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【第二十六話】アリス、成人する

 トリアンを手に入れてから、あっという間に十二年が経った。

 トリアンに来たときは六歳だったアリスも成長して、十八歳になっていた。

 この国で十八歳は成人を意味する。

 本来ならば城で行われる成人の儀式に出席して、みんなで成人したことを祝うものなのだが、十二年経った今もアリスの髪の毛は黒髪で、マテウスからトリアンを出ていいという許可は下りることはなかった。

 とはいえ、アリスは行きたいと思わなかったため、逆にホッとしていた。

 行ったところで、ボッチだから嫌だというわけでは決してない……たぶん。


 しかし、十二年という年月は人間にしてみれば決して短くなく、むしろ長いくらいだ。

 この十二年、色々あった。

 レオンは変わらずアリスのそばにいて、アリスが出来ないことを補佐してくれた。意見が合わなくて、けんかすることもあったけれど、たいていはアリスが折れた。


 そして、そのレオンはというと、トリアンに家が建ち、マリアがトリアンに移ってきてからはマリアに剣を教えてもらっていた。

 アリスも一緒に習っていたのだが、腕の差というのは残酷で、なかなか上達しないアリスに比べ、レオンはマリアから次から次へと色々と教えてもらっていた。

 アリスの腕が悪いのではなく、レオンの腕が良すぎただけなのだが、アリスは意外にも負けず嫌いで、悔しかった。


 亜人五人は結局、トリアンに定住した。

 アリスとしては大変嬉しいことであったけれど、最初の頃は満足に給料を出せなくて、悩んだこともあった。

 しかし、今では彼らが利益をかなり生んでくれるようになり、トリアンにいなくてはならない存在になった。

 この十二年の間に五人とも伴侶を見つけて家庭を築いた。子どもも出来て、アリスと一緒に剣の練習をしたりすることもある。黒髪を忌み嫌っているのはこの国の人間だけで、亜人は関係ないようだ。

 そんな五人にも弟子がいて、色々な技術を教えている。他の領地から視察に来るほどだ。

 本来ならば案内はアリスがしなければならないのだろうが、人の前に出られないため、マテウスが代わりに説明をしている。マテウスだけでは説明しきれないこともあるため、レオンが同行することもあった。

 見目麗しいエルフであるレオンを見て、お誘いを掛けてくる令嬢や、自分の娘の婿にしようとする貴族などがいるが、レオンの対応はあくまでも慇懃だ。ただ、しつこすぎたり、度を超えると、途端に切れて、完膚なきまでにやる。

 そこまで怒らせたのは今までに二人ほどらしいので、レオンの態度を見て、節度ある対応をしてきたのだろう。

 それに、マテウスはレオンを紹介するとき、『病弱な』娘のアリスの婚約者と説明している。それでもしつこく食い下がるような者は、人間性を大いに疑ってしまう。

 そしてその二人の家は、没落してしまうわけだが、それはまた、別の話だ。


 ──というダイジェストはともかくとして。


 アリスは今、とても悩んでいた。


 この十二年、アリスの周りは目まぐるしいほど変わっていった。

 荒野だったトリアンは、今は緑あふれる大地となっていたし、五人の亜人たちのおかげで領地の収入は面積が狭いながらも王国の上位に位置している。

 そして、アリスも十八歳になり、成人した。

 すでにトリアンは、アリスたちの手を離れて、独自の発展を遂げていっている。収入も安定している。生活基盤もゆるぎない。

 となると、後は──。


「レオン、いつになったらわたしを本物のお嫁さんにしてくれるのかな」


 アリスは自室でポツリと呟いてみる。


 そう、悩みとはこれだ。

 アリスはなんとなく、成人したらレオンと結婚するつもりでいた。

 レオンは成人と同時に里を出て、『独り立ち』してきたというのだから、アリスも成人したら、レオンと結婚して、独立して家庭を作ろうと思っていた。

 でもそれは、未だに叶っていない。

 そればかりか、アリスの髪の毛は黒髪のままで、魔女の呪いも解けていない。

 レオンはアリスの髪の毛が黒かろうが金色であろうが、変わらないと言ってくれるが、言葉だけだ。

 レオンの態度は、今も昔も変わらない。あまりの変わらなさに、アリスが焦れているくらいだ。


 それとは別の悩み事もあった。

 最近また、前世の最期の場面を夢でよく見るのだ。

 こう何度も見ていれば、気分は良くないものの、昔のように悲鳴を上げて飛び起きることはない。

 あぁ、またか、くらいである。

 だが、そんな夢を見て起きた日の朝は、気分は最悪である。

 できるだけ表に出さないようにしているのだが、レオンはすぐに気がつき、甘やかしてくる。

 そう、レオンはまだ、アリスを六歳の少女だと思っている節があるのだ。

 アリスは成長したのだ。

 身長は伸びて、レオンと並んでも遜色ないほどになった。胸は残念なことに人並みの大きさだが、大きければいいというものでもない。

 髪の毛は相変わらず黒髪のままだし、成長とともに伸びて、地面に届きそうなくらいの長さになっている。

 普段は邪魔になるので、頭の上の辺りで結んでいる。


 そこでふと、アリスは思った。

 レオンは黒髪でもアリスだと言ってくれたけれど、もしかしたら、内心では黒髪を快く思っていないのかもしれない。

 それに、いつまでもこのままでは、引きこもったままになってしまう。


 この十二年、なにもしなかった訳ではない。

 ありとあらゆることをして、魔女の呪いを解こうとした。

 最近ではすっかり姿を現さなくなったセヴェリにも協力してもらい、解呪方法を探した。

 探したのだが、今の状態を見てもらえば分かるとおり、見つからなかった。


 この魔女の呪いなのだが、かなりおかしかった。

 普通、呪いというものは、祝福と違って身体のどこかに魔法陣が現れる。しかしこれは、身体のどこを見ても、魔法陣がないのだ。

 精霊たちが言うとおり、呪いと祝福は紙一重というのを実感したのだけど、そうはいっても、このままでは表に堂々と出られない。

 今は、家の庭と夜にそっと畑の様子を見に行くくらいだ。

 夜ならば、闇夜に紛れて黒髪というのも目立たない。

 人目を気にしなければならないというのは、アリスにとってかなりのストレスになっている。

 早いところ、元の金髪に戻りたい。

 金髪期間より黒髪期間が長くて、金髪に戻ったらまた違和感が半端ないだろうなと思うけれど、元に戻らなければアリスの望みは叶えられないような気がするのだ。


 とにかく、今は魔女と対峙したときに負けないようにしなくてはならない。

 剣は苦手だけど、練習を怠らないようにすればいい。

 魔法に関しては、レオンに魔法の基礎を教えてもらったし、本を取り寄せて勉強もした。

 さらには、実はトリアンの隣には魔の森があって、そこも王家の直轄地になっていたのだが、王に直談判して、アリスはその魔の森も手に入れていた。これはつい最近のことだ。

 魔の森と言うだけあり、魔物がたくさんいた。

 元々トリアンにいたと思われる魔物や獣もここに逃げ込んでいたようだった。

 手入れのされていない森は、珍しい植物もたくさんあった。

 最近のアリスはそこにレオンとともに出掛けるのが楽しみになっていた。

 ここならだれに会うこともないので、朝から日が沈むまで隠っている。

 そして、色々な魔法の練習をしていたりする。

 倒した魔物は荷台に乗せて亜人たちのところに持ち込んでいる。

 獣に関しては、こちらも有効利用している。

 そんなこんなでようやく今までの鬱憤を晴らせる場所を確保したアリスは、今までにないほど充実した生活を送っていた。

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