第98話・送り盆
―――コリータ王国―――
――8月15日、お盆祭り3日目。
今日は午前中に剣闘大会の決勝戦、夜にはミレーのライブもある。締めくくりは灯籠流しの予定だ。
僕は自分の仕事を済ませ、会場の様子を見て回る。
「剣闘大会!子供の部!優勝はっ!!」
魔法球を通じて大会の様子が映されている。
「千夏君っ!!」
『ワァァァァァァァ!!』
闘技場の方から歓声が聞こえる。
「あらら、千春は千夏に負けちゃったか」
帰ったらなぐさめてやろう。
「国王様!ツイストの素性がわかりました!」
ギルが慌ててやって来た。僕は急いで資料に目を通す。
【父親コブラ、母親――】……その名には見覚えがあった。イスタン帝国を裏で操っていた大臣だ。
「父親コブラはすでに亡くなっております。ただこの10年前から息子のツイストも行方不明でした」
嫌な予感がする。
「ギルは警備をおこたるな。仲間がいるかもしれない。もしもの時はベリアルさんを呼んでくれ」
「はっ!」
僕はそのまま闘技場を目指す。闘技場からは歓声が聞こえ、大人の部の決勝戦が始まった様だ。
―――闘技場VIPルーム―――
「あ、アリス達も来てたのか」
「遅いぞ、ハルト。ミヤビが苦戦中じゃ」
「なんだって!!」
「あやつ……魔物臭いのぉ。合成魔法でもかけられたか」
闘技場ではミヤビが、ツイスト相手に苦戦をしいられていた。
「くっ!!世の中は広いのぉ……!!しかし……!」
ミヤビの体が左右に揺れる。
「無双枯草っ!!」
ミヤビが得意技で勝負に出るが、ツイストの剣がそれを阻む!
カキィィィィィィン!!!クルクルクルクル……ザシュ!!
ミヤビの剣が弾かれ、場外に飛ばされる。
「あぁっと!ミヤビ選手の剣が折れたぁぁ!」
「……参った」
「そこまで!勝者!!ツイスト!!」
審判の声に会場中が静まりかえった。
「おい、嘘だろ。歳をとったはいえ、コリータ最強の戦士だぞ?」
「何者だ、相手の選手は……」
パチパチパチ……会場にまばらな拍手が聞こえる。すると隣で見ていたアリスが審判に向かい叫ぶ!
「いかんっ!!すぐにミヤビを下がらせろ!!」
「……ギ……ノ……コロス」
「……いたた、はぁはぁ……参った参った。お主強いな、どこでその剣技を習っ――」
ミヤビが起き上がろうと、ツイストに声をかけた瞬間……。
「え……?」
「……ウ……ラ……コロス」
ミヤビの腹部にツイストが持つ剣が刺さり、闘技場の上には血が飛び散る!
ツイストの体からどす黒いモヤが立ち上がり、それはまがまがしい気配を放つ。
「キャァァァァァァァァ!!!」
会場中が悲鳴に変わる。
「ガハッ……!おま……えっ……!!」
「ウラギリモノ……コロ……ス!!」
ツイストがさらにミヤビの腹部から引き抜いた剣を振りかぶる!
「まずいっ!空中歩行!!」
僕は会場に飛び降り、間一髪ミヤビの体を場外へ運ぶ!
「ミヤビちょっと我慢しろっ!」
「グッ!!国王さ……ま……はぁはぁ……すまな……い……」
すぐさま回復魔法を施す。
「完全回復!!」
「ゔっ!!……はぁはぁ……すまない……」
「傷が塞がりにくい!?これはまさかっ!!」
「天之叢雲の残りの香りがするの……」
すぅと僕の横にアリスが降りて来る。
「いかんっ!ハルト!!後ろだっ!!」
「ちっ!!」
ツイストが闘技場の上からこちらに剣を投げる構えを取る。
「完全に正気を失ってやがるのか!!」
僕は慌てて剣を抜くっ!――スカッ!!
「……あれ?」
剣が無い!?執務室に置き忘れて来てしまった……。
「まずい……!」
「ジャマスルモノ!コロォォォォス!!!」
「ちょっ!たんまたんまっ!」
ツイストは剣を振りかぶり、僕に向かって投げつけた!
