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【第三十五話】アリス、金髪に戻る

 魔女の遺体は砂のようにサラサラと消えて、なくなった。

 それと同時に、アリスの髪の毛が光り出した。


「なっ、なにっ?」


 黒い髪が内側から光るという状況に、アリスだけではなく、レオンも目を見開いて見ていた。

 アリスの髪の毛はしばらく光っていたが、徐々に光がおさまって──元の金色に戻っていた。


「やったわ! 元に戻ったわ!」


 十二年ぶりに金色の髪になったのはいいのだが、本来の色とはいい、やはり違和感がつきまとう。黒髪の方がアリスにとってはなじみ深かったので、ちょっとだけ残念に思った。

 でもこれで、堂々と人前に出られる。

 これまでレオンに頼んでいたことも、自分で出来るようになった。

 そう思うと、ワクワクしてきた。


「ここでの用事は済んだ。森に火を放った人物を探すという仕事は残っているが、それもすぐに済むだろう」

「えっ? そんなに簡単に探せる?」

「オレはエルフだぞ? 森の声を聞けば、すぐに分かる」

「すごいわ!」


 さすがはエルフ! と思っていると、レオンは緩く首を振った。


「ダメだ、聞こえない」

「え?」

「森を長く離れていたからなのか、それともこの森に魔女が長くいたからなのか分からないけれど、声が聞こえない」

「そんなことないわ、レオン! 大丈夫、落ち着けば聞こえるから!」


 アリスはそっとレオンの両手を取り、ギュッと握った。


「目を閉じて、耳を澄まして?」


 レオンはアリスの手を握り返すと、目を閉じた。


《森よ 火を付けた人物を教えて欲しい》


 初めて聞く詠唱だったが、アリスはアリスで詠唱した。


『精霊たちよ レオンを助けて』


 アリスの声に、それまで逃げていた精霊たちが戻ってきた。

 金髪に戻ったからなのか、前よりも精霊たちがはっきりと見えるようになっていた。しかも、言葉まで交わせた。


『レオンって そのエルフよね』

『そうよ』

『助けてあげるわ!』


 精霊たちはキャッキャッと嬉しそうな声を上げて、レオンの周りを回ると、どこかへと飛んで消えていった。


「……どう?」

「うん、なにか掴めそうだ」


 アリスはレオンの手を握ったまま、レオンもアリスの手を握ったまま、そう返してきた。


「アリス」

「なに?」

「少し魔力を貸して」

「うん?」


 特に魔力を必要とするものではないはずなのに、レオンはそう申しだしてきた。

 貸すのは全然問題ないし、むしろ、手伝えることがあって、アリスは嬉しかった。

 アリスとレオンの繋いだ手から、金色の光が出てきて、混じり合う。それはキラキラしていて、とても綺麗だった。


「さすがアリスだな。魔力が目に見えるくらい濃厚だなんて」

「へっ?」

「普通、魔力は目に見えない」

「うん」

「だけど、今、キラキラと金色に輝いてるのが回りに拡散されていっただろう?」


 レオンが言うように、金色の光がキラキラして、消えていった。


「精霊たちの王や女王でも従えることが出来そうだな」

「いやいや、さすがにそれは」


 無理でしょ、と言おうとしたところで、赤い光が空から降ってきた。


「っ?」


 なにかと思ったら、その光はアリスの背中に張り付いた。


「なっ、なになにっ?」

『童を呼んだか?』


 赤く光るなにかは、アリスの肩越しに話しかけてきた。


「ほら、精霊女王が来た」

「えっ? えええっ?」

『童はリエッキ』

『わ、わたしはアリスよ』

『アリスよ、これで契約は完了した。童を好きに使うが良い』


 まさかの契約という言葉に、アリスはレオンの手を握りしめた。


「レ、レオン。これって、現実? わたしの妄想じゃないわよね?」

「なにがあったのか分からないけど、現実だよ」


 肩に乗っていたリエッキは、契約したからなのか、アリスの目にはっきりと映って見えた。

 赤い髪に赤い瞳の、少女というよりは幼女といった方がしっくりくる容姿。愛くるしい見た目に、アリスは笑顔になった。


『リエッキ、かわいい』

