第11話・裏切り
―――北の大森林―――
僕達は薄暗い森を抜けて、先程丘の上から見えていた場所に向かっていた。辺りに魔物の気配はない。と、アリスがつぶやく。
「少々面倒くさい事になっておるのぉ」
面倒くさい?どういう事だろう。
「この辺りのはずだったが……」
ゼシカが周りを見渡すと、数人の冒険者が倒れている。急いで駆け寄るゼシカ達。
「大丈夫かっ!!」
息はある。エルとリンが手分けして回復薬を飲ませていく。
「生命回復!……え?ゼシカ!この人、回復薬も生命回復も効かない!」
この人は確か冒険者ギルドで会った司祭服の女性……。
「カ、カイ様が……裏切っ……ゴホッ!」
アリスが念話で話しかけてくる。
「呪いの首輪か。ハルトよ、生命回復、呪解除を同時にかけてみよ」
「エル、離れて。僕の魔法で――生命回復呪解除!」
司祭風な女性の周りに光が集まり、首輪が徐々に消えていく。しかし同時に苦しみ出す女性。そういう事か。呪いの首輪を無理に外そうとすると生命を削られるらしい。そこで同時に回復魔法をかけていれば呪縛が解けるまで生命を維持できる。
しばらくすると彼女の顔色が徐々に良くなっていくのがわかる。
「同時魔法に無詠唱……ハルト、あなたはいったい何者……?」
エルが不審そうな顔でこちらを見ているが、気付かないフリをする。すると司祭風な女性が起き上がった。
「はぁはぁ……ありがとうございます。ありがとうございます……うぅ……」
急に泣き出す彼女。よほど苦しい目に合っていたのだろう。
少し落ち着くと彼女は話始めた。
「私はエルバルト教会の司祭、メリダ・エルバルトです。カイ様が裏切り、先ほど魔物に命乞いをし、私達を剣で刺して……ゔう……!何人かは魔物の……エサにと連れて行かれました……」
「あのクソ野郎……!」
「丘から見えたのはそいつだったんか。アンニャロー!」
怒るリンをゼシカがなだめる。と、またアリスが話しかけてくる。
「ハルト、嫌な予感がするのぉ……。一旦、丘まで退くぞ。大森林から離れるのじゃ」
「ゼシカ!負傷者を連れて一旦、丘まで退こう!こう暗くては不利だ!大森林にいる冒険者全員に通達を!」
「う、うむ。そうだな、日が昇るまで一旦退くのが懸命か。ギル!全冒険者に通達を!」
「はっ!わかりましたっ!」
ゼシカ達が生きている冒険者達に肩を貸し、皆で森を抜ける。
「アリス、これでいいのか?」
「うむ。わしの予想が正しければ、魔物の中にサキュバスがおるのかもしれぬ」
「サキュバス!?そういう事か。冒険者を魅了し混乱させてるわけか。確かにこの暗闇ならどこから出てきても気付きにくい……」
僕達は急いで丘へと戻った。
「ギル!冒険者達は!」
「はっ!全軍に通達完了。前線を下げて、夜襲に備えてます」
「ご苦労。これでしばらく様子を見よう」
―――翌日―――
朝日が昇ると、大森林の先の草原には数万の魔物が待機していた。こちらは冒険者の生き残り約300人と夜中に到着した冒険者約1000人。魔物の進行が思わぬ早く後手後手を取っている。夕刻には城騎士団と補給部隊が到着するが、それまで持つのかどうか。
ゼシカが丘の上に立ち、冒険者達を鼓舞する。
「夕刻には城騎士団も合流する!それまでこの大森林で何としても耐えるぞっ!!」
「オォォォォォォォォォ!」
まだ皆の士気は高い。昨夜助けたメリダは落ち着きを取り戻し、僕達のパーティーに合流して行く事になった。
「ハルトよ、油断するなよ。胸騒ぎがおさまらぬ」
「あぁ、アリス。わかっている。行くぞ」
僕達は先陣を切り、大森林を背に左右に展開し、挟み撃ちされないように魔物の群れに突撃する。僕を先頭にゼシカ、エル、リン、メリダが続く。
「光の剣!高速移動!」
「ま、魔法剣!?ハルト!後でゆっくり話ををを――!」
後方でゼシカの声が遠ざかっていくと同時に、目の前のオーガの体が裂ける!
