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【第五十話】そして、転生少女は幸せになる

 次の日から、日常が戻ってきた。だけど、少し変わったことがあった。

 陽が昇る前に起きて魔の森に行き、昼前には魔の森から戻ってきて、午後は二人の結婚式の準備をする。

 そう、アリス念願の結婚式だ。

 ようやくレオンと結婚できる。

 そう思うと感無量なアリスだが、結婚式の準備は思っていた以上に大変だった。

 式はかしこまったものにするつもりはなかったので、野外パーティーにする。

 招待客はトリアンの住民全員だ。トリアンの外から呼ぶ人は、と考えて、アリスは悩んだ。

 トリアンに来てからトリアンの外の人たちとのやり取りはレオンに任せていた。レオンもやり取りがあったのは商人くらいのはずだ。その辺りの招待客の選別はレオンに任せるとして……。

 他にいないかと悩んで、アリスはいないことに気がつき、ため息を吐いた。引きこもりもいいところだと気がついたからだ。

 だけど、とアリスは自分に言い訳をする。

 髪の毛が黒くなっていたから、父であるマテウスの言いつけを守ってトリアンの中に引きこもっていたからここにしか知り合いがいないわけで、そうでなければそんなことはなかったはずだ! ……とは強く言えないけれど、きっとそうだと思う。


 とまあ、そんなこんなで落ち込む出来事もあったけれど、大変だけど順調に準備は進んだ。

 結婚式に出す料理の材料はアリスとレオンが魔の森に行って調達してきたり、トリアンの畑で採れたハーブをふんだんに使い、会場に飾る花もトリアン産だし、かなりいい感じで用意が出来た。

