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【第五話】アリス、契約をする

 後日、領地を通達すると言われていたが、その領地というのは、トリアンという王都隣の直轄領だった。

 別の領地もあったはずなのだが、ドグラスもアリスがかわいいというのもあり、近くにしたようだった。

 しかし、直轄領というのは、なにか問題があるからこそ直接管理をしていることも多いわけで……。

 その問題というのは……。


「トリアンか……」


 マテウスは通達された手紙を見て、渋い表情を浮かべた。


「なにか問題でもあるの?」


 アリスがそう聞くと、マテウスはため息を吐くついでといった風にして、問題を口にした。


「魔物がな……」

「王都の隣なのに?」

「いないのだよ」


 それは別に問題でもなんでもないのではないだろうか。


「魔物がいないのなら、いいことではないですか」

「いや、魔物さえも近寄らない不毛の地となっているという」


 と言われても、アリスはまったく想像もつかなかった。


「どうして不毛の地になっているの?」

「原因は分かっていない。調査に人を送ろうにも、行きたがる者がいないのだよ」


 そんな地を領地にしろというのは、どういうことなのだろうか。

 これはもしかして、試されている?


「お父さま」

「なんだ?」

「わたし、行くわ」

「行くのか?」

「お母さまは安全だと分かるまで、ここにいてもらうわ」

「そうだな、それがいい」


 魔物がいるというのなら、来てもらった方が心強いが、魔物はいないという。


「それに、わたしには奴隷たちがいるわ」


 領地を与えられたが、あの奴隷商人の元にいた奴隷たちもアリスは手に入れたことになっていた。


「陛下も人が悪いですわ」

「……ほんとになぁ」


 この国にはいないはずの奴隷たちならば、極端な話、死んでもいいとドグラスは思っているのかもしれない。


「いいわ、この挑戦、受けて立とうじゃないの!」


 それまで黙っていたレオンが、口を開いた。


「もちろん、オレも連れて行くんだよな?」

「そのつもりでいるけど、残りたいの?」

「いや、ついていく」

「助かるわ」


 レオンは連れて行く気でいたので、その一言にアリスはホッとした。


「あとは、奴隷たちがどれだけいて、どんな人たちか把握するところから始めないといけないのか」


 アリスの呟きに、レオンは呆れたようだった。


「おまえ、本当に六歳なのか?」

「六歳ですよ?」


 身体はね! とアリスは内心で答えた。


 アリスはレオンとともに、奴隷商人がいたテントへと移動した。

 危険な獣は騎士団が運び出した後だという。

 確かに、前に来たときとは様子が違っていた。


「それにしても」


 アリスは檻の中に入れたままの奴隷たちを見て、ため息を吐いた。

 いくらなんでもこれはひどいのではないだろうか。

 後で苦情を申し入れておこうと心の中にメモをしておいた。


 アリスが乱入して、奴隷商人たちが捕まえられてからすでに二・三日経っている。

 その間の奴隷たちのお世話は騎士たちがしていたらしいが、檻の前に皿は投げ出されているし、異臭は放っているし、色々とひどい状態だった。


「……まず、片付けから始めないといけないかしら、これ」


 まさかの惨状に、アリスはもう一度、ため息を吐いた。


 * * * * *


 結局、アリスは一日を掛けて奴隷たちのいたテントの片付けをしていた。

 一人ではできることは限られていたので、結局、屋敷から人手を呼んだほどだった。


 テントにいたのは、五人。

 エルフほど珍しいというわけではないけれど、ウサギの亜人が一人、犬の亜人が一人、ドワーフが二人に、鬼人が一人。

 すべて男性で、名前はそれぞれイデオン、ヨーラン、グスタフ、ハンネス、フーゴと名乗った。


 五人にはそれぞれ身を清めさせて、新しい服を与え、まともな食事をさせた。

 それでもまだ、五人は警戒していたけれど、アリスの


「仕事を手伝ってくれた後には奴隷紋を取って自由にする」


 という言葉を聞いて、従うことにしたようだ。


「──で、仕事というのは?」


 この中で一番警戒心が強そうなフーゴが聞いてきた。


「仕事というのは、トリアンっていうところに行って、調査することよ」

「トリアンって……」


 フーゴは顔を青ざめさせて、首を振った。


「あそこは近寄るもんじゃない」

「なんで?」

「トリアンは、魔物さえ近寄らないって知ってるのか?」

「知ってるわよ」

「中になにがあるのか知っていて言ってるのか?」

「知らないから調べに行くのよ」


 アリスの言葉に、フーゴだけではなく、他の四人も首を振った。


「そんなに危険な場所なの?」

「危険かどうかは分からない。ただ、魔物さえ近寄らない場所っていうのは、かなりヤバいというのが常識だ」

「常識っていうけど、このままだと領地経営ができなくて困るのよ」

「領地経営……?」

「そう。陛下から領地経営をするようにってトリアンをいただいたの」


 アリスは見た目、金髪に紫の瞳の小さな少女だ。

 そんな少女が領地経営? と五人とも疑問に思ったようだ。


「あ、領地はお父さまがいただいたんだけど、お父さまは王都での仕事があるから、わたしが代理でするの」


 その言葉に納得したわけではないだろうが、今度はドワーフのグスタフが口を開いた。


「オレたちが行かないと言ったら?」

「残念だけど、奴隷紋を外して、解放するわ」

「……は?」

「だって、行きたくないんでしょう? それに、好きで奴隷になったわけでもないだろうし、この国は奴隷は禁止だわ。奴隷紋を外すためにちょっと調べないといけないから時間をもらうことになるけど」

「ちょっと待て。話が違うだろう」

「あぁ、仕事を手伝ってくれたら奴隷紋を取るって言った話?」

「そうだ」


 アリスはグスタフの言葉に困ったように頬をかくと、俯いた。


「嫌がる人を連れて行ったって、仕方がないじゃない」


 その一言に、ウサギの亜人のイデオンが手を上げた。


「では、こうしましょう。私たちは奴隷紋を外してもらうまでこのテントで待機する。奴隷紋を外してもらったら、仕事を手伝うかどうか、また相談する」

「……いいわよ」

「おい、嬢ちゃん!」


 慌てたのはもう一人のドワーフのハンネスだ。


「それじゃあ、嬢ちゃんはなんの得にもならない」

「ならないことはないわ。わたしは新しい魔法を覚えられるもの」

「…………」


 この場にいるアリス以外の人たちはみな、その一言に呆れていた。

 レオンなどは頭を抱えていた。


「分かったわ、こうしましょう」


 アリスもさすがに空気を読んだのか、一つ、提案してきた。


「わたしが奴隷紋の解き方を調べている間、あなたたちはただ待ってるだけだと暇でしょう? それなら、トリアンの情報を集めてきて欲しいの」

「は? おれたち、逃げるかもしれないぞ?」


 犬の亜人のヨーランの一言に、残りの四人も同じようにうなずいていた。


「逃げてもいいわよ。いいけれど、その奴隷紋、一生、取れなくてもいいのね?」

「う……」

「わたしはあなたたちの弱みを握っている。わたしはあなたたちより立場は上よ?」


 アリスが言うとおり、彼ら五人はアリスに弱みを握られている立場だ。逃げることなどできない。


「とにかく、トリアンの情報を集めてきて。それがとりあえずのわたしへの報酬よ」

「分かった」


 こうして、アリスと五人は最初の契約をした。

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