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scene5 進む二人の初体験

 山本さんの部屋のタンスを使ってもらえるよう掃除をする。中のものを処分しそのまま放っておいたからホコリとかもあるだろうしと、引き出しの中まで雑巾をかける。

 横でバチンとスーツケースのロックを解いた音がしたので、僕はすっと立ちあがり部屋から出てふすまを閉める。


 スーツケース一つの荷物だ。

 片付けの時間もそんなに必要ないだろう。


 この家に僕以外の人の気配がするなんて懐かしい。


 思わず目を閉じる。

 ゆっくりと聴覚が敏感になってくる。

 洋服を置く軽い音、箱らしきものかぶつかる四角い音、蓋を閉める尖った音。


 もう二年、いや二年半になるのか……。


 音がするって安心するな。


 鳴くセミの種類も変わった。

 目をあけると部屋に入る太陽の色も濃くなってきているのに気づく。


 すーっとふすまがゆっくりと開く。


「片付きましたー」

 山本さんが声とともに出てきた。


 なので、僕からも

「では行ってきますね」

 と、声をかけ立ち上がる。


「どちらにですか?」


 そろそろ夕食の準備をしたいのだが、二人分の食材がないので買い出しにと思ったのだ。


「僕は夕飯の材料をそろえにスーパーに行ってきます」


 お?両手を握りしめて見つめられているぞ?


「山本さんは疲れているでしょうから、家で休んでいて下さい。呼び出し音が鳴っても……」

「わたしも行きたいですっ!」


「え?行きたいです?」

「はいっ!」


「疲れていないですか?」

「はいっ!」


「普通のスーパーマーケットですよ?」

「はいっ!連れてって下さい」


「ふむ。じゃ一緒に行きます?」


 山本さんは口を大きく開けてから、

「はいっ!初めてのお出かけですっ!」

 と、パタパタと両腕を上げ下げしてのバンザイ。


  ……ノースリーブなので目のやり場に困る。


「お買い物ですねっ」

 と、笑顔を向けてくれるが、近所のスーパーに行くだけなので逆に申し訳なく思う。


「まぁ、スーパーに行くだけですけどね」

「わたし、ワクワクしていますよ?日本のスーパーですからっ」


 それもそうか。

 戻ってきたばかりだから懐かしいというか初めてに近い思いなのかもしれないな。


「じゃあ行きますか。すぐ出られますか?」

 僕が手をついて立ち上がると、山本さんも

「はいっ!」

 と立ち上がったので、二人で廊下に出て玄関へ向かう。


 手に取った紺の麻のシャツを腰に巻きサンダルを履く。

 山本さんも玄関から出たので鍵をかける。


 高一の夏休みは今日で終わるけど、夏はまだ終わらないようだ。

 アスファルトはまだ夏の意思を持って、太陽へ返礼の熱気を送っている。


 左に曲がり、二人並んで少し眩しい西日に向かって歩く。


 夕方の光は町をオレンジ色に染めている。

 家の表札や壁、屋根や木々も夕焼けの一部だ。


 山本さんの頬や腕は夕方色になっているが、まぶしくないのか、視線はまっすぐだ。


 山本さんが話しだす。

「これから毎日が楽しみです。まだ、知らないこと、行ったことのない場所……。ゆーとさん、よろしくお願いしますね」

 と、不意に僕を覗き込む。


 っっっ!

 何?この破壊力!!


「いや、こちらこそ宜しくお願いします。困ったことがあったら何でも言って下さい」

 と、精一杯返す。


 山本さんの返事は屈託のない笑顔だった。

 そして、歩みが少し大きなスライドになった。


「えへへー。ゆーとさんと同じ歩幅にしてみましたー」

 何が楽しいのか、笑顔が続く。

 

 と、山本さんが走りだした。

 ぱたぱたと、一人で5メートルほど前に身体ごと振り返り後ろで手を組んだ。

 夕日に包まれ首を左に傾ける。


 

 すると、今度は口に両手を当てた。

「ゆーとさん!いっぱい教えて下さいねーっ!」

 逆光以上に眩しい笑顔をして、大きな声を出した。


 ……くぅぅぅっ。

 またもや、簡単にやられる僕。


 山本さんが大きく息を吸ううと、先ほどよりも大きな声を出した。

「いろんなこと……、わたしは……、わたしはゆーとさんと!」

 もう一回息を吸い込む山本さん。


「ゆーとさんと一緒にいろんな初体験をしたいですーっ!!」


 道行く人の視線が集まる。

 違う意味でもやられる僕。







 はい。

 他人の方々の冷たい視線って結構痛いんですね。

 ……僕も初めての事が体験できました。

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