陽
しかし、私はおばあちゃんの方を向いて言った。
「おばあちゃん、それでも私やっぱり渡りたい。 私この子が帰り橋を渡ってからずっと独りぼっちだった。 本当の友達も出来なくて、周りに上っ面だけ合わせて、大学行って、一人暮らしたら余計に孤独になった。でも何とか今まで生きてこれたのは、おばあちゃんとこの子との思い出があったから。どれだけ憎まれていても、嫌われていても、いなくなれと思われていても構わない。 私、大好きな二人の所に行きたい。
私、独りぼっちでいる事が辛いの!!」
私は再び歩を進めようとした。
「私はひとり私に友達なんかいない誰も私を愛してくれない私なんか必要ない」
といきなり友人が言い出した。
「え?」
私は驚いた。
「私はひとり私に友達なんかいない誰も私を愛してくれない私なんか必要ない」
今度はおばあちゃんが言い出した。
「何?」
「私はひとり私に友達なんかいない誰も私を愛してくれない私なんか必要ない」
おばあちゃんと友人が二人で何度も繰り返した。
「何なの!?何で…二人で、そんな…いやああああー」
その時、大きな雷鳴が轟いた。
「何?なんなの?二人で」
「ほんとに怖がりね、そんな生半可な気持ちで、よくこの橋を渡ろうと思ったわね」
「え?」
「言ったでしょ、この橋渡ったら、こうやってただただ呪いの言葉が延々降ってきて、頭がおかしくなる地獄だけだって。
あんたはそんな死に地獄より、生き地獄の方が似合ってるわ」
私は、友人の方を見た。
「そうさあんたは昔から夜のトイレもずっとついててやらなきゃいけない。 虫一匹も殺 せない程怖がりだった。 こんな橋渡ったら怖くて怖て、来世に行ったらもっと怖がりで、弱虫になっちまうよ。 私はそんな弱虫は大嫌いだ」
「私も大嫌い」
私はむかついてきて、
「そんな小さい頃の話しないでよ。 今は、一人暮らしで夜中に一人でトイレも行けるし、 虫くらい殺せるわ。二人とも死人のくせに偉そうな事言わないでよ」
「ふん!生きてるのがそんなに偉いのかしら?」
と友人が言った。
「偉いわよ。死んだら何もないじゃない。
美味しい物も食べられない、美味しい空気も吸えない、人としての喜びも悲しみも感じられない、これは生きてればこそ出来る特権なんだから」
おばあちゃんと友人は笑った。
「大人になりなさい」
おばあちゃんは言った。
「心も身体も大人になって、自分から色んな人と関わって、もっともっと偉くなりなさい。
そして幸せになりなさい」
「その第一歩として、あんたがこの橋を焼いて」
と、友人が言った。
「え?」
「今のあんたが、この橋を焼くのに一番ふさわしい」
友人が続けた。
「ああ、だから言っただろ」
と、おばあちゃんが言った。
私は少し黙った後、
「うん、分かった」
と、頷きながら言った。
そしておばあちゃん家に行って、ライターと古新聞と灯油を持ってきた。
東の空が少し明るくなってきた。
私は橋に灯油をまいた後、向こう側に声をかけた。
「あんたがいなくなった日からずっと、あんたのお父さんは苦しんでた。 ずっとずっと苦 しそうな顔してたよ。 それからお父さん、こうも言ってた。
『お母さんが、死ぬ間際にあの子に伝えてくれって。 私は恨んでないから』って。
もし、私があんたにもう一度会う事が出来たら、そう伝えてくれって言ってたよ」
何も返事は返ってこなかった。
太陽が少しづつ昇って来るのが分かった。
私は、ライターで古新聞に火をつけ、橋に放った。
火は一気に燃え広がり、橋を覆いつくし、力強く燃え上がり、あっという間に消えてしまった。
「ありがとう」
と、私は小さくつぶやいた。
昨日の夜の事を一生忘れずに生きていこうと決めた。
(おわり)