第53話・ネプチューン神
―――魔王城旧海底神殿―――
僕達はプリンを助ける為にネプチューン神を探し、海底神殿まで辿り着いた。が、そこは魔王城の王広間に繋がっており、そして玉座に……人影が見えた。
「魔王……なのか?」
「うむ。しかし生気を感じぬな」
足がすくんでしまい動けないレディ。彼女にとってはよほど恐ろしい存在なのだろう。
僕は剣を構え玉座に近付く。玉座にはベールがかかってはいるが、劣化して所々に穴が空いている。
「だ、旦那様!おやめ下さい!魔王様は危険で――!」
「お前が魔王かっ!」
レディの言葉を無視し、僕はベールを切り裂いた!
「!!??」
「ま、魔王様!申し訳御座いませんっ!ご無礼を――」
レディが魔王に謝ろうとするが、王座を見てそこで口を閉じた。
……王座にはすでに息絶えた骸骨が座っていたのである。骸骨の首には金のプレートがかかっているのが見え、僕はプレートを手に取り汚れを落とす。
「これは名前か……?ナツト?チガ?」
「なんじゃとっ!!」
アリスが慌てて走って来てプレートを確認する。
「まさか。魔王とは……しかし、とうに朽ちておるの」
腕組みし、アリスが考え込んでいる。
「……レディよ。もしかして、お主らは騙されておったのかもしれぬの。おそらく魔王を偽った誰かの仕業。魔王と呼ばれた者はとうに亡くなっておる」
「アリス!?いや!だって魔物になったカイが言ってた。魔王に力をもらったって……」
「しかし魔王はここで死んでおる」
「カイの言ってた魔王とはいったい誰だ……?」
「そ、そんな……」
ガクッと座り込むレディ。
何十年か何百年かわからないが、レディ達は魔王に怯え、ヴァンパイアにまで姿を変えて生きてきた。それが、そもそも魔王が偽物だったなんて……元は本当に魔王がいたのかもしれない。が、いつの間にかすり変わっていた……と言うのが正解か。
「レディ、すまぬがこの者をコリータの教会で供養してやってくれぬか。顔見知りでのぉ……」
「わかりました……迎えを寄こしましょう」
僕達は魔王の亡骸を王座から降ろし、シーツで包んだ。と、ふいに背後から声がする。
「誰かいるのかっ!!」
カツン、カツン、カツン……。
身構える僕達。広間を誰かが歩いて来る。
「……あれ?レディねぇさん……なのか?」
「……その声はっ!?カエデかっ!?」
「ねぇさんっ!!」
抱き合う……たぶん姉妹。という事はこのカエデと言うのも人魚族なのか?
「カエデさん。はじめましてハルトと言います」
「カエデ、紹介するわ。この人がうちの旦那」
「レディねぇさんがいつもお世話になっております」
「違います。旦那ではありません」
「カエデ、何年ぶりか。今までどこにおったのじゃ」
「イスタン王国の潜入調査だよ。魔王様のご指示で。先日帰ってきたけど城には誰もおらず……あっ、地下にアンデットが数体いたけど。ん?ねぇさん、その着物姿かわいい。私もそれ着たい」
「イスタン帝国の情報?それが欲しかったのはおそらく死神ザクス?まさか?」
「ザクスが魔王様のフリをして?そんなこと……」
「ともあれじゃ。ここにネプチューンはいなかった。これでフリダシじゃな」
「ふぅ、かれこれ時間が経っているな……どうしたら良いんだ……」
プリンの救出は正直、厳しいかもしれない。
「ねぇさん達はネプチューンを探しているのか?さっき地下牢で見たぞ。透けてて幽霊みたいだったが……」
「えぇぇぇぇぇ!!」
僕達は急ぎ地下牢へ向かった。地下はすごい匂いだった。きりんが我慢できず、外へと避難する。アリスの分体も僕の体に逃げ込んだ。
分体はそもそも視覚聴力嗅覚等が、本体の10分の1くらいなのだそうだ。部屋で意識を集中して動かしてるらしいのだが、それが我慢できずプリンはいつも本体で動き回るのだと聞いた。
「これはっ!臭いな。大丈夫か?レディ、カエデ」
魚の腐った匂いと獣の匂いが混ざった様な匂いがし、うめき声まで聞こえてくる。
「にゃびが?」
「にゃにみょにょわないにょ。」
2人共いつの間にか鼻栓をしてやがる。僕の鼻栓は無いのか。
地下牢は地下2階まであり、地下2階部分は膝下まで海水に浸食されていた。そして地下牢の奥まで来たが誰もいない。
「……いや、この壁の向こうじゃな。異様な気配がある」
「はぁぁ……せいっ!」
僕は壁に正拳突きをする。壁の周りが崩れ落ち、そして突き当りの奥に牢屋があった。
「誰じゃ。また死神の命令で来た馬鹿共か」
「僕はハルト。コリータ王国の城主です。あなたがもしかしてネプチューン神様ですか」
「いかにも。わしが海神ネプチューンじゃ。何の用じゃ。わしは殺しても死なぬぞ」
「ネプチューンしゃま、まさかこにょようにゃ場所におられにゅとは……」
レディ、鼻栓抜けよ。
「いにゃ、あけまひゅ」
カエデ、お前もか。
カエデが手早く牢屋の鍵を開け、ネプチューン神に繋がれた鎖を切ろうとする!
