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【第二十四話】アリス、人員配置に悩む






※後半に蛇が出てきます。

 苦手な方はご注意ください。







 トリアン先発隊は、アリスとレオン、亜人五人にセヴェリとなった。

 セヴェリいわく、トリアンには魔物がいないし、獣も人もいないという。精霊さえも追い出していたくらいだから、今はそうなのだろう。

 とはいえ、これまでは結界があったから入れなかったわけで、これからは阻むものがないとなれば、それらが流入してこないとも限らない。

 その対策も立てなければならないわけだが、この人数では明らかに手が足りない。


「どうすればいいのかしら」


 アリスは馬車の中でトリアンの地図を見ながら、呟いた。


「なにがだ?」

「うん、トリアンの警備」

「警備か」


 アリスの計画が実行されて完成すれば、トリアンへの出入りは決まったところからしかできなくなるはずなので、警備についてはそこまで悩むことはなさそうだ。

 しかし、今は遮るものもなく、荒れた土地が広がっているだけ。

 だれも管理していないと思われてしまえば、あっという間に土地が奪われてしまうだろう。

 それを防ぐために有効な対策といえば……。


「境界のところに立ち入り禁止の看板でも立てておこうかしら」


 効果があるかどうかはともかく、威嚇にはなるだろう。

 そうと決まれば、まずは看板作りをと思ったが、材料がなかった。

 アリスは馬車を飛び出した。まではよかった。


「材料を買いに……行けなかったぁ!」


 今のアリスはトリアンから出ることができない身。

 なんと不自由なのだろうと嘆いていると、犬の亜人のヨーランがやってきた。ヨーランには畑を耕すという任務を与えている。


「どうしたの、ヨーラン?」


 馬車から出ていたアリスは、ヨーランを見上げた。いつもはピンと立っている茶色の耳がしおれていた。


「それが、道具が壊れたんだ」

「あら、また?」

「今、耕してる場所なんだが、ちょっとおかしいんだ。見てくれないか」


 そういうヨーランについて行くと、イデオンが鍬を持ったまま、空を仰いでいた。


「アリスさんを連れてきた」

「おう」

「それで、おかしいってなにがどうおかしいの?」


 アリスの問いに、イデオンが口を開いた。


「とにかく、硬いんだ」

「硬い?」


 ここ、とイデオンは持っている鍬で地面を叩いた。

 パッと見た目は周りと変わりないように見える。

 アリスはイデオンが指す場所を覗き込んだ。

 茶色の土に見えるけど、なにかがおかしい。


「なにか掘るものは?」

「ここにある鍬しかない」

「それでいいわ、ちょっと貸して」


 アリスは借りた鍬を地面に擦りつけてみた。感触がガリガリして硬い。


「岩でも埋まってるのかしら?」


 今まで、地面を耕してきて、小さな石が埋まっていることはあった。だけど、彼らがそれくらいでアリスに来て欲しいなんて言うだろうか。

 アリスは疑問に思いながら、ゴリゴリと鍬の先で地面を掻いた。ガリッと鍬の先がなにかに引っかかった。

 アリスは慌てて引っ張ってみるが、ビクともしない。


「なに、これっ?」

「どうした」


 アリスの様子を見ていたレオンが声を掛けてきた。


「なにかに引っかけちゃったみたいで、鍬が挟まったみたいなの」

「ちょっと貸してみろ」


 レオンに交替して、アリスは鍬の先がよく見えるようにしゃがんでみた。


「んっ、これは?」

「どうした」

「ちょ、ちょっとレオン、こっち来て見て」


 アリスに言われ、レオンは鍬の先を見た。

 鍬の先は、なにやら茶色い鱗状のものを引っかけていた。


「これ……」

「なにか埋まってるな」


 鍬を押したり引いたりしていたら、ようやく外れた。


「ここは後にして、周りから掘り進めてみよう」

「りょーかい」


