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【第三十二話】アリス、追っ手に追われまくる

 捕まえた男を警備隊に引き渡したアリスたちは、馬に乗り、北の森に向かった。

 あの男が何者でなんのためにいたのか気になるところだが、アリスたちは討伐を優先させることにした。


 馬をしばらく走らせていると、だんだんと陽が昇ってくるのが分かった。アリスはフードをしっかりと被り、日に焼けないようにした。

 レオンは時々振り返り、アリスが着いてきているか確認してくれる。その心遣いが嬉しくて、振り返ってくる度に手を振った。

 そんなほのぼのとした状態も長く続かなかった。


 陽がすっかり昇りきった頃、後ろから馬が駆けつけてくる音がした。振り返ると、騎馬隊らしき人たちがかなりの勢いで駆けてきている。

 二人もそれなりの速度で駆けていたが、明らかに後ろから来ている馬が早い。

 レオンが道の端に避けたのを見て、アリスも同じように端に寄り、馬をやり過ごそうとしたのだが。

 なぜか騎馬隊はレオンとアリスの横で止まった。

 アリスは嫌な予感がした。


 騎馬隊らしき人たちはみな、顔が見えないように覆面をしていた。

 そうか、覆面をすれば日焼けしなくて済むのか、とアリスは呑気なことを考えていた。

 馬上で戦うのはやったことがないので困ったなとアリスが考えていると、騎馬隊は一斉に剣を抜いた。

 レオンは剣で応戦するつもりはないのか、抜く様子もない。


「聞いても無駄だと思うが、なんの用だ」

「……………………」


 予想どおり、無言が返ってきただけだった。

 手っ取り早いのは馬の足止めをすることだが、あまり気が進まない。馬はただ使われているだけであって、悪いのは馬の上に乗っている人間たちだけだ。

 ざっと見て、十人くらい。微妙に多い。

 どうするのが楽で、手っ取り早くて後腐れがないか。

 やはり馬には悪いが、馬の足止めか。

 そこまで考えて、実行に移ろうとしたところで、レオンが首を振った。どうやらアリスの考えは読まれているようだった。


 それならば、どうすれば? と首をかしげれば、レオンが詠唱した。


《風よ》


 優しい風ではなく、砂埃を伴った強い風が舞い上がり、それは騎馬隊周辺に巻き起こった。

 これ、馬にも被害が出てるんじゃないのっ? とアリスは思ったが、レオンは無言でアリスに馬を出すように指示を出してきたので慌てて手綱を握った。


「はっ!」


 という掛け声とともに、レオンは加速した。アリスもそれに続くために、かかとを蹴った。

 馬はアリスの意図を理解して、レオンの後ろに続いてくれた。


 二人は街道をひた走った。とにかく村か町に入ればいい。

 とはいえ、あまり飛ばしても馬がバテてしまうので、徐々にスピードを落としていく。

 たまに後ろを振り返るが、追いかけてきている様子はない。

 少し足を止めて、アリスはレオンに確認した。


「あっちの馬は?」

「第一声が馬の心配かよ……」

「だって!」

「アリスらしいと言ったらそうなんだが」


 むぅっとほおをふくらませていると、レオンは楽しそうに笑った。


「っと、こんなことをしている場合ではなくてだな」

「そうだった」

「さっきのヤツらだが、馬には悪いが、目つぶしさせてもらった。で、馬上のヤツらは切り裂いておいた」

「やることがえげつないわよね」

「アリスに言われたくないね」

「わたしは足止めすればいいかなぁって」

「そんな生やさしいこと言っていたら、やられるぞ」

「……そうね」


 レオンはそれだけ言うと、馬の手綱を握り直した。


「あいつらの正体は結局分からなかったが、まぁ、そのうち分かるだろ」


 そう言って、レオンは移動したので、アリスも後に続いた。


 トリアンの検問所にいた男もだが、先ほどの騎馬隊もなんだというのだろうか。

 検問所の男と騎馬隊は繋がっているような気もするが、分からない。

 こんなことならば、多少の時間のロスを気にせずに、あの男が何者なのか確認してから出てくればよかったと思ったが、すでに後の祭りだ。

 今は前に進むしかない。


 先ほどより少し緩やかな早さになったため、アリスはレオンの横に並んだ。

 横に並べば、話もしやすい。ただ、馬の上は思っているより揺れるので、舌をかまないように気をつけなければならないのだが。


「ねぇ、レオン」

「なんだ?」

