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男装護衛騎士の女装(?)

 一方、その頃のシェリーは。




「! 美味しいっ!」



 口いっぱいに広がる甘い甘いスイーツに、舌鼓を打っていた。


 舞踏会開始からかれこれ1時間と少し。

 シェリーはいつもの檸檬色の髪とは違う銀色の髪を揺らしながら、テーブルに広がっている料理の数々を口にしていた。



(以前からこう言った場のパーティーの料理を食べていたいと思っていたけれど……、格別だなぁ)



 そんなことを考えながら、主に甘いものを食べ進める。

 彼女が何故ここまでスイーツや料理に目がないかというと、大食いというわけではなく、普段は王子の護衛騎士としてこう言った場での食事は控えていたからだ。

 食べても一口や二口、口に含む程度である。

 それは何故かというと、毒味役はいるのだが、一応いつ毒が仕込まれるか分からない為、王子はあまり食さないようにしている。

 その王子を差し置いて護衛や従者が食べるわけにもいかず、いつもそれらを横目に職務を全うしているのだ。


 特にスイーツは、彼女自身本当は大好きなのだが普段は口にしないように心がけていた。 太る体質だとかそういうわけではなく、ただ単に“女っぽい”と言われるのではないかと思っているからだ。

 だから、こうして気兼ねなく料理を堪能できるのは、彼女は今、“シルヴェスター”ではなく、“シェリー”として、ドレスを身に纏った辺境伯の御令嬢として居られるからなのだ。



(はぁーーー幸せ。 ……それにしてもお兄様と殿下、遅い気がする)


 先程まで遠くの方で囲まれていた殿下は急に退出した。

 きっと、疲れが出て休息室へと向かったのだろう。

 そうは思っていたが、少し遅い気がする。



(……まさかお兄様、殿下にバレた?)



 シルヴェスターとシェリーが入れ替わっているだなんて知られたら、マズイかもしれない。

 ……最悪、お父様にバレてしまったら。



(……こ、こんなことになるのだったらやっぱり、何としてでも止めるべきだった……!)



 お兄様の言葉についつられてしまったのだ。

 “殿下と仲直りさせてあげられるかもしれないし、何せ君の好きな料理がいっぱい食べられる。 一石二鳥じゃないか”



(〜〜〜あぁ、まだまだ精神の鍛錬が足りないなぁ……)



 何処までも脳筋思考の彼女である。

 ちなみに、彼女の言動に一切女性の言葉が現れないのもまた、彼女が男性に囲まれてきた証である。

 話を戻し、彼女はそれでも食べる手を止めないでいると、不意に声をかけられた。



「? 見かけない髪ですね」

「?」


 話しかけてきた主を見れば、黒い仮面を付けた少し体格の大きめの男性が話しかけてきた。


(……うっ、酒くさっ)


 彼女はすぐに酒の匂いに気づき、思わず顔をしかめる。

 仮面で素顔があまり見えなくて良かった、と心から思っていれば、その男性はシェリーに絡みだす。



「一体、何処の家の御令嬢なのですか?」

「……っ」



(ど、どうしよう! お兄様にはこう言った時、返し方を教わっていなかった……!)



 まさか男に絡まれるだなんて思っても見なかった彼女からしたら、冷や汗の一択である。

 ドキドキではなく、別のドキドキが彼女を襲った時、不意に彼女は思い出した。

 そして口元を持っていた扇子で隠し、笑ってみせた。


「まあ、それはこの場では御法度、ですわ。

 “身分も肩書きも、ここでは関係ない”。

 それが、この仮面舞踏会のモットーですもの」


(っ、良かった! 何とかしのげる……!)



 そう思った彼女は甘かった。

 なんとあろうことか、その言葉で満足しなかった酔っ払いの男性は、彼女の仮面を外させようとしたのだ。


(えっ)



 驚いた彼女は、咄嗟にその手を払いおとす。

 バチンッと容赦のない音に、周囲の視線が集まる。


(……や、やっちゃったーー!!)



 これは、お兄様と約束したのだ。

 “何としてでも問題を起こすな”と。

 ……そして、こうも約束した。



(こうなったら……!)



