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 ――八年後




 今日は私の結婚式だ。お相手はユリウス・ロイガール公爵子息。宰相のご子息だ。


 私はこの三度目の人生、また臣籍降下する道を選んだ。しかし相手を変えた。二度目の人生では姉の婚約者に相応しいと思い選ぶことのなかったユリウス様に。彼はロイガール公爵家の嫡男だ。次の宰相になるのは彼だろうと言われているほどに優秀である。


 この三度目の人生も兄は二度目と同じ侯爵家に婿入りしていたので、私が侯爵家より格上の公爵家に嫁ぐのはどうかとも考えたが、前回はそれで何も成せぬまま死んでしまった。それでは意味がない。そう考えを改めユリウス様を婚約者にと選んだのだ。


 それに今回は姉より目立たないように気を付けた。前回も目立とうとなんて思ったことはないが無意識に姉の癇に触ることをしていた可能性もある。だから勉強も手を抜いたし着る服も地味な色を選ぶようにした。それにたまに姉とお茶をしたりと交流を増やし私がどれだけ臣籍降下を望んでいるかを何度も伝えてきた。そのおかげか姉とは前回よりもいい関係が築けたと思う。



 そして無事に結婚式当日を迎えることができた。



 だから今回は大丈夫、そう思っていたのに…





「私ユリウス・ロイガールはアンゼリーヌ・ド・ラスティアとの婚約を破棄する!」




 今日は結婚式当日、すでに私はウエディングドレス姿だ。会場には参列者もいて後は結婚式で誓いを交わすだけなのに、なぜか誓いを交わし合うはずのユリウス様から婚約破棄を言い渡されている。




「なぜ…?今日は私たちの結婚式なんですよ?」



「ああ、そんなことは分かっているさ。だがロイガール公爵家に犯罪者を迎え入れることはできないからな」



「は、犯罪者?私が?」




 私は誓って犯罪など犯していない。それに前回のこともあり自分の身の回りには気を付けてきたつもりだ。それなのになぜ…




「アンゼリーヌ第二皇女、いや大罪人アンゼリーヌ!自分の犯した罪を認めるんだ!」



「わ、私は何もしていないわ!」



「…まぁ罪を犯す人間が簡単に自分の罪を認めるわけないな。衛兵、こちらに!」




 ユリウス様に呼ばれやってきた衛兵は一人の女性と共にやってきた。私はその女性をよく知っている。




「ニコラ…?」




 その女性は私の専属侍女であるニコラだ。十三歳の時にケイトが亡くなりその後に私の専属となったのが彼女だ。




「侍女殿、話せますか?」



「は、はい。…私はアンゼリーヌ皇女様の専属侍女を務めておりますニコラと申します。前任の侍女がお亡くなりになってすぐに専属となりましたので五年ほどアンゼリーヌ皇女様の側におります。実は専属になってすぐの頃、アンゼリーヌ皇女様の部屋で見つけたものがあるのですが…」



「その見つけたものとはなんだ?」



「はい。…こちらです」




 ニコラはポケットからハンカチに包んだ何かを取り出した。そしてハンカチを取ると中から透明な液体の入った小瓶が出てきた。




「こちらの小瓶はアンゼリーヌ皇女様のドレッサーの引き出しの中にあった物です。私は侍女という仕事柄ドレッサーの引き出しをよく開けるのですが、この小瓶は引き出しの奥に布に包まれまるで隠されるように入っておりました」



「それで?」



「どうしても気になった私はアンゼリーヌ皇女様の目を盗んでそっと布の中身を確認したのです。そしたらこの小瓶が出てきました。小瓶には液体が入っていたので香油かなと思い蓋を開けて匂いを嗅いでみたのですが何も匂いがしませんでした。不思議に思ったのですがアンゼリーヌ皇女様に気づかれる前に戻さなければと急いで引き出しの中に戻しました。そしてその後はその小瓶の存在を忘れていたのですが…」



「何かあったと」



「はい…。しばらくしてからドレッサーの引き出しを開けると小瓶が奥から転がってきました。私は奥に戻した方がいいと思いその小瓶を手にとったのですが、中に入っている液体の量が減っていることに気がついたのです。引き出しに溢れてしまったのかと思ったのですが、蓋はしっかりと閉まっていましたし引き出しは濡れていませんでした。しかし間違いなく量が減っていたので気になった私は定期的に小瓶を確認するようになりました。…そして恐ろしいことに気づいてしまったのです。小瓶の中身が減るのは決まって皇帝陛下、皇后陛下、第一皇女殿下とのお茶をした日だったのです…!」




 会場内がざわめいた。


 謎の液体が皇族とのお茶の日に減っている、それだけでおそらく会場にいる者全員が一つの可能性を考えただろう。



 それは…毒だ。



 ちょうど今日の結婚式に父と母、そして姉が体調不良で欠席しているのだ。皇族からの出席者は第一側妃様のみ。そのことをみんなが不思議に思っていた。そこにこんな話が出れば誰もが私を疑うはずだ。




「私は不安になって小瓶から中身を少しだけ取り出し信頼できる方に調べてもらいました。そしたらやはりこの液体は毒物だったのです!…ただ私一人で抱えるには重すぎる内容でしたのでどうしたらいいかと途方にくれていた時に、ロイガール公爵子息様がお声を掛けてくださったのです」



「ここからは私が話そう。様子のおかしい侍女殿を見つけた私が話を聞くと、アンゼリーヌが毒物を使用した可能性があると言うのだ。私は信じられない思いだったがもしこれが本当なら国を揺るがす大事件だ。だから私の方で内密に調べてきた。そして時間はかかったがこの女は間違いなく皇帝陛下、皇后陛下、第一皇女殿下に毒を盛ったことが分かったのだ!」





 ―――ザワザワ




 会場内が再びざわめく。


 この流れはよくない。このままではしてもいない罪で私は捕まってしまう。ニコラとユリウス様が言ったことは全部デタラメなのに。




「わ、私はそんなことしてないわ!その小瓶だって知らない!そもそも私は皇帝の座を望んでいないのよ?それなら三人に毒を盛る理由がないわ!」



「はっ!そう言って本当は皇帝の座を狙っていたんだろう?全員が死んでいなくなれば臣籍降下したとはいっても元皇族であるお前に皇帝の座が回ってくるからな。それに貴族や民からの同情を得ることですんなり皇帝の座に就くつもりなんだろう?この毒は少しずつ身体に蓄積していき徐々に衰弱させていく、無味無臭の恐ろしい毒だ。純情なふりしてこんなにも恐ろしい女だったとは思わなかった。こんな女と結婚なんてあり得ない。一刻も早く牢に捕らえなければな!衛兵!この女を連れていけ!」



「「はっ!」」



「は、離して!私は本当に何も知らないの!ユリウス様、話を聞いて…!クリス、助けてっ…!」



「さっさと連れていけ!」




 クリスは黒髪の自分が会場にいるとせっかくの結婚式の雰囲気が悪くなるからとこの場にいなかった。


 そうして私はあっという間に牢へと入れられた。ようやく国の役に立てると喜んだ結婚式の日に、花嫁という幸せの象徴から皇族殺しの大罪人とされてしまったのだった。





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