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【第二十九話】アリス、魔女討伐の命を受ける

 魔女を探しに行くと決意したのはよかったが、アリスはふと、疑問に思った。

 探し出して、どうするのか?

 アリスの中では答えは出ていた。だけど、マリアに話をする前に、レオンと答え合わせをしておかなければいけないような気がした。


「ねぇ、レオン」

「なんだ」


 アリスとレオンは魔の森からの帰り道だった。

 日が傾いて、少し淋しい空気が漂っているような気がして、アリスは歩きながら、レオンの名を呼んだ。


「魔女を見つけたら、どうするの?」

「そんなの、決まっているだろう」

「殺す──の?」

「まぁ、最悪の場合はそうなるだろうな」


 レオンの同意に、アリスは息を吐いた。

 予想どおりの答えであったけれど、穏便に済ませられたら一番良いと考えていたのもあり、衝撃的であった。


「頼んで呪いを解いてもらうっていうのは?」

「無理だろうな」

「力尽くで言うことを聞かせるというのは……?」

「そんな手加減できるほど、オレは強くないぞ」

「手加減なの?」


 なんだか違うような気がするけれど、本気でかからないとこちらがやられてしまうという意味では手加減なのだろう。


「でも、殺しても呪いが解けなかったら?」

「その時は諦めよう」

「……………………」


 殺しておいて呪いが解けなかったから諦めようって、人の命はずいぶんと軽い物なのね、とアリスは思わず遠い目になった。


「だけど、アリスから切り離された髪の毛は金色に戻るんだから、明らかに呪いの一種だ。術者が死ねば、普通は解ける」

「ということは、まだ、魔女はどこかで生きているってことね」

「そういうことだ」


 まずは魔女を探す。

 見つけるまでにどうするか決める。

 今ココで悩んでも仕方がない。


「その前にマリアの説得だな」

「……そうね」


 あまり気乗りはしなかったし、すでに成人しているのだから勝手にしてもいいのではと思ったけれど、やはり家出同然で出るのはよくないだろうと結論づけて、アリスたちは家路についた。


 * * * * *


 家に帰ってまずしたことは、マリアの説得だった。

 アリスはレオンとともに、魔女を倒さなければ金髪に戻らないことを説明した。


「それで?」

「説明は以上です」

「あなたたち、意味が分かって言っているの?」


 マリアに言われなくとも、アリスはどういうことか分かっているつもりでいた。

 魔女を倒すと言うことは、殺すと同義。

 いや、殺さなくても共存出来れば一番いいのだが、きっとそんな生やさしいことを言っていられないのは十二年前に嫌というほど分からされている。


「それでは、お母さま。わたしの髪の毛が黒いままで構わないということですか」

「それとこれとは別でしょう?」


 アリスは意味が分からないとレオンの顔を見た。レオンも同じ考えのようで、戸惑った表情をしていた。


「あなた、簡単に殺すと言ってますけど、魔女だって人間よ。同じ人間を殺すだなんて、なんて野蛮なの」


 前世は殺された身であるアリスは、最期の時を何度も夢に見るほど心の傷になっている。

 今度は殺す側に回るのだ。きっと、魔女にトドメを刺した時のことを何度も夢に見ることになるだろう。

 分かりきっているけれど、それでは、どうすればいいというのだ。


 魔女と邂逅してから十二年間、向こうの動きはなにもなかったように見える。

 しかしそれは、力を蓄えるための期間であったならば?

 アリスだって、この十二年、レオンとともに色々と頑張ってきた。

 傲慢だと言われるかもしれないけれど、魔女に負けることはないと思う。

 アリスが魔女に負けるときは、また訪れる死、だ。

 今度は前世の記憶を持って生まれ変われる保証はない。

 アリスだって、死にたくない。もちろん、魔女も殺したいとは思っていない。しかし、今のアリスの実力では、そうするほか呪いを解くことは出来なさそうなのだ。


「わたくし、あなたを人を殺すような人間に育てた覚えはありませんわ」


 それはそうだろう。殺し屋稼業をしているならともかく──いや、それでもよくないのだが──、今から人を殺しに行ってくるわ、といって、いってらっしゃい、気をつけてねと送るようなら、神経を疑うところだ。

