主人様、お茶が入りました」
「ありがとう、クルミ。それでアクア、王毒の話は何かわかったのか?」
「そうですね。結論から言うと、王毒の呪いを解くのは不可能。それは王族の血筋から来る遺伝子の仕組みを変える事になるからです。今回チグサさんは発症していません。それを踏まえると今回の件はおそらく……」
「おそらく?」
「おそらく王毒ではないです。ウェスタン国王様は別の呪いの可能性。そして症状を聞く限り、ゼシカさんは別の可能性が……」
「……ん?」
救護室には僕、アクア、眠っているウェスタン国王しかいない。いつもならアリスが茶化してくるのだが、まだ寝ているのだろう。救護室に沈黙が流れる。
「ハルト殿。身に覚えがあるんですか?」
「ゼシカの事は一旦置いといて……よ、よし。急ぎウェスタン国王の呪いを調べよう」
「……あやしい」
コンコンッ!
「失礼します。急ぎご報告があります。エルさんがゼシカさんの容態を見に行ったのですが、今は落ち着いてるとの事。それと幽閉されていた王妃が亡くなりました」
「何だって!?」
「エルさんが言うには牢獄の中におそらくですが、呪いの魔法陣が書かれていた。という事です」
「繋がりましたね。呪いの原因は王妃。呪いの相手はウェスタン国王様。国王を亡き者にして、自分、あるいは息子が王位継承権を掴むつもりだったのでしょう」
「そう言う事か。チグサが発症してない時点で王毒ではないと。そして国王への恨みで王妃が呪いを……アクア、一緒にウェスタン王国に来てくれ」
「わかりました。すぐに準備をします。おねぇちゃん、ウェスタン国王様の看病をお願いね」
「わかったわ。気をつけて行くのよ」
―――コリータ王国食堂―――
僕はアクアの準備が出来るまで、食堂で1人待つ。そしていつものクセで独り言が口に出てしまう。
「……しかし、ゼシカがもし妊娠してたらどうなる」
「そうじゃな。おめでたじゃの」
「いや、そういう意味ではなくて。仮にもウェスタン王国の王女。その子供となるとやはり跡継ぎ争いに……」
「いや、その前に神の子かどうかが先決じゃ。なんせこっちは世界的規模の話じゃからな」
「確かにそうか……え?」
アリスと目が合う。いつからいたのだ。
「いつから聞いてたの?」
「最初からじゃ」
「………」
そうか、バレたか。そうかそうか。
「誰に言おうかのぉ。しっしっし!」
「悪魔っ!?アリス!誰にも言う――」
「お待たせしました!さぁ行きましょう!って、ハルト殿?どうかされました?」
ニヤニヤするアリスに悪意を感じながら、僕達はウェスタン王国に向かった。