『当たり前であろう!』


 かわいらしい容姿には似合わない言葉遣いだが、精霊女王というくらいだ、きっと永い時を生きてきたのだろう。

 しかし、見た目のかわいさがあって、とても精霊女王には見えなかった。


『それで、童はどうすればよいのじゃ?』


 まさかこんな大物が現れたうえで、契約までしてくれるとは思っていなかったアリスは、思わずレオンに助けを求めていた。

 レオンもアリスが驚き、戸惑っているのが分かったらしく、苦笑している。


「アリス、オレたちは今、なにをしていたんだ?」

「あ……っと、森に火を付けた人物を探していて……」

「そうだな」

『そんなの、簡単だ。こっちじゃ』


 リエッキに手を引っ張られると、レオンと繋いだ手が離れてしまった。

 あっと思ったけれど、リエッキはアリスの手を取ると、フワフワと歩き始めてしまった。精霊だからなのか、宙に浮きながら移動していた。


「着いていこう」


 レオンにそっと背中を押され、アリスは歩き出した。

 その時、反対の手も離れてしまったが、手にはレオンの温もりが残っていた。


 燃えた森をリエッキに連れられて歩いて行く。

 レオンがもたらした雨のおかげで消えたけれど、燃えた森は炭色をしていて、痛々しい姿だった。

 悲しい気持ちで森を歩いていると、いつの間にか、森を抜けていた。


『こっちなのじゃ』


 リエッキに促されるまま歩を進めれば、柵が見えてきた。どうやら村のようだ。


『この中におるぞ』


 リエッキはそれだけ言うと、フワッと消えてしまった。


「ちょ、ちょっとっ!」

「精霊は気まぐれだからな。ここまで案内してくれただけでも充分だ。それに、村の中は森の火事で騒ぎになってるぞ」


 そう言われて柵越しに村の中を覗けば、広場に人が集まっていた。

 みな、茶色い髪の毛をしていて、身なりは生成りや茶色といった地味な色の服を着ている人たちばかりだった。

 その中に金髪で白い服のアリスが入るのは、ためらわれた。

 しかし、レオンは躊躇することなく、柵を越えて村の中へと入っていったので、アリスも慌ててついていった。


「だれだっ?」


 突然現れたアリスとレオンを見た村人の誰何に、レオンは腰に手を当て、村人たちをにらみつけた。

 アリスは割って入ろうとしたが、しかし、レオンがアリスもにらみつけてきたため、おとなしくレオンに任せることにした。


「森に火を付けたのはだれだ」


 直球勝負の質問に、アリスは思わず頭を抱えた。もっと聞き方というものがあるのではないか、とアリスは思うのだが、不思議なことに上手くいくのだ。それはレオンだからだろうか。


「まぁ、答えなくてもだれか分かるんだがな」


 レオンはそう言うと、グルリと村人たちを見回した。しかし、レオンは首を振った。


「ここにはいないな。ところで、村人はこれで全員か?」


 レオンの言葉に村人たちはざわめいた。

 そして、場の中心にいた人物が口を開いた。


「エルフと人間の組み合わせとは、珍しいですな」


 周りの村人たちより少しだけよい服装をしているところを見ると、この村の村長だろう。ニヤけた顔が、アリスは気に入らなかった。


「森の友であるエルフの怒りはごもっとも。我々も今、あの火事をどうしたものかと──」

「火はオレが消した」

「おぉ、さすがですな!」

「当たり前だろう」


 アリスの見立てによると、レオンの機嫌は急降下のようだ。それまでは普通だったから、この村が原因であるようだが、なにが気に障ったのか、アリスには分からなかった。

 そういえば、レオンにありがとうとお礼を言ってなかったような気がする。もしかして、そのことを思い出して怒っているのだろうか。

 いや、そんなことでレオンが怒るとは思えなかったので、別のことが要因だろう。


「それよりも、なんでおまえたちはその子にそんな酷いことをしている」


 レオンの言葉にアリスは少し伸びをして、村人の間から中心部を見た。

 村長の前には、紐でグルグル巻きにされた少年が一人、横たわっていた。




 

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