第100話・崩壊の足音
――月日は流れ、秋子と千秋がコリータに来て5年が過ぎた頃……。それは少しずつ現実味をおびて来ていた。
―――コリータ王国食堂―――
ガタガタガタ……!
「地震です!皆!伏せて!!」
ガタガタ……!
「最近、地震が多いな……」
「えぇ、城内の様子をすぐ調べます」
「父上!南東方向で火事です!」
窓から外を見ると煙があがり、火災が数か所で見える。
「父上!消火に向かいます。空中歩行!!」
「あぁ、千春。任せた」
窓から勢いよく飛び出す千春。今年でもう16歳か。ゼシカ見てるかい?君の子は大きく元気に育ってくれたよ。
「……おっと、感傷に浸ってる場合じゃない」
ザァァァ……!
僕は急ぎ念話器を起動する。
「消防隊員各員、南東で火事発生。急ぎ急行せよ!」
ザァァァ……!
カーンカンカーンカーン……!しばらくして火は消し止められた。
「プリンよ、どう思う?」
「はい。ねぇさま、もう近いかと」
「うむ。そろそろ準備をしようかの」
僕達は1週間後にコリータで大陸間会議を行う事にした。
――1週間後。
北の国からネプチューン神、マスタードラゴンのお菊、西の国からウェスタン国王サルト、王妃チグサ、東の国からエルフ族長、世界樹守護のジュリ、南西の町からサウスタン町長、南東の町からエスポワール町長――が、ここコリータ王国に集まる。
「皆様、遠路はるばるご苦労さまでした。僕はコリータ国王のハルトです。よろしくお願いします。早速ですが、先般通達した大陸の今後についてお話します」
王広間にテーブルを並べ、会議室と同様じっくり話をする場を設けた。
「では、まずご紹介致します。皆さんご存知の通り、この大陸を支配するアリス様とプリン様です」
パチパチパチパチパチパチ……!
そう言えと、アリスの作った台本に書いてあるのだ。会議はアリスとプリンの進行で話が始まる。
「うむ。皆の者、よくぞ集まってくれた」
「くるしゅうない。表をあげよ」
そう台本に書いてあるが、皆、最初から顔をあげているので微妙な空気になる。
「近々、このマサミカ大陸は未曾有の危機が訪れりゅ………る」
アリスが大事な部分を早速噛んだ……。
「しずまれぃぃ!!」
シィィィィィィン……。
「ん?プリン?今のは……」
司会進行の台本に小さく注意書きが書いてある。
なるほど。皆、ここでびっくりしてガヤガヤすると思って書いたのか。残念だが、皆、ずっと静かにしている。
大丈夫か?この台本。
「そこで6人の勇者をそれぞれの国に派遣し、天界魔障大結界アリスを張る事にした!!」
「アリス様すごいすごい――」
プリン棒読みかっ!
台本によると北にステラ、西に千春、東に千夏、南西に千冬、南東に千秋。そしてコリータにはメリダの子供、愛花がそれぞれ振り分けられている。
「予想では1年程度で、空から恐怖の大王アンコロモチが降ってくる……気がする!」
「こわぁい!」
「各々、国へ帰り準備を整えよ!尚、わしの懐には若干の余裕があるっ!貢ぎたいなら遠慮はいらん!かかってこい!」
「こぉい!!」
「以上じゃ!」
「質問は受け付けない!解散!」
「え……」
ざわざわし始めた。そうでしょうね。台本がおかしいですからね。さて……。
「と、まぁアリス様はここまでで、僕が交代致します。質問がある方はどうぞ」
ネプちんが挙手し、話し始める。
「婿殿、未曾有の危機とは何が起こるのじゃ?」
「アリスの過去の経験上、地震、雷、火事、オヤジだそうです」
「オヤジとは……?」
「アンコロモチ大王の事かと――たぶん隕石とか彗星とか、はたまた宇宙からの飛来物かと思われます」
「ほぅ……そんな物が……」
あぁなるほどと、皆さん納得のご様子。
次にウェスタン王国のサルト国王が口を開く。
「父上、それでは我々は何を用意していれば良いのでしょうか?」