――キィィィィィィィィィィン!!と、甲高い音が闘技場に鳴り響き、目の前で剣が弾かれる。
「いっ!?……何だ?何が起き――!」
「父上!今のうちにお逃げ下さい!」
「千夏っ!?」
「千夏!!何してるの!逃げなさい!!」
エルが観客席から叫ぶ。ツイストは剣を弾いた千夏に標的を変えた……!
「ジャマ……ヲスルナ……!」
「光矢舞神!!」
「グゥ!?ダレダ……!」
グサグサグサグサグサグサッ!!ツイストの背中に無数の光の矢が刺さり、ツイストの動きが止まる!
「千秋何してるのっ!!!逃げなさいっ!!」
今度はツイストの背後に千秋が立っていた。
「い、今の魔法は千秋なのか?いったい何が起きているんだ……?」
秋子が観客席から叫んでいる。
「グォォォォォォ!!」
ツイストが反転し、背後の千秋に向かって走り出す!!
「凍結地!!」
「ウッ!?」
ツルッ!
ツイストの足元が凍り、尻もちをつく。そしてもう1人、見た事のない少年が闘技場の上に現れる。
「間に合ったようじゃな」
「月子!?あの子は誰だ!」
「くっくっく。ハルトよ、まぁ黙って見ておれ」
「どういう事――!?」
僕をかばってくれた千夏の周囲の空気が歪み始め、強大な魔力が集約されていくのがわかる。
『月陰秘奥義――』
「なっ!?千夏殿!その技はっ!!」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――!!」
ミヤビが叫ぶ!
『月花乱舞!!!!!』
千夏の姿が目の前から消えた。到底、人の速さではない動きで起き上がるツイストを切り刻む!!
ザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュ!!!
「ガハッ!!」
ツイストの体から血が吹き出し、よろける。
「千夏!!下がって!!」
「千秋!!準備が出来たかっ!!」
『混沌の地より生まれし竜、我の声に答え、導け。我はこの世界を破壊するもの也……!!!』
ザッ……!!
『竜の嘆きッッッ!!!』
キラァン!!!キュィィィン――!ズドォォォォォォォォォォン!!!!!
「グアァァァァァァァァァ!!」
空から現れた光の竜に飲み込まれるツイスト!
「竜の嘆きまで!?……な、なんなんだこの子たちは!!」
僕を始めミヤビもそしてアリスさえも、愕然とし、このあり得ない少年達を見守る。
「千冬!!トドメよっ!!」
『万物の精霊よ……我の名の下へ集え……そして今ここに死滅をもたらせ――』
千冬と呼ばれた少年の周りの空気が冷たく圧縮されていく……。
『絶対零度!!』
カチカチカチカチカチカチカチカチ……!パリィィィィン!!
ツイストの体が一瞬で氷つき、そして塵になって消えていく……。
「ミヤビ、僕は夢でも見ているのか……?」
「いてて……ハァハァ、国王様、千夏殿のあの秘奥義は過去に誰も会得出来なかった月陰最強の技……」
「おいおい……」
「くっくっく!良くやった。皆、集まれ!」
「月子っ!この子達はいったい!」
月子の周りに千夏、千秋、そして千冬が集まる。
「紹介しよう。ナツト、アキネ、トウヤの生まれ変わりじゃ!!」
『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?』
その3人を知る者全員が腰を抜かした。エルと秋子にいたっては気絶してしまった……僕達も開いた口が塞がらない。
「10年前……冥府から連れ帰った3人の魂を、親父殿に頼んで転生させたのじゃ。記憶は失っておるが魂はあやつらの物じゃ」
とんでもないことをする神親子だな。
「色々聞きたいことはあるが……千夏、千秋、千冬、ありがとう。助かった」
『はい!ご主人様!!』
……いや、ご主人様て教えるなよ。
「ところで千春は大丈夫だったのか?」
「あそこで、おもらししておるな」
「え?……何かごめんなさい」
千春の代わりに謝罪する。
「月子よ、千冬の親は誰なんじゃ?」
「トウヤもある女性の間に子がおってな。千冬はその孫なんじゃが、皆すでに他界しておった。そこで出雲の国で千冬はわしの知り合いが育てておったのじゃ」