 ドレスもとびきり素敵なものになったし、アリスは幸せいっぱいだった。


 そんな中、レオンを訪ねて来た人がいた。なんと、レオンがいた里のエルフだった。

 そのエルフはヴィルップと名乗った。見た目年齢はレオンより少し上に見えるくらいだったが、エルフは見た目と年齢が乖離しているので、良く分からなかった。

 アリスとレオン、そしてヴィルップは今、アリスの屋敷の応接間にいた。


「シュルヴェステル、ようやく見つけた、里に帰るぞ」


 シュルヴェステルとはだれ? とアリスは一瞬悩んだが、それがレオンの本当の名前だとすぐに気がついた。

 レオンはヴィルップの言葉に、首を振った。


「オレは帰らない」

「おまえ、なにを言っているんだ」

「オレはここで伴侶を見つけた」

「伴侶って、人間か?」

「そうだ」

「そんな、すぐ死ぬ人間を伴侶にするなんて、おまえ、おかしいぞ」

「おかしくない。あの里には、オレの伴侶はいなかった」

「……………………」

「アリスは、オレが探していた伴侶だ。それに、エルフの誓約はしている」

「シュルヴェステルっ!」

「オレの名前はレオンだ。シュルヴェステルの名は、里から出たときに失った」


 ヴィルップの顔色は徐々に悪くなり、今は真っ青だ。

 エルフの里からここまでどれほどの距離があるのか分からないが、かなり疲れているのは確かだろう。


「ヴィルップさん、お疲れのようですから客室でお休みください」

「要らぬ! 人間などに頼らん!」


 そう言ってヴィルップは立ち上がろうとしたが、ふらりとソファに倒れた。


「レオン……」

「客室に運べばいいか?」

「うん、お願い」

「余計なことをするな!」


 ヴィルップはレオンの手も払いのけようとしたが、それはかなり力なく、レオンの手に触れただけだった。


「無理をするな」

「人間に与するヤツは、エルフではない!」

「元気になったらいくらでも聞いてやるから、とにかく今は休め」


 レオンは有無を言わせずヴィルップを肩に担ぐと、客室へと連れて行った。


 アリスはそれを見て、ホッとした。

 結婚式を前というタイミングでエルフの里からレオンの迎えにやってくるなんて、なんということだと思ったが、レオンはキッパリと断ってくれた。

 ここで帰るなんて言われたら、アリスは里に着いていこうと思ったのだが、その心配はなさそうだ。

 ヴィルップは旅で疲れているのだろう。

 アリスはヴィルップのために胃に優しい食事を作ろうと食堂へ向かった。


 胃に優しい料理といっても、選択肢はそんなにない。

 エルフが普段、なにを食べているのか分からないけれど、レオンはなんでも食べていたから問題ないだろうということで、パン粥を作ることにした。

 ミルクを温め、そこに千切ったパンを入れていく。砂糖を入れて、パンがトロトロになったら完成だ。

 器に盛り付け、水とコップもトレイに乗せて、客室へと行く。

 中から話し声がしてきたが、アリスは気にせずノックをして、入室した。


「パン粥、作ってきたわ」

「ありがとう、アリス。そこのサイドテーブルに置いて」


 アリスは言われるままにトレイを置いて、部屋を出ようとしたが止められた。


「アリス、待って。ヴィルップに説明するから、同席して」

「あー、うん」


 エルフの里のことについて、積もる話もあるのではないかと思って遠慮しようとしたが、レオンにそう言われれば、留まるしかなかった。

 レオンはヴィルップにパン粥をすすめ、少し押し問答はあったものの、空腹に負けたのか食べ始めるのを確認してから口を開いた。


「ヴィルップ、オレはもうエルフの里には帰らない。それに、アリスを伴侶に選んだ」

「アリスって、そいつか?」

「そう。アリスはすごいんだぜ。オレが探してた、金色の魔力を持っているんだ」


 レオンは金色の魔力を探してた?

 初耳だったアリスは、レオンを見た。レオンはアリスの視線に気がつき、わずかに微笑んだ。

 それが事実かどうかは分からないけれど、似たようなことは言っていたような気がする。


「明日、結婚式なんだ。ヴィルップも参列してくれるよな?」

「……は?」

「このタイミングでここに来たってことは、なにかのおぼし召しだろう」


 レオンは強引にヴィルップを参列させることにしたようだ。


「認めないからな!」

「ヴィルップが認めてくれなくても、もう決まったことだ。ここでゆっくりしていけばいい」


 レオンはそう言うと、アリスに目配せをした。

 ヴィルップが食べた空になった器を持つと、部屋を出た。


 あの様子ならば、大丈夫だろう。

 そう判断を付けて、アリスはキッチンへと向かった。


 * * * * *


 そして迎えた、結婚式。

 朝からアリスは準備をして、ウエディングドレスを着た。

 真っ白なレースをふんだんに使った、豪華なドレスだ。花畑で式をする関係でスカートの丈は足首辺りまでのものだが、フリルが幾重にも重なり、綺麗な仕上がりになっていた。

 ベールも裾にレースが施されていて、すごく素敵だ。


 この国の結婚式は、決まりがない。

 だからアリスは生前の知識を頼りにして、人前式を行うことにした。

 トリアンの住民みんなに誓いを立てる。

 アリスとレオンにふさわしいと思ったから、こうすることにした。


 そして、今日も天気が良く、朝から雲一つない青空が広がっていた。

 迎えに来たレオンもお揃いの白いタキシードだ。

 あまりの格好よさに、アリスはレオンを見つめた。

 レオンもアリスを見つめていた。

 二人の世界が出来上がっていたのを、エルマがいつものように声を掛けた。


「みなさん、お待ちかねですわよ」

「あ、あぁ」

「そっ、そうねっ」


 レオンはアリスに手を差し伸べ、アリスはその手を取り、手をつないで会場に向かった。


 花畑に、白い祭壇が作られていた。

 二人は式の参列者に拍手で迎えられ、祭壇へと向かう。

 祭壇の奥へと向かい、参列者に顔を向けた。


「お忙しい中、お集まりいただき──……」

「挨拶はいいから、レオン、アリスに誓いのキスだ!」


 誰かの声に、参列者の間にキスコールが巻き起こった。

 二人は苦笑して顔を見合わせ、レオンは手で周りを制すると、口を開いた。


「いいか、おまえら。アリスはオレの大切な伴侶だからな。泣かせたら、赦さないからなっ!」

「ヒューヒュー!」

「おまえこそ、泣かすなよ-!」

「アリス、綺麗よ~」


 などなど、ざわついたが、レオンはアリスに向き合うように指示をしてきた。

 アリスは素直に向き合った。

 静まる会場。

 レオンはアリスのベールを上げ、肩に手を置くと、優しく口づけをした。


 割れんばかりの拍手が響き渡った。


「レオン、わたし、すごく嬉しい」

「オレも嬉しい」


 式はアッサリと終わり、食事となった。


 祭壇は二人のテーブルに早変わりして、次から次へと二人の元へお祝いの言葉を告げに人々が押し寄せてきた。

 二人はいつも以上の笑顔で応え、幸せを享受した。


 そんなお祝いの言葉が途切れたところで、アリスはレオンを見た。


「レオン」

「ん、なんだ?」

「わたし、レオンと会えて、良かった。大好きよ、レオン」


 アリスの言葉に、レオンは真っ赤になった。


「わたし、レオンのことをずっと愛し続けるわ」


 アリスはそう告げて、レオンのほおにキスをした。


【おわり】

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