「まず他国に声をかけ、十分な食料、人材の確保が優先だ。マサミカ大陸だけが崩壊するのか、世界中で同じことが起こるのか……それがわからない」
「なるほど。この大陸だけはアリス様の加護で守るとしても他の大陸までは無理ということですね」
「そうだ、チグサ。旧イスタン帝国や南のウィンダ町の住民には早めに近くの町へ移住してもらう必要がある。そのために大陸中の国、町を増設済だ」
世界樹の妖精ジュリが挙手をする。
「人魚族など海洋生物はいかが致しますか?」
「ウェスタン国の北に入江を設けている。そこに集まって欲しい。ただ、いつ崩壊が始まるかわからないので移動のタイミングは個々の判断に任せる」
うんうん、と皆、うなずき納得している様子だ。
「わかって欲しいのはその災害が起こるかもしれない。という事だけだ。ここにいる国の代表は僕の知り合いばかりなので信用はしてくれてると思う。しかし他の国からしたら、馬鹿馬鹿しい話かもしれない」
カタ……と、アリスが立ち上がる。
「うむ。他の大陸にもそれぞれ神はいる。わしも全員を救えるわけではない。他の大陸とは今回は切り離して考えておる」
「もうひとつ。もしもの話だけど、アリスに何かあった場合、魂を共有している僕とプリンも消滅する可能性がある」
ざわざわ……!
「その時はコリータ王国は千春を城主とし、助けてやってほしい」
ざわざわ……!!
「ふ……万が一にもそんなヘマはしないがな!しっしっし!」
アリスのどこからその自信はくるのだろう……。
「それでは、皆さん。すみやかに国へ戻り準備してください、以上です」
その後、個々に質問をいくつか解答し各々が帰路に着いた。
カタカタカタカタ……!!
テーブルに置いてあるカップが音を立てる。また地震だ。
「あなた。千夏をエルフの里へ行かせるのに、私も付いて行っていいかしら?」
「エル、構わないよ。エリサにも伝えといてくれ。あ、念話器だけ忘れずに」
「わかったわ、あなたも気をつけてね」
「ミヤビ。すまないが千冬がサウスタンに滞在中、警護を頼めないか?」
「お安い御用です」
「頼んだよ」
「マリン。ベリアルさんとミレーさんは秋子と千秋と一緒に南東のエスポワールの警護をお願いしてくれ」
「かしこまりました」
これで一通りの準備は出来た。後は結界を張るタイミングか。
「マリン、それぞれの神の子の護衛をしている家族には十分な資金を援助してやってくれ。滞在期間が1週間なのか1年なのか……しばらくは不自由な暮らしになるとは思う。それとミヤビが抜けた穴はギルを騎士団長としてやってくれ」
「かしこまりまし……あら、レディさん!」
「旦那様っ!最近来てくれないのでこっちから来たのじゃ。息災か?」
「……レディの家には確かに行ってない。だが、今朝一緒に食事はしてたよな?」
「はてはて。何の事やら」
すっとぼけるレディ。
「ステラはもうネプじぃさんのとこに連れて行ったのか?」
「先程、一緒に連れて帰ってもらった。あの2人なら大丈夫と思っての。それより旦那様にちょっと渡したい物があってな」
カタンと、レディが1本の刀を机に置く。
「これは……天十握剣」
「この剣を旦那様に預けておく」
そして、レディが僕を抱きしめた。
「旦那様はわしが唯一愛したお方じゃ。勝手に死ぬ事は許さん。無事、この大陸を救えたら刀を返しにきて欲しい。待っておる……」
少し声が震えるレディの頭をそっと撫でる。
「大丈夫、きっと無事に全部終わる。終わったら必ず会いに行くから」
レディは涙が溢れんばかりの顔で、無理矢理笑顔を作る。
「約束……じゃぞ……。じゃあの、旦那様」
「あぁ、約束だ」
そう言うとレディは部屋から出て行く。全て見透かされていたのか……?そんな気がした。
「マリンも、そんな顔しないで。大丈夫。僕らは運命なんかには負けない」
「国王様……」
そうマリンに言いながら、自分にも言い聞かせた。
……そしてその日の夜、予期せぬとんでもない事件が起きた。