「さっきのヤツら、なんだろうね」

「考えられるのは、魔女の手下、だな」

「対応、早くない?」

「早くないだろう。むしろ、今まで静かだったのが不気味だし、おかしいだろ」


 そう言われたらそうであるのだが、あまりにもタイミングが良すぎる。


「見張られてるのかしら」

「その可能性は高いな」

「覗き魔?」


 アリスは辺りをキョロキョロと見回したが、それらしき物はなかった。しかし、どこかで見ているのだろう。そうとしか思えない。


「どこかで見ている魔女に告ぐ! 覗き見とは、やらしいな!」

「……アリス」


 ゲンナリ、といった声でレオンが言ってきたので、アリスは唇を尖らせた。


「だって! レオンとのあーんなことや、こーんなことを」

「アリス?」

「はぁい?」


 レオンの目が笑っていなかったので、アリスはとりあえず口をつぐむことにした。

 レオンを怒らせると後が面倒なので、黙っておくのが得策だ。


 それにしても、レオンには冗談が通じない。お堅いというか、余裕がないというか。

 そういうところも好きなんだけど! とアリスは思って、思わず赤くなった。

 レオンの嫌なところもないわけではない。

 このお堅いところだって、ちょっとふざけたいと思うときもすぐにストップがかかってつまらないときがある。それでもすぐに暴走するアリスのストッパーとして、いなくてはならない存在だ。

 しょんぼりと馬に乗っていると、レオンのため息が聞こえた。


「そんなにしょげなくてもいいだろう……」


 もちろん、半分くらいがポーズだし、レオンもそれは分かっていると思うのだが、アリスに甘くて厳しいレオンとしては、アリスがあからさまにしょんぼりしているのは耐えられないようだ。


「それなら」

「それとこれとは別だっ!」

「ケチっ!」

「ケチで結構!」


 アリスは今度はぷぅっと膨れた。

 端から見ていたら、コロコロと変わるアリスの表情に目を奪われていたかもしれない。

 しかし、二人ともそんな余裕もなかったし、今度はどこからか矢が飛んできた。

 もちろん二人はすぐに気がつき、魔法で防御した。


「ったく、ご丁寧に色々と仕込んでくれているな!」

「よほど来て欲しくないんでしょうね」

「そりゃあ、そうだろう」


 だれも自分を殺しに来る人物に来て欲しくないだろう。ましてや、前もってそれを知るとなると、妨害をしようとなるだろう。

 しかし、アリスはおかしいと思った。

 前は自らやってきて、なぜかレオンを殺そうとした。ところが、今回はこちらから出向かおうとしたら、ことごとく邪魔が入る。

 昔の魔女であれば、アリスとレオンの二人など、簡単に撃退できただろう。──撃退されたらそれはそれで困るのだが。


 この十二年間、魔女は大人しかった。それが最近では、急に暴れ始めたという。

 魔女の身になにかが起こったのか、今からなにかが起こるのか。

 そして、魔女の討伐に向かっている二人に対して入る妨害。

 そう簡単にたどり着けるとは思っていなかったが、思った以上に手間取りそうだ。

 しかし、これで討伐隊を組んでとやっていたら、被害が出ていた可能性もあるので、身軽な二人で良かったと思う部分もなきにしもあらず。


「矢の射られる方向は?」

「複数箇所からだな」

「複数人いるのかしら?」

「そうだろうな」


 レオンの顔が、面倒くさいと言っていた。

 このままだと、先ほどの騎馬隊の二の舞になりかねない。しかし、アリスにはいい手が思いつかない。

 アリスが手をこまねいていると、レオンはあっさりと風の魔法で射手を見つけて、切り裂いていた。

 剣も使えて、魔法も使えるなんてズルい、とアリスは思うけれど、レオンからすれば、全属性が使えるアリスの方がズルいと思うだろう。


 町に着くまで、次から次へと追っ手がやってきたが、二人は難なく撃退した。

 とはいえ、街に着く頃にはさすがの二人も疲れ切っていた。

 町には問題なく入ることが出来て、宿も取れた。

 といっても、二人一部屋しか空いていなかったが。

 今までも一緒の布団に寝たことはあるし、なによりも二人は疲れていた。

 夕飯を食べると、二人は速攻でそれぞれのベッドに入り、眠った。

 もちろん、だれも入ってこられない結界を張ってだ。

 そのおかげで、二人はゆっくり休むことが出来た。

 

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