 マリアは変わっていると思っていたが、そういうところはまっとうだったようだ。

 だからといって、ここで引き下がるわけにもいかなかった。


「マリア、ひとつ質問なんだが」

「なぁに?」

「魔女は本当に人間なのか」

「というと?」

「人の姿をとっているが、なにかが化けたものだとしたら?」

「なにが化けているっていうの?」

「それは分からない」

「どちらにしても、わたくしは許しませんわ」

「魔物が人に化けて、人を騙していてもか?」

「えぇ」


 レオンは頭を軽く振ると、口を開いた。


「マリア、おまえはどういうつもりでオレに剣を教えた?」

「身を守るためですわ」

「おまえは、人を斬ったことも、魔物を倒したこともないと言うのか?」

「いいえ」

「それで殺めていないと?」

「身を守るために人を斬ったことはあります。でも、殺しては──」

「それは詭弁でしかない。たまたま死ななかっただけだ」

「……そうですわね」


 あっさりと引き下がったが、しかし、とマリアは続けた。


「アリスは魔女を殺すために旅に出ると言っているのです。許すわけには──」

「マリア、そのくらいにしておきなさい」

「あなた!」

「お父さま?」


 王都にいるはずのマテウスが、なぜかトリアンの応接室に入ってきた。


「アリス、おまえにひとつ、依頼がある」

「依頼、ですか?」


 そう言って、マテウスは懐から書状を取り出して、アリスにペーパーナイフとともに渡した。

 アリスは受け取り、早速、封を切ろうとしたところで、封かんを見て、固まった。

 どこからどう見ても、王家の家紋入りの封かんだった。しかもこれは、王個人の物ではなく、国家としての印だ。


「おとーさま……」

「王から預かってきた」

「嫌な予感しかしないのですけど!」

「まあ、そう言うな」


 愉快そうに笑うと、マテウスはソファに腰掛けた。

 レオンがマテウスのお茶の準備を始めた。


「受け取らなかったこと……にしてよろしいですか?」

「そういうわけにはいくまい」


 ペーパーナイフまで用意してあっておかしいと思ったのだ。

 アリスは覚悟を決めて、ペーパーナイフで思いっきり切った。中には白い招待状のような紙が入っていた。

 紙を引き出して、半ばやけ気味に思いっきり広げた。それでも破れないところが、この厚紙の憎いところである。

 広げた紙には、たった三行だけだった。


『アリス・アールグレーン殿


 北の森に棲む魔女の討伐を命ずる


 ドグラス・ベーヴェルシュタム』


 前置きもなにもなく、ただそれだけが書かれた書状。

 王の名の署名の後ろには、押印までご丁寧にされていた。


「これは、国命ということですか」

「ここのところ大人しかった魔女が、急に暴れ始めたんだ。かなりの被害が出ていて、討伐の話が出てな……」


 そんな話は初めて聞く。

 アリスは思わずレオンを見たが、小さく首を振られただけだった。


「魔女って、わたしが会った魔女ですか?」

「そうそう魔女などいないから、そうなのだろうと結論づけられて、前に会ったことのあるアリスのことを王が思い出されて……」

「…………」


 ありがたいのか、迷惑なのか分からないが、今回はありがたかった。


「王から荷物も預かっておる」


 マテウスはそう言って、背負っていたカバンを降ろしてアリスに渡した。茶色い、こう言ってはなんだが、少しくたびれた感じの物だった。


「見た目は悪いが、見た目以上に物が入る魔法のカバンだ」

「まぁ、これが?」

「開けてみるがいい。色々と入っている」


 中を覗いてみると、旅に出るための必要最低限の物が入っているように見えた。


「本当は討伐隊を組んでと言う話だったのだが……」


 魔女が相手であれば、確かにそうだろう。それなのにアリスとレオンの二人だけで行けと言っているようなこの状況。


「一刻を争うと言うことで、アリス、レオン、申し訳ないのだが、行ってくれないか」

「ということみたいだぜ、マリア」

「……国命ならば、仕方がありません」


 思ったよりあっさりと折れたマリアに、アリスとレオンはホッとした。

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