……が、切れない。異様な黒さの鎖だ。海神を捕まえる為の特殊な合金か。
「私に任せて!開けぇ……」
「ピューイ!開けれるのか!?」
ピューイがどこからともなく現れ、呪文を唱える。
『開けぇ……!ごまむしっ!!』
「ごまむしってなんだよっ!?」
カチャリッ!
「開くんかいっ!!」
僕が1人じたばたしてる間にネプチューン神は開放された。
「何と言う事じゃ。こんな日がくるとは……!数百年……長い長い時じゃった。あぁ、神様感謝致しますじゃ」
神が神に感謝している。
僕達はネプチューンを連れて王広間に戻ってきた。きりんとカエデは厨房へ食べ物を探しに行ってくれた。
「本当に感謝しかない。その昔、ワダツミ……別の海神に敗れこの地に流れついた。そこでマザードラゴンと出会い恋に落ちここに海底神殿を建てた。までは良かったのじゃが、ある日、魔王を名乗る輩が神殿に来ての。わしは地下牢に入れられ、マザーも呪いをかけられどこに行ったのかわからずじまいじゃ」
「ふむ。ネプチューンよ、すまぬが思い出話はそのくらいにしておいて、そなたを助けたのには少々面倒なお願いがあっての。時空クロノスを知っておるか?」
「あぁ、聞いたことはある。禁忌を犯し処刑された神じゃな」
「うむ。その義理の娘がいての。名はアメノサグメ。わしの妹みたいなもんなのじゃ。そやつが天書を開き、天界へと連れ戻された。何とか助けてはくれまいか」
アリスの素性とプリンの素性を一通り聞き、ネプチューンが答える。
「わかった。命の恩人の頼みじゃ。ちょっと待っておれ。フンッ!」
そう言うとネプチューンの姿が目の前から消えた。
「アリス、プリンってアメノサグメって言うの?」
「そうじゃよ。前に言ったではないか」
「言ってない言ってない。初めて――」
ザァァァァァァ……!!
「フンッ!はぁぁぁぁ。わかったぞい」
「――はえぇな、まだプリンの話の途中だよ……。それでネプチューン神様、どうだったんですか?」
「天書が開いて神兵が迎えに降りたが、照合した結果、アメノサグメはすでに消滅しており、死書に名前があったそうじゃ。神は一度死ぬと死書に名前が残るからの。だから連れ帰ってはないそうじゃ」
「……ん?と言う事はプリンはまだサウスタンにおるのかっ!」
「お菊!エル!聞こえるか!」
「……那様か?旦那様、そっちはどうなっておるのじゃ?」
「大至急、図書館の穴の開いた場所を良く調べてくれ!プリンはどこかに埋もれてるかもしれない!」
「あい!わかった。すぐ調べる!」
……落ち着かない。予想が正しければそこにいるはずだが、いなかった場合はどこにいったんだ。
しばらくしてリンから連絡が入る。
「――ルト!ハルトッ!地下にいたよっ!!息もあるっ!これなら回復魔法で大丈夫そうだよ!」
「ひゃぁ……」
腰をぬかすアリス。その場にへたり込む僕。
「よかったぁぁぁぁぁぁぁ!」
結局アリスの早とちりではあったが、すべて解決に至った。僕達はネプチューン神にお礼を言い、帰り支度を始める。
「おっと、そう言えばネプチューン様、マザードラゴンがよろしくって言ってたよ」
「マザーじゃと!?ちょ、ちょ、ちょっとまってくれ!お主その話、もっと詳しく……!!」
「おつぁがはいつたにょー」
カエデ、もう鼻栓抜けよ。




