第30話・ヴァンパイアレディ登場
―――コリータ王国北門―――
バサバサバサバサッ!!
国旗が強風で音を立ていた。そんな夜、魔王軍が北門に押し寄せ幹部ヴァンパイアのレディを名乗る者が大声を上げる。
「そなたがこの城の主か!」
「いかにも!僕の名はハルト!この城の城主だっ!!何用かっ!」
「我々は、魔王軍である!……して!ほし……」
ビュゥゥゥゥ!!風が強くて良く聞こえない。
「いかようにもしようぞっ!我らが……」
ビュゥゥゥゥ!!風が強い。目に砂が入りそうだ。
「返答やいかにっ!」
うん。ほとんど聞こえなかった。どうしよう。
「え?なに?!聞こえないからもう1回言って!」
「……だから!……なの……だっ!」
ビュゥゥゥゥ!!わざとか。そういう焦らし作戦なのか。僕は声を張り上げ、ゆっくりと話す。
「ぼくのしろになんのようだ!おまえらのちゃばんなんかにつきあってるひまはない!にどとくるな!かえれ!」
この時、強風で奇跡的にも魔王軍幹部ヴァンパイアのレディにはこう聞こえた。
『ぼくの……お…んな……になれ』
パタンと……その場に、座り込むレディ。
「きゅん♡しゅき♡」
僕は目が点になる。
「は?」
「しっしっし!!」
「はい?」
「へ?」
…
……
………
応接室にレディを連れて戻る。レディがくっついて離れない。
「聖なる地より生まれし女神、我の声に答え……」
「メリダッ!!浄化魔法を詠唱するなぁぁぁぁぁ!!」
危うくメリダの浄化魔法で、レディが無になる所だった。滅する気か、まったく。
「はい♡ハルト♡あーん♡」
あーん♡待ちのレディに怒り狂うメリダ。
「おい、貴様。いい度胸だな図々しいにも程があるぞ」
「はぁん?お主、私にたてつくのか。殺すぞ?」
「ちょ、待て待て待てっ!!」
最悪だ。聖女と吸血鬼、仲良くするのは無理だ。
「クルミ!メリダをちょっと向こうの部屋に連れてって!」
「ガルルルルル……はい。ご主人様……」
「クルミもかいっ!」
ニヤニヤしながらアリスがレディに話しかける。
「で、レディとやら……先程は風が強くて聞こえなかったが、何用じゃ?」
「……ふぅ。私は魔王軍幹部、四死聖の一人、ヴァンパイアのレディ・リリス。北のノースタンに住んでいる。先日、部下の物見で四死聖の一人トカゲネビュラが倒されたと聞いた」
「トカゲネビュラ!?あいつは魔王軍だったのか!!」
邪神トカゲネビュラ、またの名を暗黒龍……そうか、魔王軍の幹部だったか。
「私の眷属のサキュバスを貸しておったのだが、一向に帰って来ぬ所を見ると全滅したのだと思った。そしてそのタイミングでこの場所に城が出来たと。色々と調べさせ、北の大森林で神族魔法、世界の終末日を放った者がこの城にいることがわかったのだ」
レディは胸を押し当て、上目遣いで見てくる。
「その者がトカゲネビュラをも討ち、次は私を狙っていると!そして眠れぬ夜が続いた。いつ魔王城に攻められるかとビクビクする毎日。そこで思い付いた。一度会って戦う前に話をしようと。魔王様の目を盗むのも大変じゃ。アンデットを借り城攻めをすると言って出て来た。部下のサキュバス達はまだ魔王城におる。魔王様に感ずかれぬよう、ここまで来たのだ」
「それを信じろと?」
コクン、とうなづくレディ。
「……色々言いたいことはあるが、アンデット達はどうした?」
「全て引き上げさせた。用意してきた私の偽物の死体を持たせた。レディは死んだ事にしたのだ。あいつらは報告とか、そういう細かいことは出来ないのでな。あれで十分だ」
「なるほど。話はわかったが、なぜそんなに甘えてくる?初対面で」
「おれのおんなになれ。と言ったではないかぁ♡このこのぉ♡産まれて初めて殿方にあんなこと言われて……もう、私はあなたの虜じゃ♡」
言ってない。言ってないからね。
「ぶぅっ!」
笑うな、そこのちんちくりん神。
「さて、どうするかなぁ。このまま追い出してもレディは魔王に殺されるだけか……ふぅ」
「良いのではないか。魔王のことを知るチャンスでもある。このヴァンパイアを引き込んで、こやつの部下も面倒を見てやれ。戦うよりよっぽど面白い」
「そうだねぇ、懐いてるし。ぷっ」
アリスとプリンはこの状況を楽しんでいる。こいつら……。
「ところでお主、ヴァンパイアじゃなくて、亜人じゃな。竜族のハーフか?」
「な、何を言われるかっ!私はれっきとしたヴァンパイアの末裔!この角と、キバがしょう……こ……で……」
一本のキバがリンゴに刺さってる、気がする。角を良く見てみると何やら浮いている、気もする。え?気になる。ちょっとだけ、ちょっとだけなら……すぽんっ!!
角が抜けた。あぁ、なるほど。カチューシャ風に着けてたのか。
「あぁ……あ……!!あぁぁぁ!」
泣き出すレディ。ちょっとかわいそうになってきた。カチューシャは戻してあげよう。よしよし。
「ぐすん……そうなんれす。私は亜人なんです。ぐすん。魔族ではありません。人魚族です……はぁ」
「人魚族?!」
これにはびっくらこいた。人魚族がいるんだ。
「珍しいのぉ。とっくに絶滅しておるもんだと思っていた」
アリスも知らなかったらしい。
「……私の祖先は魔王によって海底の洞窟で殺されたと聞いております。魔王は人魚をたくさん殺しました。何とか生き残った者達で姿を変えここまで生きてきたと聞いております。お願いします!助けてください!もう乾杯で生き血は飲みたくない!まずいんですよ!あれは!ヴァンパイアのフリをしてるから仕方なく……うぅ……う……」
「わかった……協力しよう。もちろん条件はつけるが。レディの仲間や部下は何人くらい魔王城で働いてるんだ?」
「はい……100人程かと。ただ姿をヴァンパイアに似せてるので、人魚族として本当に信じれるのは10数人程です」
僕は条件を提示した。裏切った場合は城もろとも仲間も全員処刑する。あと嘘偽りなく、魔王と残りの幹部の話を教えてほしい、と。
「わかりました。それではお話しま……ぐぅぅぅ……」
レディのお腹が鳴る。僕達はとりあえずではあるがレディに食事と部屋を用意し迎える事にした。