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
オーガ、ナーガ、ゴブリンを手当たり次第に切っていく。魔法はまだ使わない。夕方まで魔力が持たないからだ。
後方からリンの詠唱した火玉が飛んでくる。エルも得意の風魔法で援護してくれる。2人の詠唱時間を稼ぐために、ゼシカがかばいながら戦っている。良い連携だ。
他の冒険者達も善戦している。数万の魔物だろうが、一気に攻めてくるわけではない。目の前の魔物が倒れれば後ろの魔物が来る、といった具合に順番に戦えている。これなら魔力を温存しながら戦えそうだ。
――何時間経っただろうか。僕達は他の冒険者と交代交代に戦闘を続けていた。そんな時、ふいに後方から悲鳴が聞こえる!!
「キャァァァァァァァァァ!!」
「イヤァァァァァァァァァ!!」
エルとリンの叫び声だ!
「何だっ!?」
僕はとっさに振り向く!そして視界に入ってきたのは……ゼシカが前のめりに倒れていく姿だった。ゼシカの背中には剣が突き刺さっている。
「え……?」
――倒れたゼシカの後ろには……返り血を浴びたメリダが立っていた。
頭が整理できない。とっさに僕はメリダに向かって走り出す!
「高速移動!!」
「ハ、ハルト……さ……ま……!?」
メリダの胸に今度は僕の光の剣が突き刺さり、メリダが倒れる……!考えるより先に体が反応してしまった。
「ぼ、僕はいったい何……を!?はっ!ゼシカに回復魔法を!エルッ!!回復魔法だっ!」
「は、はいっ!」
半べそをかきながらエルが詠唱に入る。
「――生命回復!!」
ゼシカはピクリとも動かない。僕はゼシカの周りに集まる魔物を相手にするので手一杯で、回復にまわれない!
「くっそ!致命傷か!?おいっ!リン!回復薬を――!?」
「あ……ぁ……あぁ……」
リンは腰を抜かしてしまっていて動けそうにない。
「――生命回復ッ!!?キャァァァァ!!」
エルが回復魔法をかけようとして、別の魔物に吹き飛ばされる!!ドサッ……!
「エルゥゥッ!!……くっそ!リンっ!しっかりしろ!!」
そのまま地面に転がったエルも動かず、リンも完全に戦意を喪失してしまっている。近くに援護に来れそうな冒険者もいない。これは……全滅する。
「アリス……すまない、ここまでかもしれない」
「メリダはサキュバスに操られておった様じゃな。胸騒ぎはこれだったか。うむ……光の剣が刺さりサキュバスの気配は抜けておるわい」
アリスはメリダの体を調べている。大量の血が地面に広がり、メリダもまた瀕死の状態に見えた。
「3人を見捨てて、僕だけこの場を離れれば……」
そんな言葉が脳をよぎった時だった。右側から黒い太い拳が僕の体に当たる。
ズゴォォォォォォォォォォンッ!
「え……?!」
ふいに体が宙を舞う。
「しまっ………?!」
「ハルト!逃げろっ!そやつはオーガロードじゃ!!」
アリスが叫んだが時すでに遅し。僕はオーガロードに吹き飛ばされた!
オーガを束ねるオーガ最強の王……ここに来る前にアリスに言われていた。今の僕の力ではまだオーガロードは倒せないと。
ははは……ちゃんと魔物の勉強までしたのに、こんな所で僕は死ぬのか?
ドサッ……!!
吹き飛ばれて地面に叩きつけられる。体のあちこちが痛い。逃げようにも力が入らない。
「がはっ!」
口の中から血が吹き出し、近くでアリスがくやしがる声が聞こえた。
「ハルト!しっかりせい!くっ!まずいな。今のわしには何も出来ぬ!!」
オーガロードが雄叫びを上げ、気を失っているゼシカの体を持ち上げると、口へと運ぶ姿が見える。
「グアァァァァァァァァァン!!」
「やめろ、やめろ、やめろ、やめろ、やめろ、やめろ、やめろ、やめろ、やめろ、やめろっっ!!!!!」
しかし叫んでいるつもりが声も出ない。意識もだんだんと遠くなっていく……。
僕も……このまま死んでしまうのか……?




