第1話・アリス登場
…
……
………
「う、うぅ……暑い……」
どのくらい眠っていたのだろう。記憶をたどるが全く思い出せない。
「どこなんだここは……?砂?」
僕は体を起こし辺りを見渡すと、遠くまで砂の大地が広がっている。照りつける日差しのせいか、頭はふらつき、体が思うように動かない。
「暑い……喉が渇いた……水が欲しい……」
立ち上がり辺りで水場を探していると、ふいに耳元で声がする気がした。
「ようやく目が覚めたのかぇ?」
「だ、誰だっ!」
声がした方向を振り返ってみたが誰もいない。
「おかしいな。今、女の人の声が聞こえた気が……」
「わしはこの世界の創造神が1人っ!!」
やはり聞こえた。しかし言っている意味がわからない。夢か、そうかこれは夢なんだ。
僕は岩陰にわずかに見えた水場へと歩きだす。やたらと体が重く、足が前へと出ない。
ザッ……ザッ……ザッ……!
「わしの名はアリス!お主、自分の名は覚えておるか?」
「アリス……アリス……?」
妙にテンションの高い声がまた耳元で聞こえる。頭でも打って、幻聴が聞こえてるのだろうか。
「無視するなぁぁぁぁぁ!!」
ザァァァァァァァ……!
「うぅ……」
頭が締め付けられる様に痛い。この声は誰だ?何も思い出せない。
ザァァァァァァァ……!
「もう1度問う。わしの名はアリスじゃ。お主、名は言えるか?」
目の前に1人の少女が立っている。
黒い長い髪に、緋色の目。巫女装束……そして羽根の生えた生き物が手をパタパタと振っていた。
あぁ……僕は死んで天国に来たのか?そんな妄想にふけっていると、その少女は続けて言う。
「貴様。いい度胸じゃな……さっさと名前を言え」
少女の目つきと態度が急に変わるのがわかった。ここは天国ではなく地獄なのか……?となると、この子はもしかして悪魔か?
僕は少女に答える。
「……僕の名は……千家春斗……?」
僕は少女に言われるがままに答えるが、名前や言語の記憶はある様だがなぜか曖昧だ。
「ハルト、ご苦労じゃったの。わしを助けてくれた事、心より礼を言いたいのじゃ……サンキュ♡てへっ!」
「てへっ!じゃない。何だその軽めのお礼は!……いや、そんな事より僕は死んだのか?」
「うむ。お主は死にここマサミカ大陸に転生したのじゃ。……いや殺されて?か。まぁ、よい」
こいつはやっぱり悪魔なのかもしれない。
「わしはこの世界の創造神の1人。名はアリス・ウメ・コリータ。そなたの体を借りて生き延びたのじゃ。わしの生命力が回復するまでしばらく宿主に――」
僕の耳にははっきりと、ウメコと聞こえた。アリスと名乗るそのウメコはその後も色々と説明してくるが、ウメコのインパクトが強すぎてまったく頭に入ってこない。
「ところでウメコ。僕のこの胸の宝石みたいなのは何?」
「ウメコと呼ぶな」
「えぇぇ!?言いたくなるでしょ!それにこの宝石が光ると、お星様に帰らないといけ……」
「違う。それはわしの作っ……おいっ!ハルトッ!いかん!魔物じゃ!逃げろっ!」
急にアリスが大声を出す!
魔物?ゲームとかに出てくるあの魔物?僕がアリスの叫ぶ方向に目をやると、水場の近くでこちらを睨む魔物がいた。
「グォォォォォォ……?」
「へ……?」
逃げる?逃げる……逃げるっ!?
逃げようとするが足がもつれ、まるで夢の中で走ってるような感覚がする。
「痛っ!」
地面からつき出た石につまずき、足元がふらつく。体が重い……重いというか、動きにくく足が前に出ない……しかし今は考えているヒマなどなく、とにかく逃げる事だけを考えた。
「ウメコ!何かその……戦う道具とか武器になるような物とか無いのか!?」
「あるにはあるのじゃが……いや、そなたではあれとは戦えまい!とにかく今は逃げるのじゃ!」
「くそっ……!」
僕は走った。後ろも振り返らず、この暑い砂漠を全力で走った。暑いっ!苦しいっ!おまけに走りにくい――!
「――ここまで来ればもう大丈夫じゃな。あの魔物も追っては来ぬようじゃ」
「はぁはぁはぁ……疲れた……」
ようやく魔物を振り切り、その場で倒れ込むと、しばらく息を整え、また歩き出す。
「はぁはぁはぁ……水……」
水が飲みたい……!
しばらく西へと歩くと、小高い丘に見えた洞窟の中に入り、座り込む。外とは違いひんやりとしたその洞窟でようやく一息つく。そして奥には偶然にも水が湧き出ていた。
「え!み、水っ!?――ごくごくごくごく……!!ぷはぁ……」
喉を潤し、ようやく落ち着いた。
「――ところでアリス、いくつか教えて欲しいことがあるんだけど」
「なんじゃ?」
アリスにはさっきの魔物の事といい、砂漠といい、聞きたい事が山程ある。
転生とは?魔物とは?僕は最初に一番大事な事を質問してみた。
「……ウメコって呼んでいい?」
「だめじゃ」
そうか、やっぱり駄目なのか。魔物から逃げている最中に一度返事をした気がするけど仕方がない。
「なぁ、アリス。この世界では魔物や……もしかして魔法とかも存在するのか?」
「ほう……理解が早くて助かるの。そうじゃ。魔物を倒すと道具や通貨がドロップするし、魔法ももちろん存在する。この世界ではこれが常識なのじゃ」
「そうなのか……さっきの魔物は?」
「うむ。あれはオーガじゃな。わしの実体があれば雑魚同然なのじゃが、お主の体に魂として依存しているわしには、今は何もできぬ。仮にわしの魂と肉体が消滅するとお主の魂も消滅する。一心同体というやつじゃな」
「ふぅん……よくわからないけど全体的に不思議体験という事か。ところで一心同体なのにアリスはなぜ目の前にいるんだ?」
「あぁ、これはわしがイメージした分体じゃ。対面で話やすいようにな。お主にしか見えぬ」
「どうりでナイスバディだなと……」
「アリスちょっぷ!!」
『べしっ!!』
「いってぇぇぇぇぇぇ!!何を……!!」
「やらしい目で見おってからに!そりゃ分体は少しは盛ってはおるが……」
「盛っとるんかいっ!」
それからしばらくアリスと問答を続けた。
僕がこの世界に転生し、アリスと魂が一部同化したこと。首の下にできた宝石は、アリスを守る空間が凝縮されているらしい。僕の魂の力によってアリスは生きているそうだ。
そして僕がアリスの固有スキル「複製」を使えるようになってるのだと。「複製」とは神が世界を作るのに与えた禁忌の力だという。
また固有スキルとは別に鍛錬スキルというのもあるらしい。固有スキルは産まれ持ったいわば才能みたいなものだが、鍛錬スキルは名前の通り、覚えたスキルを鍛錬する。僕にはまだ鍛錬スキルは無いそうだ。この鍛錬スキルの事を俗称でサブスキルと呼ぶらしい。
――こうして転生初日はあっという間に過ぎていく。
「ぐるぅぅぅぅぅ……」
「お腹が空いたな……」
「ぐるぅぅぅぅぅ……」
「アリス、そのお腹の音は何とかなら――」
「ぐるぅぅぅぅぅ……」
「……寝よ」




