おばあちゃん家
小さい頃、おばあちゃんの家に遊びに行った時、 家の近くに大きな木造作りの橋があった。
「帰り橋」という名前なんだけど、
おばあちゃんは、この橋を見る度に口癖の様に、
「帰り橋は絶対に渡っちゃいけないよ、赤鬼に食べられてしまうからね」
と言うのだった。
私は小学生の夏休みになると、1人でずっとおばあちゃん家に行って過ごしていた。
5年生の夏休み、友人を連れておばあちゃん家に遊びに行った時、2週間位経って、友人は急用が出来たので、次の日帰ると言い出した。
そして、朝起きたらいなくなってしまった。
家にも帰ってなくて、捜索願いが出され、 村中の人間が探し回ったが、見つからなかった。
同時期にその子の母親も亡くなった。
噂によると、誰かに刺されたらしい。
おばあちゃんは、
「きっと赤鬼に食べられてしまったんだよ」
と言った。 私はそれ以来怖くなり、あの橋には近づかくなかった。
小学校最後の夏休み、おばあちゃん家で過ごしていた時の事だった。
「今日はスイカがあるから、台所から取って来ておくれ」
と、おばあちゃんが笑顔で言った。
「はーい」
と答えて、私は台所へ行って冷蔵庫を開けたら、大な皿の上に三角形に切ったスイカが並べられていた。
おばあちゃんはスイカを食べながら、ふと、
「あの子はもう二度と戻って来ないよ」
と言った。
私はスイカを食べる手を止めた。
「おばあちゃん?」
おばあちゃんは、その後、急に泣き出した。
あの時、おばあちゃんが泣き出した訳を、
私はずっと後になってから知る事になった。 それから数年後に大学に進学し、実家を離れて都会で一人暮らしを始め、無事に卒業し、 小さな会社の事務員として勤めていた。
独りぼっちで。
その年の夏、おばあちゃんが急に亡くなったので、久しぶりに御盆休みも兼ねて実家に帰省する事になった。
「あんたに手紙が来てたわよ」
と、母が私に渡してきた。
受け取ると、あの橋を渡って帰って行った友人からだった。
切手も無く、封筒に私の名前が書かれていて、 裏を見ると、確かに友人の名前が書かかれていた。
「これ、いつ届いたの?」
母に聞くと、
「今朝、ポストに入っていたわよ」
と言った。
私は自分の部屋に籠もり、恐る恐る封筒を開けてみた。
一枚の便箋が入っていたが、中は白紙だった。
「呼んでる」
私は無意識につぶやいた。