第55話・師匠ミヤビ登場
ーーーウェスタン王国ーーー
イスタン帝国の挙兵を聞き、僕達はウェスタン王国へと援軍に来た。
「ハルトッ!」
「ゼシカ!状況は?」
「まだ動きはない。明日には交戦になるかもしれないが……そちらの方は?」
「あぁ、レディの妹のカエデ。偵察任務を得意としていて今回からお願いする事にした」
「はじめまして、カエデです。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくね!」
「カエデ。さっそくだけどイスタン帝国の情報をお願い出来るか?」
「かしこまりました。ご主人様、行ってきます」
「ハルト、ご主人様なんて呼ばせてるんだ。へぇ…」
「……それはさておき、ゼシカ。国王を早くコリータへの転移準備をお願い……」
「ふぅん。へぇ。ほぉ」
「……ゼシカ」
「しょうがないなぁもう!」
ゼシカは国王の転移の準備に向かう。
「さて……ここから見える範囲では1万弱と言う所か。1発ぶっ放したら終わるだろうけど、人間までまとめて吹き飛ばすのも後々影響出そうだしなぁ……うぅん……」
僕は、なるべく血を流さず大人しく帰って頂く方法を模索する。
「……どうするべ?」
「鯨王の出番かのぉ!わくわく!」
「アリス、それは皆死ぬだろう。言霊も、さすがに1万人は無理だしなぁ……」
「うぅん……」
アリスと2人で腕を組み首を傾げていると、カエデから念話器で連絡が入る。
「――ご主人様。編隊は人間約8割、魔物1割、亜人1割の構成にて進軍中、その数約8000。大将と見られる人間が後方に控えておりますが周囲は魔物で固めています。魔物はオーガが中心です」
「カエデありがとう。だいたい把握できた。そのまま安全な場所で待機」
「はっ!」
「ハルトよ、どうするのじゃ?」
「さてさて……どうしますかねぇ」
「どう?敵軍の動きは?」
ゼシカが帰ってきた。
「進軍中。だけどこの大軍相手に無傷で乗り切る策を考えてる」
「それはさすがに無理よ。敵の大将の首を取るか、背後から攻めないと到底……」
「あっ!ゼシカ、それだ!きりんっ!」
「呼ばれて飛び出てジャジャ……こほん。ご主人様、お呼びですか」
「え……?」
何者かに毒されたのか、きりんの顔が赤くなっていく。恥ずかしいなら言わなきゃいいのに。
そしてアリスが親指を立て、グッジョブをしている。アリスに言わされたのか……かわいそうに。
僕は空から敵軍の背後まで移動する。そこから大将を狙えば良いだけの話だった。そもそもこの世界ではまだ空を移動する技術はほぼ皆無だ。
きりんに乗って飛べるとなると明らかに有利なはずだ。
「合成召喚!金剛弓!!」
レディに教わった合成魔法を試してみる。金色に光る弓に7本の矢が連なる。狩りをする際に使う魔法らしい。
「カエデッ!大将の位置はっ!!」
「ご主人様から距離およそ300メートル、13時の方向!オーガ3体が大将の背後にいます!」
「13時の方向……!見つけた!あいつかっ!」
敵将に狙いを定め放つ!
「金剛弓連奏!!」
シュッ!シュッ!シュッ!シュッ!シュッ!シュッ!
キュイィィィィィィィィン!!
7本の矢が敵に向かって飛んでいき、後方のオーガが倒れたのが見えた。3本は命中したらしい。残りの4本の矢が敵将めがけて飛んでいく!
「どうだっ!!」
キンッッッキンッッッキンッッッキン!!
全て剣で弾かれる甲高い音がした。
「防がれたっ!?まさかっ!いや、防いだのは敵将ではない?」
「ご主人様!敵将の後方に誰かいます!」
護衛がいたのか。進軍中の後方に1人だけ誰か立っている。
こいつが防いだのか?かなりの手練れだ。
「ほぅ……面白いヤツがいるな」
僕はきりんから降りる。進軍中の敵兵がウェスタン王国に向かう中、1人だけ大柄の女性が待ち構えていた。
「ふぅ、ちょっとビックリしたよ。まさかあれが防がれるとは思わなかった」
「フフフ、可愛らしい坊やだこと。我が名はミヤビ。そなたの名は?」
「ハルト。コリータ王国の城主だ」
「おや、そなたが噂の城主様かい。お手並み拝見といこうか」
ミヤビが剣を抜く。剣からは禍々しい魔力が溢れている。
「はて?あの剣……どこかで……。ハルトよ、気をつけよ」
「あぁ……ヤバそうな剣なのはわかる」
「あの剣は確か……?」
するとカエデから念話器で通信が入る。
「ご主人様!相手が悪いです!その方はレディねぇさんとベリアルさんの剣のお師匠様です!名はミヤビ!」
「師匠!?……それはまずいかもしれない……」
ヒュゥゥゥゥゥ……。
僕とミヤビの間に緊張が走る。
「時雨一文字!!」
キィィィィンッ!!
