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【第三話】アリス、一目惚れする

「でね、わたし、お父さまの代わりに領地を経営することになったの!」

「まぁ、そうなの? あら? ということは、わたくしもそちらの領地に行かなくてはならないのかしら?」


 マリアの一言に、マテウスとアリスは思わず顔を見合わせた。

 そうだった、領地をもらったら、そこに妻子を置く決まりになっていた。


「すっかりそのことを忘れていたわ」


 あまりの出来事に舞い上がっていたことにアリスは気がつき、頭に手をやり、思わず深いため息を吐いた。

 それを見たマリアは、嬉しそうに笑った。


「別に構いませんわよ」

「えっ? でも、お父さまと離れてしまうのよ?」

「あら、今もほとんどいらっしゃらないのと一緒じゃない」

「マ、マリア……」

「わたくし、お貴族さまたちとのお茶会ごっこが嫌で嫌でっ!」


 マリアは拳を握ると、立ち上がった。


「どこそこのお菓子が美味しいだとか、今日のお茶はどこ産だとか、最初のうちは物珍しさに楽しかったけれど、そんな話しかしないのよ! 無駄だわ! そんな時間があるのなら、素振りを一回でもしていたいわ!」


 マリアは茶色の髪に紫色の瞳で、パッと見た目、儚げな女性に見える。しかし、王家の人たちにも剣術の指南をするほどの脳筋……もとい、それだけの腕前を持っていた。


「領地がどこなのか分からないけれど、そこに行けば、いくらでも剣を振り回していいのよねっ?」

「た、たぶん……」

「なら、大歓迎よ!」

「お母さま?」

「わたくし、領地経営とやらもやってみたかったのよ!」

「はぁ」

「なのにこの人ったら、アリスと離れたくないばかりに断り続けて……」

「…………」


 城でも言われたが、マテウスはアリスのことが大切すぎて爵位を断っていたらしい。


「信じられません、お父さま」

「そうよ、あなた。別に贅沢がしたくて、爵位をいただきなさいと言ってるわけではありませんよ? アリスの今後の教育を思えば、王都にいるよりも、領地で実技を交えながら学ぶ方がよろしいかと思うのよね」

「わ、分かった、伯爵にという話だから……」

「子爵を飛ばしていきなり伯爵なのっ?」

「断り続けていたから、今までの功績と合わせて伯爵だと……」


 どれだけ断り続けていたのかと、アリスは心の中でツッコミを入れた。


 食事が終わったタイミングで、グレーゲルが食堂にやって来た。後ろにはだれかいるというのしか、アリスの場所からは見えなかった。


「旦那さま」

「なんだ」

「レオンを連れてきました」


 すっかり忘れていたことを、その一言で思い出した。

 グレーゲルが少し身体を横に寄せると、隠れていた人が見えた。


「────っ!」


 アリスは思わず息をのんだ。

 先ほどまでは汚れていたレオンだが、風呂に入り、身なりを整えてきただけで見違えるどころの話ではないくらい、変わっていた。


「だ、だれっ?」


 アリスは立ち上がり、分かっていても思わずそう聞いてしまっていた。


「レオンですよ」


 グレーゲルも同じことを思ったのだろう、少し苦笑していた。


「う……そ、でしょ?」


 あまりの変貌に、アリスはヨロヨロとレオンに近寄り、ペタペタと触った。


「おいっ、触るな」


 レオンはムッと不機嫌な声を上げた。

 それを聞いて、アリスはようやく目の前に立つ彼がレオンであることを確信した。

 汚れていたときでも綺麗な顔立ちをしているのは知っていた。

 しかし、身なりを整えると、こんなにも──。


 こんなにもアリス好みになるとは、思わなかった。


 面食いの傾向があるのをアリスは自覚していたが、まさかここまでドストライクな見た目に出会うとは思わなかったのだ。


 輝く金色の髪に碧い瞳。

 エルフということもあり、耳は尖っていた。

 手足は長いが、まだ成長途中といった感じだ。


(なにこの超好みっ! 成長したら、むっちゃイケメンになりそうっ!)


 こうなったら、見た目だけではなく、中身もアリス好みに育てよう。

 そう決意して、アリスは鼻息荒く、レオンの腕を掴んだ。


「ちょっと、痛いんだけど」

「レオン」

「なんだよ」

「明日からわたしと一緒に勉強よ!」

「はぁ?」

「わたしの従者になるってことは、中身も伴わないと駄目なのよ!」

「はぁ……」


 生返事のレオンに、アリスは視線を上げて睨みつけた。


「いいこと? 魔法も、勉強も、わたしが苦手な剣術も、そしてマナーもすべて、明日から徹底的に叩き込むわ!」

「まあ、助けてもらった恩もあるからな、それくらいならやってもいいぜ」


 ちょっと上から目線なのが気に入らなかったけれど、レオンはエルフで、世間知らずなのだろうとアリスは思うことにした。

 そう思えば、かわいく見えてくるのだから不思議だ。

 まるで拾われてきた猫が必死になって威嚇しているようにも見えた。


「お母さま、レオンに剣術を……って、おかーさま?」


 マリアはレオンをウットリとした表情で見つめていた。


「まぁまぁ、その素敵な子はだれ?」

「奴隷商人に捕まっていたエルフよ、お母さま」

「エルフ、ですって? まぁ、なんて素敵なの!」


 マリアは胸の前で手を合わせて、キラキラと目を輝かせて言った。


「しかも、なんて剣の教え甲斐のありそうな見た目!」


 マリアはふふふふっと笑い声を上げた。

 正直、怖い。


「名前は?」

「レオン」

「レオン、ね。わたくし、レオンのこと、気に入ったわ!」


 あぁ、お母さままで……! とアリスは内心で嘆いた。


 しかし、と気を取り直す。

 マテウスは開口一番でとんでもないことを言っていたし、今までの言動を思えば、味方にはついてくれない。

 しかし、実質、この家の実権を握っているマリアを味方につけることが出来れば……?


 レオンに一目惚れした身としては、マリアを味方にするのはすなわち、将来を約束されたようなもの。

 ここは歓迎すべきことだと頭を切り替えることにした。


「お母さま、お願いがあるの」

「なにかしら? レオンに剣術でも教える?」

「はいっ、お願いできますか?」

「アリスに頼まれなくても、最初からそうつもりでいたわよ」


 その一言に、アリスはホッとした。


「明日から、アリスも一緒によ?」

「ええええっ! わたし、剣は……」

「駄目よ、アリス。魔法だけだと心許ないわ。それに、体力はつけておいて損はないわ」

「……はぁい」


 マリアの言うとおりではあると思うのだが、どうにも剣を手に取って戦うのには抵抗がある。

 それでも、やらなければいけなくなってしまったようだ。


「それでね、レオンはわたしの従者なの」

「分かったわ。お部屋はアリスの隣ね」


 それまで静かに佇んでいたグレーゲルは、マリアの言葉にうなずくと、退室した。

 アリスの隣の部屋は空いていたはずだ。これから寝起きできるように整えるのだろう。


「レオン、部屋の準備が出来るまで、応接間で少しお話をさせて欲しいのだけど」

「分かった」


 アリスもついていっていいものだろうかとマリアを見ると、小さく頷かれた。ついていっても大丈夫のようだ。

 ここまで空気状態のマテウスも応接間についていくようで、席を立った。

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