第19話・ブラックボックス
―――中央都市リベラル―――
数ヶ月ぶりに帰ってきた原点。さていよいよ僕の冒険が始まる。ようやくチュートリアルが終わったのだ!
「皆さんお疲れ様でした!今日はこの水場の側で休みます!馬車と荷物を集めてください!」
「ハルト!テントはどこに積んだんだ?」
「テントないねぇ」
「テントないと虫さんに刺されてしまふ」
「きゅぅぅ」
さて……やりますか。
僕はアイテムBOXに用意しておいた木材、石、ガラスなどを取り出す。
「THE複製!……アンド!鋳造合成!」
みるみる木造建築のコテージが出来上がる。あ然とする一同。以前アリスに教えてもらった鋳造を進化させた合成魔法だ。
アリスが「どやっ!」と腕組みをする。おいしい所は全部もっていく神。
「さぁ、皆――」
「さぁ、皆、入るが良い!」
僕が言おうとするとアリスが被せて声を上げる。良いんだ……皆が喜んでくれたらそれで……うぅ……。
「すごい……家が建ってる!」
「中がひろぉぉぉい!」
「お風呂まであるのかっ!」
「これはすごい。魔法とは思えない……!」
「すごいじゃろ!しっしっしっ!」
大好評。しかしアリスも知らない仕掛けがまだあるのです。
「ふふふ……まだあるのです」
「もったいぶらずに早くせぬか。室内とはいえさすがに暑いぞ」
「うん。雨風はしのげるけど、さすがに暑いわね。風の妖精さんを呼ぼうか?」
エルが心配して妖精さんを召喚しようとした。しかし僕は馬車から黒い箱を4個持って来る。
名付けてブラックボックス!これが今回の秘策のひとつだ!
ブラックボックスを専用の棚にセットし、調整器を接続していく。皆は不思議そうにそれを見ている。
「では……いきますよぉ。スイッチオン!」
『ブォォォォォォ……!!』
ブラックボックスの上に設置してある箱から冷気が吹き出る。
「あぁ……!す、涼しい……!!これは何の魔法なの!?」
箱をのぞきこむエル。そして僕の顔と箱を交互に見返す。
「これはブラックボックス。箱ごとに火属性、水属性、風属性、光属性の魔力を圧縮して入れてある。メーターがついてて残りの魔力もわかるようになってるよ」
「おぉぉぉぉぉぉぉ!」
エルフの耳って喜ぶと動くのか。初めて知った。
「で……このスイッチを押すと水属性の魔力が風属性の魔力で排出されて、この上の箱から冷たい風が出るという仕組み。で、こっちのスイッチを押すと光属性が発動して……」
パチンッ!と言う音と同時に部屋に明かりが灯る。
「す、すごい……!」
「後は料理する時にも、そこのスイッチを回すだけで火が点く様になっている。お風呂も火属性で水を温めて出すこともできる。ただ水は大量に使うから、すぐ消費してしまう。できれば水は汲んできて沸かした方がいいかもな」
「うむ。何やら小賢しい物を数日かけて作っているとは思ったがこれだったか。ほめてやるぞ。だがしかし!わしが一番風呂なっ!」
だぁぁぁ!とお風呂に走り出すアリス。まてぇぇ!と追いかけるリン達。
「だから!水は汲んできてよ!燃料すぐなくなるから!」
皆、聞いちゃいない。隣でぽかぁぁんとしていたマリンがようやく口を開く。
「あ。あまりに驚きすぎて……こんな技術があったなんて……」
「マリンも汗を流しておいで。ギル、男性陣は晩ご飯の用意と荷物運びを――」
「へ、へい。旦那……しかしこれはすごいですねぇ……」
お風呂場から楽しそうな声が聞こえてくる。
「ちょっと!おねぇちゃん!シャワーがあるわっ!王宮でも見た事ないのにっ!」
「気持ちいい!これはお湯も出るのですね!幸せっ!」
「これっ!プリン!それはわしのタオルじゃ!返せ!」
「ねぇさま!わたしは疲れているのです!先にシャワーををををを!」
しかし賑やかだ。僕は同じコテージを複製し、全員泊まれるようにした。
「旦那はちょっと休んでください!俺らでこのくらいはやりますよ!」
荷物運びを率先してくれるギル。
「あれ……ギル!この子は?」
「あぁ、この子は……」
耳が生えている。いや、生えているというか頭に付いている。そしてしっぽも生えている。
「うちの新入りでしてね。亜人族の女の子なんですが城騎士団を目指してるらしく、うちで預かったんです。何でも元奴隷……いや、よく働きますよ。クルミ、旦那に挨拶をしなさい」
「は、はじめまして。クルミです。い、痛くしないでくださいにゃ」
どんな挨拶!?元奴隷と言ったか……そうか、今まで怖い目に合ってきたんだな。
「わかった、クルミ。よろしく。早速だけど命令だ」
「は、はいにゃ。旦那様……」
ビクッとし、身を縮こませるクルミ。
「麒麟を連れて、皆と一緒にお風呂に入って来なさい」
「え?荷物運びしないといけないにゃ……」
「いいんです。命令です。麒麟を綺麗にしてやってね」
「は、はいにゃっ!」
「くぅぅぅん!」
嬉しそうに麒麟を抱っこし、お風呂へ向かうクルミ。
「旦那すいません、気を使わせて。本人が親の仇を取るために城騎士団に来たそうなんですが……どうも門前払いをされ、その後ゼシカ様が保護されたと聞いております」
「亜人か?仇打ちってどういう事なんだ」
「はい。亜人は奴隷商の間では高く取引されるらしく……何でもハリス侯爵家のカイ様が関わっているとか……」
「あいつかっ!」
怒りがこみ上げる。以前、北の大森林でメリダを魔物のエサにと置き去りにした貴族。あいつまだ生きていたのか。
「だ、旦那、大丈夫ですかい?」
心配そうに僕の顔をのぞきこむギル。ふぅと一息ついて落ちつく。
「わかった。クルミは僕に預けてくれ」
「それは構いませんが、よろしいのですか」
「あぁ、ゼシカには僕から話しておく」
「わかりました。それではよろしくお願いします。荷物入れちゃいますね」
仕事に戻るギル。また難題が出てきた。あいつはどうやって生き延びたんだ?魔物とは接触したはず……念の為、アリスにも後で言っておくか。そこでようやく僕は気付いた。
「……あれ?アリス。さっき誰と話をしてた?」
さっきのアリスと誰かの会話を思い出す。
『これっ!プリン!それはわしのタオルじゃ!返せ!』
『ねぇさま!私は疲れているのです!先にシャワーををををを!』
「……プリン、いつの間にか帰ってきてんじゃね?」
遠くで日が沈む音がした。
カッポーン……。




