15 クリス視点(一度目)
私は目の前の光景が理解できなかった。いや理解することを頭が拒否したのだ。
おびただしい量の血の海に横たわる私の主にして最愛の人。
どうして、なぜ…
「アンゼリーヌ様!アンゼリーヌ様っ!」
どれだけ呼び掛けてもアンゼリーヌ様は動かない。
「う、うわっーーーーー!」
私が側を離れたばかりにこんなことになってしまうなんて…。
敵国へ嫁ぐアンゼリーヌ様は従者を連れていくことを許されなかった。それでも私は無理を言ってでも付いていくべきだったのだ。そうすれば私がアンゼリーヌ様をお守りすることができたのに。何のための私には魔法の力があるのか。必要とする時に役に立たない力など意味がない。
私はアンゼリーヌ様を抱き上げ涙が枯れるまで泣き続けた。
◇◇◇
私がアンゼリーヌ様と出会ったのは八歳の時。空腹で倒れているところをお忍びで町へ来ていたアンゼリーヌ様に助けられたのだ。
アンゼリーヌ様に出会う半年前、私は母親に捨てられた。母の新しい恋人が私をひどく嫌ったからだ。理由は私の髪。この国では黒は死を表す不吉な色と忌避されている。そして私の髪色は黒だった。以前母は私の実の父親の血筋に黒髪の人間がいたのだろうと話していた。瞳は母と同じ橙色であったからか、母も黒髪の私を疎んではいたが今まで捨てることなどしなかった。
しかし新しい恋人ができてから母は変わってしまった。そしてその恋人に言われるがまま私を捨てたのだ。それも住んでいた町ではなくわざわざ皇都まで連れてこられ捨てられた。私は見知らぬ場所で帰ることもできず路地裏で生活する日々が始まった。
それからのことはあまり思い出したくない。日に日に母とその恋人への恨みが積み重なっていく。すると私の身体に変化が起きたのだ。突然目が焼けるように熱くなったのだ。しかしその熱さは一瞬で消えてなくなり、その代わりに身体中を何かが巡っているのを感じるようになった。この時は気がつかなかったが、私の瞳は橙色から赤色に変化していた。どうやら私は後天的に魔法の力に目覚めたようだ。
そして何日も食べることができず倒れていたところをアンゼリーヌ様に助けられた。私は意識が朦朧としていたこともありアンゼリーヌ様を見たときは天使かと思った。とうとう自分にもお迎えが来たのだと。しかし次に目を開けるとそこは路地裏の固く冷たい地面ではなく暖かいベッドの上であった。




