16 クリス視点(一度目)
「…うっ」
「あっ!おきた!」
「…ここは」
「うわぁ!きれい!」
「…きみは誰?」
目の前には見知らぬ女の子がいた。笑顔がすごく眩しい。
「あっ!あいさつするのをわすれてたわ!はじめまして、わたしはアンゼリーヌよ!あなたのおなまえは?」
「名前…。クリス…」
「クリスね!おぼえたわ!それにしてもクリスはきれいね!」
「…僕が?」
「うん!かみもめもきれい!」
「…黒はきれいじゃないよ」
「どうして?」
「どうしてって…」
目の前にいる女の子は僕より幼いからか黒がどんな色なのか分かっていないようだった。
(水色の髪に金色の瞳の方がきれいじゃないか…)
そんな嫉妬混じりの言葉が口を衝いて出そうになったその時扉がノックされた。
――コンコン
「!」
「失礼いたします。あら、目が覚めたのね」
「あっ、ケイト!」
「アンゼリーヌ様、目が覚めたら教えてくださいと言ったではありませんか」
「そうだったわ!ごめんなさい。どうしてもクリスとおはなししたくて…」
「ふふ、そうでしたか。アンゼリーヌ様はクリスが気に入ったのですか?」
「ええ!だってかみもめもきれいなんだもの!こんなにきれいないろはじめてみたわ!」
そう言いながら女の子は嬉しそうにくるくると回っている。すると先ほどやってきた女性がそっと僕に話しかけてきた。
「ごめんなさいね。アンゼリーヌ様はあなたの髪の色のことをまだ理解していないの。でもだからこそきれいという言葉に嘘はないから誤解しないでちょうだいね」
「あの…あの子は誰ですか?」
「あのお方はアンゼリーヌ第二皇女殿下です」
「っ!?」
さすがに僕でも知っている。そんな恐ろしく高貴な方と僕はどうして同じ場所にいるのだろうか。
「あなたは皇都の路地裏で倒れていたのですよ。倒れたあなたを見つけたアンゼリーヌ様がここまで連れてきたというわけです」
「ど、どうして僕を?僕はただの捨てられた子なのに…」
「…それはあなたが魔法使いの素質を持っているからです。赤い瞳が魔法使いの証なのですよ」
「赤い瞳…?」
僕は言われたことが理解できなかった。だって僕の瞳は僕を捨てた母親と同じ橙色で…
「ケイト!それクリスのしょくじでしょう?」
すると先ほどまでくるくると回っていた女の子、アンゼリーヌ皇女様が女性に声をかけた。
「そうでしたね。とりあえず難しい話は食事を食べてからにしましょう。お腹空いているでしょう?」
そう言われると思い出したかのように腹の虫が鳴り始めた。
「ふふ、さぁゆっくりでいいから食べましょう」
「クリス、たべてたべてっ!」
「…」
目を開けたら目の前にこの国の皇女様がいて、皇女様が僕の髪と瞳をきれいだと言って、それに瞳の色が赤に変わっていて、魔法使いの素質があると言われたことなどあまりにも情報量が多すぎて理解することができない。ただ今分かることはとてもお腹が空いているということだけ。だから僕はたくさんの分からないことを考えるのをやめて温かそうな食事に手を伸ばした。
「…おいしい。…あれ?」
久しぶりに食べる温かい食事に緊張の糸が切れたのか涙が次から次へと溢れてくる。
「どこかいたいの?」
アンゼリーヌ皇女様が心配そうに僕を見ている。人に心配されるなんていつ振りだろうか。なんだか胸の奥がくすぐったい。
「…ううん、痛くないよ。心配してくれてありがとう」
「よかった!クリスはわたしのおともだちだもの!しんぱいするのはとうぜんよ!」
「え、と、友達…?」
「ふふふ、ずいぶんと気に入られたみたいね」
「えっ?えっ?」
「おともだちー!」
「アンゼリーヌ様、お友達はお食事の時間ですからね。静かにできますか?」
「はーい!」
「さぁ今のうちに食べてしまいなさい。落ち着いてからゆっくりお話ししましょう」
「…はい」
私は女性の言葉に甘えることにして他の思考は全て放り投げ、目の前の食事にかじりついたのだった。
その後落ち着いた頃に改めて今の状況を教えられた。
皇都の路地裏に倒れていた私をアンゼリーヌ様が助けてくれたこと。その時にはすでに瞳の色は赤い色になっていたこと。赤い瞳を持つ者は魔法使いの素質がある貴重な人材であり国が保護をしていること。保護された者は保護施設に入り魔法の使い方を学ぶこと。
それと余談ではあるが平民の間では黒という色が根強く忌避されているが貴族では高位貴族になればなるほど気にする者は少ないということ。だからアンゼリーヌ様は私の髪色など気にしていなかったのだ。平民の間では黒は不吉だと言われていることも知らないそうだ。
それを聞いた私はアンゼリーヌ様の側にいたいと思ってしまった。初めて私という人間を受け入れてくれた人。それに突然宿った魔法の力。この力をアンゼリーヌ様の、私の初めての友達のために使いたいと思ったのだ。
ただ保護施設に入ってしまえばアンゼリーヌ様の側にはいられない。私はアンゼリーヌ様の側にいたいから施設には入りたくないと言うと、しっかりと勉強するのであればアンゼリーヌ様の従者になってもいいと言われた。
私は必死に勉強をした。マナーや教養、それに魔法も。大変ではあったが学ぶことは楽しかった。
そして私はあっという間に必要な勉強を終え、晴れてアンゼリーヌ皇女様の従者となったのだった。
アンゼリーヌ様に出会い、アンゼリーヌ様のために役に立つことが私の生きる意味となったのだ。




