第36話・転移魔陣
―――アクアの魔法書販売店―――
「皆様、本当にありがとうございました。長年苦しんできた病がこんな形で治るとは思ってもいませんでした」
アクアが淹れた紅茶が美味しい。さすが元王宮秘書。
「それでは改めてお願いする。僕の秘書になってくれないか?」
「お給金はおいくらですか?」
「……まだ国が出来たばかりで実入りが少なくて、そのぉ……ははは!」
「そんな事だろうと思いましたよ、まったく。マリンお姉ちゃんに引き続き秘書をしてもらってください!」
「やっぱり駄目なのか?」
「いいえ、その変わり私が財務とギルド運営を致します。お姉ちゃんが掛け持ちせず、秘書に専念したほうがよっぽど効率的です。なんせハルトさんを愛しているのですからっ!愛の力は無敵ですっ!」
「本当かいっ!それは助かる!……え?マリンが何だって……」
僕の背後で鬼の形相をするレディの姿が目に浮かぶ。これ以上は踏み込んではいけない。
「準備もありますしお父様にも報告して、1週間後には行けると思います」
レディが急に僕の背中をつねる。色々考えた末に、時間差でつねるのはやめて欲しい。地味に痛い。
その後アクアと別れ、コリータへ帰るため挨拶をしに王宮へと向かった。
―――ウェスタン王国王宮―――
「ハルトッ!!」
ゼシカが抱きついてくる。慣れた、慣れたんだよ。良い匂いがする。お返しにぎゅっとしてみる。
「はっ!ハルトっ!あんまり抱きしめられると、お腹の子が潰れちゃう♡」
「潰れないよ。そもそもいないよ」
同時にカチャリッ!と、僕の背後で刀を抜いた音がした。
「旦那様。命を粗末になさいますな」
「えぇぇぇぇぇぇ!?ちょ、レディ落ち着いて!」
見かねた国王が助け舟を出してくれる。
「こほん。そろそろいいかな」
「はひ……」
ここは王宮の食堂。国王とチグサ、直近の大臣、冒険者ギルドのラルクさんと僕達しかいない。
「ハルト殿、今回の戦争での働き実に見事であった。礼を言う。この国はそなたがいなければどうなっていたか……感謝する」
「おにぃちゃん!いつもありがとう!」
「いえ、当然の事です」
意識がなかったとはいえ、王宮で人魚とあんなことをしたなんて言えない。国王ごめんなさい。そしてチグサはいつ見てもニコニコしててかわいい。
「実は今後についてちょっと相談があってな、こちらに集まってもらったのだ」
紅茶を飲みながら国王がこちらをチラっと見る。
「チグサを嫁に……」
『却下です』
ゼシカとレディがハモった。
「はい。すいません」
なぜか僕が謝る。
「実はな。王妃の事なんじゃが、今日帰ってくる予定なのじゃ。しかし物見の話ではイスタン帝国に情報をすべて流していたとか。そのままひっ捕らえようかと考えている」
僕も国王だったらそうする。
「国王がお悩みの事はわかりました。王妃の子、第二王子の事ですね。跡継ぎをチグサ殿にするか、はたまた王妃の子にするか」
「うむ。その通りじゃ」
「わかりました。僕も色々考えています。3つ提案とお願いがあります。聞いてください。まず……」
まず1つ目、王妃の子第二王子と、チグサを僕の国で預かり教育する。王妃は幽閉。イスタン帝国が簡単に攻めれないようにする。そして第二王子とチグサが成人を迎えるまでにこの国を安定させる事。
2つ目、転移魔陣の開通。ウェスタン王国とコリータを瞬時に移動出来る様にする。城内に王と側近しか入れない厳重な部屋を作ってもらいそこに陣を張る。王の身に万が一のことがあればいつでも逃げれるようにするのだ。
3つ目、ウェスタン王国とコリータとの物流。これに関しては2日かかる道のりを1日以内に短縮すると言うもの。
そして最後にお願いをする。
1ヶ月間、一緒に働いてくれたギル達にまた……コリータに来て欲しいと。
「うむ、最後の願いはもう叶っておる。ゼシカを含め、近衛兵が昨日辞職を申し出てきた。中央都市コリータへ移りたいと。住民からもそんな話が出ているとラルクにも聞いた。止めはせぬ。個々の自由じゃ。そして1つ目2つ目の案は早速実行しよう。セイレス、そちに任せた」
「はっ!ただちに!」
「それでだ。3つ目の案だけが難しいのじゃ。わしも中央都市を往復して思った。まっすぐ行けば1日もかからないかもしれぬ。じゃが山や川、森を通るとどうしても2日はかかる」
「おまかせください。明日にはまっすぐに出来ますので、早急に道の整備をお願いします」
「……ふむ。そなたが言うのなら出来るのであろう。任せたぞ」
「ラルクさん、こちらが転移魔陣の作り方です。中央都市にも作ります。2つが出来て共鳴すれば色が変化するのでわかると思います。詳しくはアクアさんに聞いてください」
「わかった。あとで聞きいてみよう」
「よし。それでは皆の者すぐに取りかかれ!」
「はっ!」
ゼシカやギル、アクアにも伝言し後日中央都市で合流することにした。住民にも移動する人を募集し、安全を考え集団での引っ越しとなった。僕たちは宿屋に帰り、道の作り方を模索するのであった。
―――ウェスタン王国城外―――
――翌日。僕達は城を後に、町の外へと出た。
「さて。道を作りますか……アリスお願い」
「うむ。プリン聞こえるかっ!」
念話でアリスが話しかける。
……ちょっと間があり、プリンから返答があった。
「ねぇさまぁぁぁぁぁ!寂しかったですわぁぁぁぁぁ!ぴえん!」
ぴえん?新語が生まれている。
「今から言うことをよく聞け」
「はいっ!ねぇさま!」
アリスがプリンと打ち合わせをしている間に、僕も準備に取りかかる。
「きりん、頼んでおいた偵察をお願い」
「かしこまりました。ご主人様」
「旦那様、何をなさるのですか?」
きょとんとするレディ。レディの顔を見ていて、人魚って水に入らなくても大丈夫なのかな?となぜか、ふと思った……。