 ──結果、鍬で簡単に掘れる場所を掘っていくと、細長い形で硬い場所が残った。


「これ、なんだろう」

「横から掘り起こしてみよう」


 硬い場所を避けて掘っていくと、筒状のなにかが出てきた。


「……なにこれ?」

「洗い流してみるか?」

「そうね」


 魔法の水で洗い流してみると……。


「蛇?」


 虹色に光る、蛇のように長い生き物が横たわっていた。


「これは……虹蛇だ」

「虹蛇?」


 アリスは初めて聞く言葉に、首を傾げた。


「エルフの森にたまに埋まっている、森に栄養を与えてくれるドラゴンの一種だ」

「ドラゴンなのっ?」

「あぁ。こいつはこのまままた、ここに埋めておこう」

「埋めておくの……?」

「こいつは動かないのを見てのとおり、すごく大人しいドラゴンなんだ。地面が好きで、埋まっている」

「へー……」


 不思議な生き物に、アリスはまじまじと虹蛇を見た。

 今は土を洗われ、太陽の光を浴びてキラキラ光って綺麗だ。

 この美しいドラゴンをまた土の中に埋まることにちょっと抵抗があった。


「……埋めるの?」


 アリスの再度の問いかけに、レオンは苦笑した。


「鱗が綺麗だから飼いたいとか言わないよな?」

「そういう訳ではないんだけど……」


 なんとなく埋めるという行為が、死体を片付けるみたいで嫌だったのだ。


「これって生きてるの?」

「触ってみれば温かいから生きてるって分かる」


 アリスは恐る恐る、虹蛇を触った。

 レオンが言うとおり、温かかった。


「ほら、埋めるぞ」

「はーい」


 虹蛇が元いた場所に戻し、土をかぶせていく。

 そして、虹蛇がいる周りに木の杭を刺して、ロープを渡して囲っておいた。

 こうしておけば、また掘り起こすことはないだろう。


「この土地に虹蛇がいるってことは、元々は豊かな大地だったんだな」

「そうなの?」

「あぁ」


 ヨーランとイデオンに耕すことを任せると、アリスとレオンは馬車へと戻った。


 馬車に戻ってきて、アリスはそれまでやっていたことを思い出した。

 そうだった、立ち入り禁止の看板を作ろうと思っていたのだ。


「看板……」

「そういえば、そうだったな。看板の材料を手配しよう」

「ありがとう」


 今は中心部から畑を広げて行っている状態だ。

 そして、その中心部はアリスたちが住むための家の建築が始まっていた。

 アリスは様子を見に行きたいのだが、黒髪を理由に近づかないようにマテウスとマリアに言われているため、離れたところに馬車を置き、テントを張って寝泊まりしている状況だ。

 悪いことをしている訳ではないのに、こそこそするのがなんだか嫌だ。


「ねー、レオン」

「なんだ」

「家の建築現場で要らない木材とか出てないかな」

「あー、なるほどね。それを少しもらえば看板ができるか」

「うん」

「聞いてくるから待っていて」


 本当は自分が行って、どんな物があるのか見て決めたい。

 それができないもどかしさ。


 黒髪だからなんだって言うのだ。

 理不尽すぎて、アリスは鬱々としていた。


 看板のことを考えていると、憂鬱になってくるので、アリスは馬車に戻り、トリアンの地図に先ほどの虹蛇がいた場所を書き加えておいた。

 虹蛇なんて、初めて聞いた。

 見た目は完全に蛇のようだったけれど、あれもドラゴンの一種だという。

 鱗は虹色に光って、綺麗だった。


「栄養が豊富……? 豊かな土地」


 レオンが言っていた言葉を思い出し、アリスは呟いた。

 ということは、あの虹蛇を埋めた周りに育成が難しい植物を植えてみるのもいいかもしれない。もしかしたら上手く育てば、トリアンの名産になる可能性だってある。


「うん、それがいい!」


 アリスはそう決めて、地図に育てようと思っている植物の名前を書いておくのだった。

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