あぁ、もうこの神達がやることはよくわからん。
「とりあえず、ミヤビを医務室に運ぼう。担架を頼む」
こうして天之叢雲の呪いは全て消え去り、剣闘大会はミヤビの優勝で幕を閉じた。
そして陽が傾き……夜が訪れる。
―――ミレーライブ会場―――
――19時。
外灯の代わりに通路の補助灯が点き始める。
「えぇ!テステス!皆様!おまたせしまピィィィィィィィ――コンコン。えぇ、失礼しました。お待たせしました!ただいまより歌姫ミレーによるライブを開始します!!」
城内に設置してあった魔法球がいっせいに飛び立ち、ミレーの姿を映し出す。今回も全ての都市に魔法球を送ってある。
「ミレー、準備はいいか」
「えぇ、ベリアル。エルフ族の皆さん、妖精族の皆さん、よろしくお願いします」
ミレーが音楽堂の仲間達に声をかけると、一同がうなずく。
カツン……カツン……。
ガッコウの高台に用意されたステージをミレーが上がり、僕達はステージの後ろに用意された客席で見守る。
「ドムドさん、打ち上げ5秒前……」
マリンが打ち上げ花火のカウントを始める。
「……4……3……2……1……点火!!」
…
……
………
ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……!
ドォォォォォォォォォォォォォン!!
パラパラパラ……!
ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……!
ドォォォォォォォォォォォォォン!!
パラパラパラ……!
打ち上げと同時に音楽が流れ始めミレーが歌い始める。
「それでは聞いてください!歌姫ミレーで……『希望』」
『〽ラララ~ラ~ララ~♪』
「ワァァァァァァァァァァァ!!」
城内のいたる所で歓声が上がった!!
「見て!ミレー様よ!!」
「いつ見ても綺麗だなぁ……!」
魔法球で、歌と映像が大陸中に流れる……。
『まだどこかであなたを待っている――』
スポットライトがミレーを四方から鮮やかに彩る。
『数十年、数百年たっても変わらないこの想い……闇の中から私を連れ出して――』
―――ウェスタン王国―――
「チグサ、何度見ても感動するな」
「はい、あなた。お兄様に感謝ですわ」
――城門。
「ヤバミっ!!大好きなんだよ!ミレーちゃんっ!!」
「俺も……これコリータだよな!くぅ!ビルと交代しとけば良かった!!!くそぉ!」
――冒険者ギルド。
「やべー!ホンモノじゃねぇか!ゲンブ!」
「行きそびれたぁ!セイリュウ!」
「ビャッコ!どうしよう、私泣けてきた!ぷおん」
「わしミレーちゃんのファンなのに!どうして教えてくれなかったんだぁ!マリン!アクアァ!!」
「ラルク様!落ち着いてください!」
―――エルフの里―――
「花火も歌も綺麗!私も次は参加したい!」
「これコリータよ!ミレー様!」
「キャー!かわいい!」
「ふぉぉぉぉっっ!!」
――世界樹。
「綺麗ですねぇ……ウメ様。あっ!世界樹様」
「あらあらまぁまぁ……ジュリ、その名はもう……ふふふ」
―――コリータ王国―――
「ドムドさん!サビに入ります!!」
「よし来た!皆の者、行くぜぇ!」
ドンッ!!
ミレーのサビに合わせて、花火が一斉に打ち上がる!!
『〽希望――!!
そんな言葉で片付けたくはないけれど――
何十年――何百年――
あなたを想い希望を捨てなかった――
この世界が終わりを告げるまで
あなたを想いたい……
あなたの剣が私を貫いた時――
それが始まり――
終わりなど永遠に来なければいい!
希望……』
バァァァァァァァァン!
ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥ!
バァァァァァァァァァン!
バァァァァァァァァァァァァン!
パラパラパラ……!
バァァァァァァァァァァァァァン!
城内は元より、僕達もまたミレーの歌に酔い歓声を上げ、時が経つのを忘れいつの間にか魅入られていた……。




