第17話・聖獣きりん
―――ウェスタン王国―――
数日後……僕達は廃墟のある中央都市リベラルに向かって出立した。
2日ほどあれば着く旅路で、以前修行をしていた西の洞窟を経由して行く事になった。急ぐ旅でもなく、のどかな景色が広がる。
「アリス、中央都市はいつから廃墟になったんだ?」
「おそらく……幾度かの洪水の後、紋章が失われ、魔物が住みつくようになったと思うのだが、百年か二百年か……はっきりとはわからぬ」
「紋章ですか?」
メリダが聞いてくる。
「うむ。中央都市には聖なる紋章というのが太古の昔からあっての。魔物を寄せ付けぬ力があるのじゃ。わしとプリンはその紋章を探しておるのじゃが、未だに手がかりすら掴めん」
「……小さい頃聞いたことがあります。もしかしたらなんですが。ねぇ、おねぇちゃん?」
「えぇ、そういえば母が言ってました。聖なる紋章は中央都市から盗まれ、世界中を転々とし、一時期エルバルト教会にもあったのだと」
「なんじゃとっ!?」
「はい。けれどその後盗難に合い、最近ではサウス山の飛龍の首にそれを見た者がいるとか。噂話ですけど……」
「うぅむ、飛龍か。あやつらならやりかねん。光る物が好きじゃからのぉ。よし。中央都市を再建しつつ、飛龍に久々に会いに行くかの」
飛龍言えば竜族。異世界ぽい感じでいいなぁ……そういえばリンも竜族のハーフだった様な気がする。
「リンも竜族ならサウス山の飛龍は知っているのか?」
外を眺めていたリンがこちらを振り向き、にぱぁと笑う。
「うんっ!ぼくのおじいちゃん!」
「ぶっ!!」
「ぎゃっ!」
アリスが水を吹き出した。おかげで正面の僕は水びたしだ。
「飛龍でしょ?ガイヤ・ドラコ。ぼくのおじいちゃんだよ!」
「まさかのおじいちゃん。はは……話が早そうで良かった」
僕はタオルをバックから取り出し、顔を拭く。
「飛龍か。それは思いつきませんでしたわ!」
プリンの分体が馬車の天井から、ぶら下がる様に顔だけ室内に出している。生首プリンだ。
「プリンよ、ぼちぼち偵察に動けそうかぇ?」
「はい、ねぇさま。ハルトの魔力があれば数日は動けるかと。出来ればそこの人間の体を媒体にすればもう少し行けそうですが……」
ニヤリと笑うプリン。慌ててマリアとメリダが目をそらす。
「やめぬか。こやつらはわしの大事な欠片じゃ」
「はぁい。それではちょっと飛龍を見てきますわ!」
「うむ。よろしく頼むぞ」
天井からスッとプリンの生首が消える。プリンの本体は僕の体の中で眠っている。今のプリンの分体は霊体みたいなものか。
その後、快調に馬車は進み夕刻にはウェスタン王国の東の外れ、温泉宿があるノルマの町に着いた。
―――ノルマの町―――
「いらっしゃいませ!お客さんが来るなんてめずらしいね!今日は宿泊かい?」
「はい。大人数ですが大丈夫ですか?それと食事を」
「ひー、ふーみー……大丈夫大丈夫!女の子の部屋分はあるよ!男たちは宴会場で雑魚寝だねっ!」
「はい、それでいいです」
僕達はノルマの町に寄って休憩することにした。以前は遠くに見えただけで寄るのは初めてだ。
人数が多いので食事が出来るまでにと、先に温泉に入ることにした。
「しかし旦那!暑かったですねぇ」
ギルが温泉で伸びをしながら話しかけてくる。
「あぁ、僕はアリスの加護が効いてるから平気だけど、皆は持ってないもんな。お疲れ様。でも向こうに着けば夜は涼しいと思う」
「そうなんですか?旦那にお任せしますぜ」
近衛兵ギル、ゼシカの右腕だ。僕より少し若いだろうか。色々お世話になっている。
すると柵の向こうから女性達の声が聞こえる。
「はぁぁ、生き返る……!生き返るって、私の様に一度死んだ者にしかわからないな!はっはっは!」
「ゼシカさん!生命帰還を受けた時、どんな感じだったんですかっ!?」
「覚えてない。だが、すぅーーーとこう、なんかすぅーーーとした!」
「あぁ、私も1回死んでみたい♡」
「よし。マリン、1回殺してやる。そこへ直れ」
「きゃぁぁぁ!アリス様♡」
頭がお花畑の会話が聞こえてくる。
「ところでおねぇちゃん。ギルさんとはどうなのよ~」
「え?ちょ、ちょっと!メリダ!」
「何、何!マリアさん!ギルと出来てるの!?白状しなさい!」
おぉ?ギルとマリアはそんな関係なのか!?
「ちょ、旦那、ニヤニヤしないでください!別に何もありませんって!」
照れるギル。
「ほぉ……」
「ちょ!アリス様!胸さわるのは……あ!ちょ、だめ……!」
「リン!あんたまた胸を強調して!こんにゃろー!」
「ちょっと!エル!揉まないでよぉ!あんっ!」
妄想が追いつかない、順番にしてくれ。と妄想にふけっていると……!
ドッバーーーーン!シャァァァァァァァ……!!
水しぶきを上げて、空から僕の目の前に何かが降ってきた。
「何だ!?魔物かっ!?」
「……きゅうん。パタパタ」
「何だこのキュートな生物は……!」
「旦那!大丈夫ですかい!」
子犬の様な、狼のような、馬のような、シカ……にも見えなくない。見た目は不思議な動物だ。
「ハルト!どうした!?何かあったのか?」
「あぁ!アリス!今、へんちくりんな生き物が空から降ってきて!お風呂上がったら見せるよっ!」
僕はその生き物を乾かしてやり、お風呂から上がる。しばらくしてアリスたちも上がってくる。
「うむ。こやつは麒麟の子かもしれんな。まぎれもない聖獣じゃ」
「聖獣?神の使いってこと?」
「本来は……じゃがこの地域には存在せぬ。こいつが子供ということは親もおるはずじゃが。しかしそれはさておき……かわゆいのぉ♡」
「アリス様!私にも貸してください!」
「次は私がっ!」
「あぁ!?ちょっと!それは僕が――」
女子に取られた。僕がペットとして飼おうと思ってたのに。
「女将さんっ!すいません!この子の食事追加でお願いします!」
「はいよっ!」
「はぐはぐはぐはぐっ!!きゅぅん!」
「すごい勢いでご飯を食べるな。よほどお腹が空いていたのか……」
――吾輩は聖獣麒麟である。名前はまだない……。




