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私は一度目から三度目までの人生の出来事を順を追って話し始める。なるべく感情的にならないように気をつけながら話すことを心掛けた。父も母もクリスもケイトも驚いていたようだが、誰も何も言わずに最後まで話を聞いてくれた。
「――これが私が三度の人生で体験したことです。そして今は四度目の人生の最中なのです」
「…にわかに信じられない話だ」
「ええ…」
さすがに父も母も困惑しているようだ。
それもそうだ。いくら前置きで伝えたとしても話の内容が簡単に信じられるようなものではない。だがそれではダメなのだ。信じてもらわなければみんなが危険にさらされる。一体どうすれば信じてもらえ…
「私はアンゼリーヌ様の話を信じます」
「っ!…クリス」
クリスが私の話を信じてくれると言ってくれた。その言葉に涙が出そうになる。だけど今は泣いている場合ではない。私はなんとか涙を堪えクリスに問いかけた。
「…クリスはどうして信じてくれるの?」
「アンゼリーヌ様が最初に言っておられたからです。嘘でも作り話でも妄想でもなく自らが体験したことだと。それに…」
「それに?」
「その…時間の逆行と言うものに一つ心当たりがあるのです」
「え?」
クリスからまさかの発言が飛び出した。私の話を信じる理由の一つとして、時間の逆行を知っているなんて言われるとは思ってもいなかった。
「少し前に図書室で時間回帰なる魔法が書かれている本を見ました。真偽の程は分かりませんがその魔法は時を戻すことができると」
「そんな魔法があるなんて…」
「初めて聞く魔法だな」
「ええ。私もよ」
魔法の可能性は全く考えていなかった。だがもしも本当にその魔法で時間が戻ったのならば一体誰が魔法を使ったのだろうか。
(もしかしてクリスが?)
それにそんな大魔法を使うのに何の代償もないものなのだろうか。
「…先ほども言いましたがその魔法の真偽は私には分かりません。しかしそんな私にも分かることはアンゼリーヌ様の話は信じるに値するものだということです。…一臣下の生意気な発言をお許しください」
「クリス、ありがとう…」
「私もアンゼリーヌ様のお話を信じますよ」
「ケイト?」
「両陛下も当然ご存知でしょうが、アンゼリーヌ様はとても聡明なお方です。そんなアンゼリーヌ様がわざわざ嘘の作り話を私たちするなどあり得ません。それにレイモンド皇子様とカトリーナ皇女様がお生まれになったことが何よりもアンゼリーヌ様のお話が本当だということを物語っているではありませんか」
「…クリスとケイトの言う通りだな。すまないな。私もアンゼリーヌを疑ったわけではない。ただあまりにも内容が衝撃的でな」
「ええ。まさかロイガール公爵家とバスピア侯爵家がそんな恐ろしいことを計画しているだなんて思ってもいなかったから…」
確かに父と母の反応が普通だろう。私も同じ立場だったのなら何の疑いもなく信じられただろうか。
「いえ、お二人の気持ちも分かりますから…。でもこれは本当の話なのです。ただ四度目の今回はお二人の御子が存在するという今までと違う状況です。なので私にもこれからどうなっていくのか分かりません。でも過去三度の人生から分かることは私が十三歳の時にケイトが亡くなってしまうこと。そして私が十八歳になる頃にはお父様とお母様は毒に侵されてしまっているということ…。どうかこの未来を避けるために力を貸してほしいのです!お願いします!」
私は深々と頭を下げた。皇族が簡単に頭を下げてはいけないことは分かっている。だが今はそんな場合ではない。ここで信じてもらえなければ私一人でロイガール公爵家とバスピア侯爵家の二つの家を相手にするのは難しいだろう。
沈黙が部屋中を支配する。
少しすると父が口を開く気配がした。
(どうかお願い…!)
「私は…アンゼリーヌを信じよう」
「っ!お父様…!」
「ええ、私も信じるわ」
「お母様も…ありがとうございます!」