甲高い剣と剣がぶつかる音が響く。
「片手で止めただと!?」
「ほう。だが……まだまだ脇が甘いな」
カタカタカタ……僕の持つ剣が震える。両手で押し込んでもビクともせず、ミヤビは片手で受けて止めている。
「無双枯草――」
ミヤビの体がゆら~と揺れたかと思うと、剣が軽くなり、ミヤビの姿が見えなくなるっ!
「くっ!どこだ!?」
キィィィィンッ!キンッ!ズシャ!キンッッ!
「は、早いっ!まずい!受けきれないっ!」
「こんなものか……」
キィィィィンッ!!
腕が切られる間一髪の所で、1本の短刀が僕とミヤビの間に割って入る!
「カエデッ!!」
カエデがギリギリの所で受け止めてくれた!
「くっ!ご、ご主人様!逃げてっ!」
「おいおい。お前……1対1の勝負に茶々をいれると殺すぞ?」
「僕は1対1でやるとは言ってない!!」
そうだ、僕は1対1とは言っていない。そんな武士道も持ち合わせてはいない!
「束縛呪縛!」
ミヤビがこれもかわす事を想定し、体制を立て直す。ミヤビの足元からイバラが現れ絡みつく!
「え?」
「え?」
「ん?」
ミヤビはあっさりといばらに巻き付かれた。
「いやっ!おい!ハルトとやら!ちょっと!魔法はズルくないかっ!ちょ!これ外してっ!」
「ふふふ……。誰も剣で勝負するとは言ってなぁぁぁい!」
「うむ、実に卑怯者らしい発想じゃ。素晴らしい」
アリス褒めてなくない?
「さて……ミヤビさんに問題です。僕はこれからあなたに色々したいと思います。さぁ、何をするでしょうか?ふふふ……」
「ひぃぃぃぃぃ!!」
ミヤビではなく、カエデが何かを想像し奇声をあげる。
「へへへ……剣の腕は立つかもしれないが、こっちの方はどうなんだい?ミヤビ……?ふへへ……」
「よせっ!やめろ!近づくなっ!私が悪かった!頼む!ゆる……!!いやぁぁぁぁぁ!!」
こちょこちょこちょこちょ……。こちょこちょこちょこちょ……。
「キャハハアハハアハハ!!やめ!やめ!キャハハハハハハハハ!」
と見せかけて……!
「ふぅぅぅぅ」
「あんっ……そこは……」
こちょこちょこちょこちょ……。
「キャハハハハハハ!あんっ!……キャハハハハハハ……あんっ!!」
楽しすぎる。脇も耳も弱点なのか。安全だと思ったのか、途中からアリスも参戦をする。
「ほれ、ここか?ここが良いのか?ほれほれ」
「キャハハハハハハ!あんっ!……キャハハハハハハ……あんっ!やめてぇぇ!しぬぅぅ!」
カエデの目が点になってる。大丈夫、そのうち慣れるから。
ミヤビに戦意が無くなったのを確認し、僕はミヤビに聞いた。
「ミヤビ。なぜあなたほどの剣の使い手がイスタン帝国に加勢しているのだ。理由を言え」
「はぁはぁはぁ……申し訳ない……はぁはぁはぁ……金貨を……この進軍の用心棒で金貨を100枚くれたんだ……」
「それだけ?」
「……それだけだ。イスタン帝国は今や貧乏国家。仕事も物資も底をついている。金貨100枚は大金なのだ」
「そうか……なら毎月金貨100枚、衣食住付。仕事内容は後で伝える。どうだ?僕に仕えないか」
「そ、その条件は……悪くない……」
「決まりだ!」
こうしてミヤビはあっけなくイスタン帝国から離脱した。