 逃げるが勝ち!!!



 何やらその男性が叫ぶ声が聞こえたような気もするが、彼女は一切振り返らず、持ち前の足……、ヒールにより普段よりは遅いが、通常の御令嬢の倍くらいの猛ダッシュでその場を切り抜けたのだった。



 ☆



「はぁ、はぁ……」



 つ、疲れた……。


 月明かりが照らす人影が少ないバルコニーへと出た彼女は、ようやく息をついた。



(全く、どうして御令嬢の姿をしてまでこんなに走らなくちゃならないのか……)



 お陰でただでさえ痛かった足は、より一層ひどいことになっているに違いない。



(……あの酔っ払い、覚えてろ)



 どんどん口が悪くなっていく彼女だが、これも男に囲まれてきた彼女にとっては通常運転である。


(……もういいや。 こうなったら、このままここにいよう)



 あんな騒ぎを起こした後じゃ、あそこに戻るのも気まずいし。

 そう思った彼女はぽっかりと浮かぶ白い月を見上げれば、トントンと肩を叩かれる。

 パッと後ろを振り返れば、そこにいたのは金色の髪に紫色の仮面を被った、青年の姿だった。



(……? こんな人、何処かの御令息にいたっけ)



  他国からの招待客なのだろうか。

 首を傾げた彼女に対し、口元だけを仮面から出している彼は柔和な笑みを浮かべて言う。


「急に声を掛けてしまってすまない」

「? いえ……」



(酔っ払い……ではなさそう。 でも何? どうして私に突然話しかけてきたの?)



 そんなことを思いつつ首を傾げたシェリーに対し、謎の男性はシェリーの足を指差す。


「……足、怪我をしているのではないか?」

「え……」


(この人、気付いているの?)


 自分的には隠していたつもりだったが、バレていたのだろうか。

 驚くシェリーに対し、彼は手を差し伸べた。


「少し、歩ける? 今すぐ手当を頼もう」

「い、いえ、私はこういった怪我は慣れているので……あ」



(な、慣れてる、だなんて言っては駄目か……! 今は“シェリー”なんだから!)


 慌てて訂正しようとしたのも束の間、シェリーの言動にはさして気にも留めないと言った風に、彼は言った。



「いや、早く手当をした方が良いだろう。

 綺麗な淑女の足に、痕が残っては大変だ」

「そ、そんなに大したことではな……ってえ!? ちょ!!」



 シェリーは驚きと羞恥で声を上げた。

 ……それは、ふわり、と彼女のすらっとした体を軽々と横抱きにしたからだ。

 所謂、“お姫様抱っこ”である。

 その体制に、一気に近くなった距離に思わず赤面してしまう彼女に対し、彼は笑みを浮かべていった。



「……耳、赤くなっているね。 恥ずかしいだろうけど、少し我慢して」

「〜〜〜!?」


 初めての浮遊感に、かつてない男性との近い距離感に、思わず声を上げそうになったがなんとか堪えるシェリー。

 それを満足そうに見た後、青年は慣れた足取りでその場を後にし、なるべく人が少ない場所へと歩きを進める。



(……? どうしてこの人、こんなに王城に詳しいの)



 少しも迷わない足取りに対し、シェリーは疑問を持ち始める。


(……こんなに城内を知っているだなんて、おかしくない?)


 そう疑問を持ち始めたのも束の間、青年はある一室の部屋の前に立ち止まる。

 ……気がつけば、そこは殿下の部屋だった。



 え、と大きく目を見開く彼女に対し、青年はそっと彼女を下ろすと、部屋に入るよう促した。



「え、え、と……、ここは、入ってはいけない場所なんじゃ」


 まさか、“殿下の部屋です”と言えるはずもなくそういえば、彼は盛大にため息をついた。

 そして、くしゃり、とその金の髪を掴んだかと思えば、その髪がさらっと外れる。

 再度大きく目を見開く彼女の前に映ったのは。



「……で、んか……?」




 見慣れた珍しい淡い水色の髪をさらっと肩に流し、呆れたように苦笑いをする、“イアン”の姿だった…… ―――

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