第43話・歌姫ミレー登場
ーーークルミの部屋ーーー
チグサがクルミの部屋に入って来た。
(まずいっ!この状況を今見られるのはっ!)
パチンと部屋の明かりが点く。
「クルミィ、だいじょうぶ?」
「う……う。あ……チグサ様?……寝てたにゃ」
「ううん、いいのよ。それよりもだいじょうぶ?話はだいたい聞いたわ」
「うん、なんかスッキリしたにゃ……ご主人様にお礼を言わないと……」
「あ、ホットミルク。誰かが持って来てくれたのね。入れておくわね。明日、元気になったらまた遊びましょ!」
「ありがとうにゃ」
「それでは、おやすみなさい」
「はい、おやすみなさいにゃ」
そう言ってチグサは部屋を出る。
「ご主人様、もう大丈夫です。出て来て下さいにゃ」
僕はベッドの下から這い出す。非常に気まずい。
「こほん。やましい気持ちは一切ないんだ。不可抗力と言うか……」
「……知ってますにゃ。ご主人様はそんな人ではありませんにゃ。それに私はご主人様なら大丈夫にゃ……」
クルミが抱きついてくる。シーツ1枚体に巻き付けて。
「ちょっ、クルミ!?」
「私の胸をさわった罰です。しばらく大人しくしてて下さいにゃ……」
僕は言われるまま、クルミを抱きしめた。
「今日はありがとうございました。一生、ご主人様の側に置いてくださいにゃ……」
「……あぁ」
僕は小さくうなずいた。
ーー数日後。
「エル!準備は良いか?」
「うん!いつでも!」
「それじゃ、ゼシカ、お菊、クルミ、留守番よろしく!行ってきます!」
『いってらっしゃい!』
僕とエルはきりんに乗りエルフの森の北へと向かった。あの奴隷商のアジトに。
ーーーエルフの森北ーーー
「きりん、この辺でいいよ。ありがとう」
「わかりました」
エルフの森の北、奴隷商のアジト近くへと降り立つ。いきなり魔法をぶっ放しても良いのだけど、奴隷の亜人達がいたら巻き込んでしまう可能性もある。
「魔法でぶっ飛ばしても良いのではないか。後で回復魔法をかけたら結果オーライじゃ」
「アリスって神様だよね?」
「うん?」
時々その事を忘れる。
「――待って。5、6、7……人間が7人。亜人が3人。エルフが1人……だわ」
「ほほぅ。エル、そなたわかるのか」
やはり救助を優先で考えると、魔法は得策ではない。
「プリンに時間を止めてもらうとかそういう事は出来ないよな?」
「うむ、あやつは未完神じゃからな。一瞬は出来ても数十秒はどうじゃろうなぁ。まぁ、ここにいたら……の話をしても仕方ないの」
「ここにいたら?プリン来てないの?」
「うん?来てないぞ。めんどくさいそうじゃ」
「めんどくさい!?」
僕の体の中でゴロゴロしてるだけでしょ!とも思ったがいないものはしょうがない。
「はぁぁぁ……わかった。入口が開いたら僕が行く」
アジト前の木陰で隠れる事、数分。カチャと入口が開く。
「高速移動・改・脱兎!」
レディに教えてもらった高速移動。数十秒後にはヘトヘトになるが、瞬間的には目に見えない速さで動ける。
「……それでな、あの女共を売ったワケよ!」
「まじかよっ!あいつら……」
「ガフッ!!」
「おいっ!どうし――!」
2人の男が地面に倒れていく姿を見ながら、僕はそのまま室内に入る。速すぎて周りの時間が止まっているかの様に、自分だけが動いている感覚を覚える。
「いた、この部屋か」
ドォン!!と、ドアを蹴破る。
「な、何だ!?」
「――3人!4人!5人!ろく……!?」
『キーーーーンッッ!!』
6人目で高音と共に剣が弾かれる!
「止めただと!?こいつ人間じゃない!魔物か!」
「ダレダッ!」
「僕は……ハ……あっ。勇者ロドリゲスだ!覚悟!」
「念のため偽名を使え」とアリスに言われていたのを思い出した。
僕の持つ、妖刀時雨が血で染まっている……。ドムドさんが妖刀村正をモデルに作ってくれた短剣だ。
「ふうぅ……時雨一文字!!」
「グフッ!?」
手応えはあったが、致命傷ではない様だ。
「クッ!オボエテオケ!転移!」
目の前から突然、男が消える……魔陣も詠唱も無しで。残りの1人は外に逃げ出したがエルがなんなく捕縛した。
僕はどっと疲労に襲われ足がガクガクし、その場に座り込んだ。すぐにアリスとエルが小屋へと入ってくる。
「おやおやまぁまぁ。へっぴり腰じゃのぉ」
お菊の影響で言葉がおかしな方向へ向かってるアリス。
「1人逃した。あれは人間ではなかった……魔物だ」
「魔物か。やはり死神の息のかかった者がおる様じゃの」
「大丈夫っ!?皆!」
エルが囚われていた奴隷達を解放する。
「うぅぅぅ!おねぇちゃん!!」
エルに抱きつき、泣き出す子供達。よほど怖かったのだろう。
捕縛した奴隷商達はコリータ王国へ連れ帰る為、エルが召喚獣を飛ばし竜族を呼んでくれていた。ついでにこの子達もお願いしよう。
「後はエルフが1人いたんだっけか……」
僕は隣の部屋に行ってみる。そこには鎖に繋がれた美しいエルフがいた。僕の後ろからエルが声を上げる。
「もしかして!ミレーさんですかっ!?」
エルフ族の中でも有名な歌姫ミレーらしい。世界中を歩き、歌で平和をうったえるエルフだ。僕は彼女の鎖を外し抱きかかえる。
「……り……と」
「もしかして声が出ない?」
「ほほぅ。おぬ主、セイレーンの血を引いておるのぉ」
こくん、とうなずくミレーさん。
「ハルト、ミレーさんはエルフの里に連れて行きましょう。ミレーさんこれをつけてて」
僕達は竜族が到着するまで奴隷商のアジトで待機していた。
「エル、どこかに服がないかな。みんな着替えさせてやりたいんだけど」
「わかった。探してみるね」
エルは服を探しに部屋を出た。待っている間、部屋を物色していたら床下に隠してあった金品を見つけ、これも全て押収した。亜人の子達の生活資金に充てよう。
――数時間後。竜族達が到着し、亜人の子と奴隷商を引き渡した。先日捕らえた奴隷商と合わせて10人程。全員ウェスタン王国へ連れて行くように指示をした。亜人の子はコリータで預かる事にした。
ーーーエルフの森ーーー
「ここからがエルフの森よ。エルフの先導がないと迷うわ。そしてその先がエルフの里。さらに奥には世界樹の大木があるわ。総称してイースタンと呼ばれてるの……」
僕とミレーさんはエルの後ろについて歩いていた。ミレーさんも声が出ない以外はいたって健康そうだ。ただ念話もできない。何か呪いのたぐいなのか?
「夜には着くと思うわ……」
アリスは暑いからと部屋でくつろいでいる。僕達は薄暗い森をエルフの里へと向かって行った。




