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scene7 敵と味方と優しさと自己都合

「じゃあ、ゆーとさん。ハンバーグとトマトサラダの組み合わせでいかがです?」

 山本さんがトマトを手に取りながらたずねる。


「良いですね!ぜひお願いします!」

 僕はまだ、何となくさっきの重めな空気を引きずっていたので、ちょっとテンション高めに応えた。


「山本さん、ハンバーグが得意料理なんですか?」


「どうでしょう?期待されすぎるのも困るので、食べてからのお楽しみですー。ゆーとさんはハンバーグお好きですか?」


「好きですよ。うちは和食系が多かったので、ハンバーグなんてごちそうの類です」


「そうでしたか。お口に合うと良いのですが」


 なんてたわいもない会話をしながら買い物を続ける。

 食材なんて一人で買っていたから、少しだけ気分が上がる。

 いつものスーパーだから何も変わっているところはないけれど、別の場所に来たみたいだ。

 周りの人も楽し気に買い物をしているかのように映る。


 野菜売り場を過ぎて魚売り場に差し掛かる。


「くしゅんっ」


 見ると山本さんが両腕を抱えている。

 ふむ。そりゃそうか。

 ノースリーブでのスーパーは夏場だとは言えちょっと寒いだろう。

 特に魚売り場から肉売り場にかけてよく冷えているコーナーが続く。


 僕は腰に巻いたシャツをほどくと山本さんの肩から被せた。

「腰に巻いていたもので悪いんだけど、良かったら」


「ありがとうございます。でもゆーとさんも半袖ですしショートパンツですし大丈夫ですか?」


「大丈夫。気にしないで」


「でも……」


「いいから、いいから」


「ゆーとさんは、やっぱり優しいですね」

 山本さんが笑顔を向けてくれた。


 でも、優しいとか言われると、気まずさが先に立つ。

 だって僕は別に優しくないから。

 本当だ。

 打算的なだけである。


 僕は歩くのを止める。

「山本さん。これからの事もあるから言わせて下さい」


「はい?」

 山本さんも一緒に立ち止まった。


「僕は優しくはないですよ。打算的なだけで」


「ダサンテキ?では誰さんが味方ですか?」


 おっと。

 いきなり斜め方向だけど、ここははっきり伝えておかないと誤解されてしまう。


「言い方変えますね。優しそうな行動を取っているだけです。それは、思いやりがあるとか相手を気づかってとかいう理由ではありません」


「ゆーとさん?よくわかりません……」

 山本さんがぽかんと僕を見る。


 僕は他の人にも何度かしてきた説明をする。

「さっきの青信号の話と一緒ですよ。いざという時、運が無くならないようにです。誰かに親切をして、運が良かったって思ってもらう事をしてあげることで、逆に僕に運が貯まるように、いわば運の貯金をしているのです」


「運の貯金ですか?」


「そうです。決して優しさではありませんので、感謝とかしないで下さい」


 そう。僕は僕だけの為に、自己都合で自分勝手でやっているだけなのだ。

 変に誤解されても困るし、誤解から万が一好意に発展されても困る。

 単なる自分勝手な行動なのだから。


「そうですかね?」

 山本さんは肩から羽織っているシャツの前をおさえながら続ける。


「それでも……ゆーとさんは優しいと思いますよ」

 そう言って、吟味した合挽肉を僕が持っている買い物かごに入れた。


 機転を利かしたのか、玉ねぎがゴロゴロと場所を空けた。


「そんなことはないですよ。僕は優しくないです。僕の運貯金のためにしていることです」

 玉ねぎより空気を読めない僕は続ける。

「必要以上に無駄に運を使うことなく、目立つことなく平凡に生きたいのです。特徴なく、埋もれて生きたいのです」


 そう言って僕は歩きだした。


「わたしは知っています」

 山本さんも並んで歩きだす。

「わたし、ちゃんと知ってます」

 僕に顔を向け、見つめて断言する。

「ゆーとさんは優しいです」


 そして山本さんは前を見た。

 横から見る山本さんの顔はやっぱり可愛くて、今は凛々しくもあった。





 僕は居心地の悪さを抱え、これ以上言葉をつなげるのをあきらめた。

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